【第20話】隣の大陸へ③
地底竜の回廊に挑んでから10日が経った。
俺は1日のかなりの時間をダンジョンの中で過ごすようになっていた。
いろんな分岐をすべて試して、下へ降りたり上に登ったりして、
だんだん洞窟が、人工的な神殿っぽい感じの造りになってきて、
とても大きな開けた場所、闘技場のようなところに出たとき、
ようやくゴールらしきものが見えた。
闘技場を挟んだ向こう側に上に上る石の階段が見えたのだ。
(地下闘技場・・・!
なんてものがあるんだ、随分とボロボロだけど。
しかしこいつらが問題だな)
目の前には数百を超える魔物が徘徊していた。
見えない場所にもたぶんもう少しは居そうだ。
このまま突っ込んだら跡形もなく平らげられてしまいそうだ。
(とりあえず、減らすか)
俺はハンドガンを仕舞い、ライフルに手をかけ実体化させた。
弾数は20。
(硬そうなムカデからいくか)
俺はライフルでムカデを20匹仕留めた後、レーザサイトだよりに遠距離から更に20匹ほど魔物を倒していった。
帰りもあるのでほどほどにしておいた。
◇◆◇◆◇◆
「おかえり、無事だったようだね」
「ただいまです、とうとうゴールっぽいところに行けましたよ」
「ほう、どんな場所だった?」
「すごく広いところで、めちゃくちゃ魔物が徘徊してて、その向こう側に石の階段が見えました」
「おお・・・そうかぁ・・・」
「ゴールですか?」
「うん、間違いなくゴールだね。 いやぁ早すぎるよユージ君。 またさみしくなるなぁ」
「お友達沢山いるじゃないですか」
「いつも同じ顔だからさ」
「まあ、そうですね」
「それで、行けそうなの?」
「行けますね、少しづつ減らしていくしかないので、時間はかかりそうですが」
「そっか。まあ焦って無理だけはしないようにね」
「はい」
◇◆◇◆◇◆
それから5日をかけて闘技場エリアの魔物を倒し続けた。
次の日に行くと少しだけ数が戻っていたが、5日連続で数を減らしたので最初と比べると魔物の密集度はスカスカになっていた。
おかげで少し周りを探索することもできた。
(宝箱はないか。
さて、明日には抜けられるかもしれないな)
よく考えたら、あの先を抜けたとして、そのまま安全な街になっているかというのも分からない。
このまま心もとない弾数で行くよりかは、明日最短でここまで来て、ここもまっすぐ、最短で突っ切るのがいいかもしれない。
俺は闘技場の真ん中に降りて周りを見渡しながらそう算段を立てた。
◇◆◇◆◇◆
「たぶん、明日には抜けられそうです」
俺は宿屋の食堂でみんなにそう言った。
なんて言い出せばいいか分からず悩んでいたら、
兵士のおじさんがわざわざ進捗を聞いてくれたのだ。
みんな祝福をしてくれた。
寂しくなるけど、うれしい。
俺が口下手であまり話さないから、みんながいろんな話を聞かせてくれた。
みんなのことをいろいろ知って、だから俺もさみしい。
俺が向こうの大陸で魔石をギルドに納品したら、こっちでもわかるから、真っ先に魔石を売るよう言われた。
心配させないように、必ずすぐに売りに行くと約束した。
◇◆◇◆◇◆
「では、行ってきます」
「おう、気を付けて行けよ」
「はい」
「またいつか遊びに来てよ、これで一生のお別れって寂しいからさ」
「わかりました、何か、おいしいお菓子買っていきますね」
「それはいい」
ここはお酒、たばこは禁止なので本当に娯楽が少ないってよく愚痴られていた。
しかしみんな分を買うとなると、お金は余裕だろうけど、どうやって持ってくればいいんだ?
「向こうでもがんばれよ」
「はい」
「どうしてもだめそうだったらここに戻って来いよ、ここで修行すればいいよ」
「その時はまたお世話になります」
「ちゃんと水筒に水入ってるか?」
「ええと、はい、大丈夫です」
「よし、そろそろ行かせてやろう、あんまり長くやっても仕方がないだろ」
「そうだな」
「短い間でしたけど、ありがとうございました。行ってきます」
「おう、行け!」
「頑張れ!」
「元気でな!」
「元気でやれよ!」
「はい、皆さんもお元気で!」
最後に頭を下げてから手を振り、俺は地底竜の回廊に足を踏み入れた。
(結構年配の方もいたし、1年に1回はあそこに帰ってみようかな。もちろん実家にも帰りたいし)
◇◆◇◆◇◆
タァン!
