【第29話】僧侶のリュウタロウと出会う
(ふう、やれやれ)
依頼を終えてそのままギルドへ向かうとお姉さんの前には10人ほど並んでいた。
お約束なのでお姉さんの列に並ぶ。
「次の方~ あ、ユージさん」
「お疲れ様です。 依頼終わったので確認お願いします」
ちょっとお疲れ気味の顔になっているお姉さんに俺はねぎらいの言葉をかけた。
「ユージさんは元気いっぱいですね」
「いや、俺はヒーリングで回復してから来たので・・・かけましょうか?」
「あら、いいの? MPに余裕があるならお願いしちゃおうかな?」
「今日は無料です、ヒーリング」
俺は小声で回復の魔法をお姉さんにかけた。
「ああ・・・効くぅ・・・現役冒険者のヒーリングは格別ね」
「そうですか?」
「ええ、街のヒール屋さんとは効きが違うわ。本当にCランクの冒険者なのね」
「ありがとうございます」
「あ、そうだちょっと待ってて、返事が来たってさっき言われていたの」
「お」
受付けのお姉さんはカウンターの後ろの席に行って、いくつかの封筒からおそらくリュウタロウさんの封筒を探し出してこちらへ戻ってきた。
「こちらね。えっと、ギルドから出した手紙だから開封済みなんだけど」
「はい」
「今は北エリアの街に居たんだけど、用事も済んだから南エリアのギルドまで来るそうよ」
「おお、よかったです」
「無事に会えそうで、よかったわね」
「はい」
◇◆◇◆◇◆
次の日
「次の方~ あ、ユージさん」
受付けのお姉さんが俺に気づいた後に、俺の斜め後ろを見てうなずいた。
「いらっしゃっていますよ、リュウタロウさん」
「えっ」
俺は慌てて後ろを見る。
男の人が歩いて来た。
「よう、お前がユージか?」
「はい」
「そうか、じゃああっちの酒場に移動しようか」
「はい」
「ちゃんとお礼を言いな」
「あ、お姉さんありがとうございました」
「いいえ、いってらっしゃい」
「はい」
◇◆◇◆◇◆
「弟子か」
「はい」
俺はラティス村の受付けのおじさんから渡された紹介状を目の前のリュウタロウさんに手渡した。
「ご注文はありますか~?」
「ジュースは何がある?」
「リンゴ、オレンジ、ブドウがありますよ」
「ユージ、どれがいい? 3秒で決めろ」
「えっ、リンゴで!」
「じゃあリンゴジュース2つ頼む」
そういってリュウタロウさんは小銭を台に置いた。
「はいただいま~」
リュウタロウさんは目をつむり考え始めた。
リュウタロウさんは、年齢は40歳ほど
身長は180cmほどで、ガタイが良く、僧侶って感じではない。
僧侶の要素と言えば豪華な白を基調とした青い模様が入った杖を持っていることぐらいだ。
格好もかなりラフで・・・まあこれは街中だからかもしれないか。
「・・・で、大事なのは、技術と、人を殴る度胸、そしてそれを行使するか、やめた方がいいかの判断って所だが、
これを習いたいってことでいいのか?」
「はい」
「で、お前ランクはCなんだよな」
「はい」
俺は冒険者カードを取り出しリュウタロウさんに見せた。
「ふむ・・・どれぐらいで身につくかはわからんが、いいぞ」
「ありがとうございます!」
「よし、じゃあジュースで乾杯だ」
ちょうど後ろからジュースを両手に1つづつ持ってやってきたお姉さんが
にっこり笑いながらジュースを置いていった。
「乾杯」「乾杯」
ごつん、ばしゃ
ジュースがこぼれた。
ごくごく。
「うまいな。たまにはリンゴジュースもいい」
「はい、師匠」
リュウタロウ師匠はじろりと俺を見て、にやりと笑ってまたジュースに口をつけた。
俺はビシャビシャなテーブルをクリーニングの魔法でキレイにしてから口を開いた。
「入門料はどれぐらいになりますか?」
「金か。・・・じゃあこれぐらいは払ってもらおうかな」
そういってリュウタロウ師匠はテーブルにすこし薄手のグローブを置いた。
「おまえの分だ」
「あ、ありがとうございます」
「120万ゼニー」
「高っ!」
「それが買える工房もそのうち教えてやる」
「ありがとうございます」
「修業はどこでやるかな・・・」
すると隣でガタリと音がして酒に酔った男がこちらのテーブルにやってきた。
余裕のない顔をしていて少し怖い。
師匠、助けて!