「・・・よし」
俺は闘技場の入り口で、接敵しそうな魔物をライフルで10匹ほど倒した。
もうほとんどモンスターはこのエリアには居ない。
後は注意しながら出口まで進むだけだ。
闘技場のステージを超え、観客席を超え、石の階段まで来た。
周りを見回すが、問題はなさそうだ。
つい10日前までは、この観客席にもたくさんの魔物がいたが、今は休日かと思うほど誰もいない。
階段を上がりつつ、ぬっと出てきたどくろグモキングをヘッドショットで倒し、魔石を拾ってまた登る。
5分ほど登り、振り向くと闘技場ははるか下にあった。
時々踊り場があり、その左右には横に伸びる通路もあるが、全部崩れ落ちていて先には進めなかった。
力があれば、がれきをどけて室内らしきところにも入れそうだが、俺ではギフトを使っても無理そうだった。
(まあ余裕があるときにまた見に来ればいいか)
更に5分ほどかけて、とうとう一番上まで来た。
通路がまっすぐ壁の中に続いている。
「はぁ・・・はぁ・・・ちょっと休憩だ・・・」
俺は気合で頑張ってくれた右足と左足にヒーリングをかけて労いつつ、息を整えた。
水を飲み、1分ほどして立ち上がる。
「この先がゴールだって言ってたな」
ゴールであり、スタート地点だ。
「ここは・・・」
通路を進み、小部屋に入ると、大きな丸い水晶が部屋の奥に浮かんでいた。
足元には読めない文字が書かれていたが、それが神聖な雰囲気を出していた。
「触ればいいのか?」
俺が水晶に手を伸ばした時、急にピリッとした物が頭を駆け抜けた。
(っっ、なんだ?)
すぐに方向感覚が失われ、今ちゃんと立てているのか、倒れこんでいるのかさえ分からなくなった。
10秒ほどすると、急に方向感覚から視覚、聴覚などが戻ったのが分かった。
いつの間にか目も見えなくなっていたようだ。
「・・・あ、さっきと違う部屋になってる!?」
部屋の構造はそのままに、少しづつ部屋の様子が違ったのが分かった。
まず、全体的に部屋が苔むしている。
水が何度か入ったのか、地面から10cmのところまで汚れた形跡があってさらに汚い。
よく見ると部屋の形に添って、10cm幅の水路があった。
おそらく入ってきた水を排水するためのもののようだった。
まあそのくらいだ。
ここにとどまっていても仕方がないので、俺は通路に向かって歩き出した。
◇◆◇◆◇◆
「うおお・・・」
10秒ほど歩いただろうか。
通路から外に出ると、そこは巨大な木の下にできた根っこの空間だった。
とにかくでかい根っこが何本も上から降りてきて、地面に突き刺さっている。
日が当たらないからか結構寒い。
足元は黒い土、小さな砂利が沢山。
まっすぐ行くと外へ出れそうだ。
ざくざくと歩いていると、急に前から声がした。
「おい、誰かいるのか?」
若い声だった。
「お前、その中から出てきたのか?」
「俺のことですか?」
「ああ」
陰になっているところから現れたのは、25歳くらいのガタイのいい男だった。
短髪で、赤い髪で、なぜか上半身ははだけている。
いきなりひとが居た。
「レオン、どうした? 誰かいるのか?」
「ああ、お前・・・俺はレオンっていうんだ。お前はツクシの大陸から来たのか?」
「はい、ツクシの大陸から来ました」
レオンという赤髪の男が感動したような様子でそう聞いてきた。
その後ろからは3人の男女が姿を現した。
「ツクシの大陸の人! 初めまして、私はユミルって言います! 狩人です!」
「えと、名乗るのか? 俺は剣士のグレイだ」
「私はボタン。僧侶よ」
「俺はレオン、格闘家だ、よろしくユージ!」
「俺はユージっていいます」
俺がグレイに握手をされた後、がっしりとハグをされた。
とりあえず、歓迎されているようだ。