「・・・なあ、あんたら。
横から急に声をかけてすまねえんだけど、俺、貸道場やってんだけど、どうだろうか?」
「ん?貸道場か、空いてるのか?」
「空いてる、あまりまけられないが安くもする」
「・・・じゃあ一度見に行ってみるか」
「助かる」
「こっちも助かる。いいって事さ。
ただしあまりにもボロボロだったりしたら、断る」
「もちろんだ。
兄さんは名前は何て言うんだ?」
「兄さんって年でもないが、リュウタロウだ」
「そうか、リュウタロウが入ってきた時から気になってたんだ。
すごいガタイで。
それで弟子を取るって聞こえてきて、途中から味が分からなくなるくらい緊張したよ」
「それは脳みそが俺らを勧誘することに全力を注いだって事だろうな、味覚に割り振ってた分ストップさせて」
「ああ・・・多分そうだろうな。
いや済まねえ、助かったよ、少年もいいタイミングで弟子入りしてくれたな、ありがとう」
「いえ、俺は・・・」
困った顔を師匠に向けると、ふんっと鼻で笑うリアクションが返ってきた。
「いいから頼んだつまみは全部食えよ。それぐらい待ってるから」
「あ、ああ、一緒に食おう」
男は自分のテーブルに戻ると、ナッツなどのつまみが入った皿を持ってきた。
これだけで一食分はあるのではという量だ。
「いただきます。もぐ・・・うまいですね」
「そうだな」
(実家へのお土産に・・・いや遠すぎるか)
「そういえば師匠はテレポートは使えるんですか?」
「使えるぞ」
「おお、どんな感じなんですか?」
「どんな感じか。そうだな、
移動したい場所をイメージした後、その場に自分がいるというイメージを重ねる感じだな」
「数人で移動可能なんですよね」
「そうだな」
そういって師匠はナッツをつと掴みして口の中に流し込んで豪快に咀嚼を始めた。
しばらくして
「よし、いくぞ」
「へい、案内します」
「ごちそうさまでした」
◇◆◇◆◇◆
「ここです!」
そこはギルドから15分ほどの場所で、昨日クリーニングをした宿とは反対側にあった。
1区画まるまる道場になっている。
「あれ、お父さんお客さん?」
俺と同じぐらいの女の子がカウンターから身を乗り出し声をかけてきた。
「ああ、そうだ少し安くするぞ」
「うん、いらっしゃい!」
「ああ、その前にまず中を見せてもらってもいいか?」
「はい、もちろんです、こちらへどうぞ」
中に入ると、白い線で4つに区切られた区画があり、
そのうちの1つは冒険者と思われる人が数人で素振りをしていた。
「床の状態も悪くないな」
「はい、実はあの巨大な森の木を使った床で、
どんなに傷んでもHPポーションをかけると次の日にはもとに戻るの」
「あれは普通の板材に比べると10倍以上だったと思うが・・・それで懐が寂しいのか?」
「お恥ずかしい話ですが。
数年前の床の張替えの際に、お父さんがどうせならと・・・
まあ私が受け継いだ後、面倒な床のいろいろな手間を省いてくれようとしていたのは分かっていたので文句は言えないんですけどね」
「そうか、物はいいものだから、大事にするといい」
「ありがとうございます」
「よし、この1区画をまずは1か月借りたい」
「「ありがとうございます!」」
俺はドキドキしながら一か月どれぐらいかかるのか聞き耳を立てたが
残念ながら聞えなかった。
支払いはリョウタロウさんがした。
◇◆◇◆◇◆
道場の利用規約でここで寝泊まりは出来ないとのことなので、
俺と師匠は近くの宿を取った。
ここも師匠がお金を出した。
独り立ちするまではお金は師匠が出す方針らしい。
その代わり全力で言いつけ通りの練習をすることを厳命された。
「まず朝一は本を読め。
その後朝食を取ったらまずは型の練習からだ。パンチ、キック、ブロック、これをまず練習してから
魔法のスピードアップ、プロテクションの同時発動を練習する。
これが出来たら後はひたすら組手をして、人を殴るのに躊躇がなくなるようにする。
後は殴り倒した相手への罪悪感に対しての心の折り合いのつけ方とかか・・・?」
基本は体が覚えるまで繰り返し同じ練習となるらしい。
本は、好きなものを読めばいいらしい。
読んだらノートにまとめてから売って、違う本を買う。
数をこなしてもいいし、じっくり理解するまで読んでもいい。ただし一度読み終えてから1週間後には売る。
とりあえず最初の1週間は「僧侶の手引書」を読むと言って見せたら、それはお前の本だから売らなくていいと言われ
本代として1万ゼニーを手渡された。
ちなみに120万ゼニーのグローブ台はまだ回収されてはいない。




