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【第02話】遅れて出発

「ユージ?」


家に着くと、朝に分かれたばかりの父がいた。


昨日で両親が行ってくれた激励(げきれい)&お別れ会の時に、

お酒を飲みすぎて、トイレに行く途中で俺に何かを言おうとして振りむいた時に足をひねってしまい、

今日の見送りを断念した、なんとも締まらないお調子者の父だ。


父がさっきの場にいたら、怒り狂って相当ややこしい事になっていただろうな。


「それがね、あの子たちはリズちゃんと旅に出ちゃったのよ」


「はあ? 誰それ」


「この村の子でしょうに」


俺は父と母が話している横を通り抜ける。


「ちょっと、部屋に戻るよ、今後のことも考えたいし・・・」


「おう」


「あ、お昼ご飯は食べるわよね? って、朝におにぎり渡したんだっけ」


「うん」


「じゃあ出して、みんなでお昼に食べましょう、おかずも作るわ」


「うん、お願い」


「ユージ」


「うん?」


「悩め、そして元気出せ!」


「うん、ありがと」


俺は気合の入った顔をして、両親にサムズアップをしながら階段を上がった。


もちろん強がりだ。

落ち込んだ姿を両親に見せるのはなんかいやな気がして。


俺は部屋に入ると荷物を床に置いて、ベッドに座り、そのまま仰向けに寝転んだ。


「はぁ・・・終わってる」



◇◆◇◆◇◆


「やっぱ俺も村を出るよ」


「おう、そうか」


3日後、俺は悩んで悩んで出した答えを両親に伝えた。

まあ、答えは最初から出ていたようなものだったけど。


父はいつも通りで、母も少し困った顔をしながら、何度もうなずいてくれた。

ちなみに俺の1日3回のヒーリングで、父のひねった足は完治している。



「しかし僧侶1人で、どうやってやって行くんだ? 死にに行くわけじゃないだろう?」


「そんな訳ないでしょ。

 とりあえず王都に行って、僧侶を募集している人がいないかを探そうかと思ってる」


「それはいい。

 仲間がいないと人間ってのはすぐコロっといっちまうからな」


「そうね、ユージ1人で旅をするっていうんだったら不安だけど、お友達が居るんなら安心よね」


母は1人でと言ったが、村から王都までは魔除けの結界が張られた道を行くので問題ない。


戦いたい場合は道から外れて、30メートルも行くと普通に魔物が襲ってくる。

やばくなったら道へ戻れば、モンスターも嫌な顔をしながら戻っていく。

そのくらい安全だ。



ちなみに、1年に1回、高レベルの僧侶のいるパーティーが、王都で受けた結界張りの依頼で村までくるのが恒例で

道に結界を張りながらやってきて、村の周りにも魔除けの結界を張ってくれるのだが、

俺に僧侶の適正が出てからは父親に言われて見学させてもらったりもした。


元々この村にも僧侶は居た。

冒険者を引退した人だったけど、

俺の適正が発現する3年ほど前に高齢のため他界されていた。



自分はまだ使えないけど、手順はノートにしっかりとまとめてある。

高レベル僧侶のお墨付き。


あとはレベルを上げて、使えるようになるだけだ。



話はそれたが、そういう訳で一人でも王都へは行けるのだ。

他の村人も時々王都へ行っている。

歩いて半日なので戻りは泊りがけになるが。



「いつ行くんだ?」


「荷造りは出来てるから、明日行ってみるよ」


「おう」


「お昼と、夜用におにぎり作るわね」


「うん、お願い」


「腹減ったら戻ってきてもいいからな」


父親がニヤリと笑いながらそう言った。


「うん、その時は恥ずかしそうにしながら戻ってくるよ」


「当たり前だ、これで堂々と帰ってきたら、こっちが恥ずかしいわい」


すでに一回、このやり取りは

先日行われた激励(げきれい)&お別れ会の時にやっている。


このやり取りの何が面白いのかは分からないけど、父はうれしそうに笑うから付き合ってる。


まあ、「いつでも帰って来い」と、もう一回言ってくれているようで、ちょっとはうれしかった。

あの3人と旅に出ていたらそうもいかなかったと思う。


今は俺一人だからできるなと思うと、ちょっと心が軽くなった。



◇◆◇◆◇◆


「じゃあ行ってくるね」


「おう、気張れよ」


「気を付けてね」


「うん、では」


翌日、俺は両親に見送られ村を出た。


他に見送りはない。

今日出発することを誰にも告げなかったからだ。



村を出てしばらくして振り返ると、まだ両親は村の入り口にいて、手を振っていた。

手を振り返し、サムズアップをする。

父がサムズアップを返したところで曲道(まがりみち)で村が見えなくなった。


「・・・」


とたんに一人であることに少しさびしさを覚える。


王都へは何度か行ったことがあるので、さびしいけど不安はないので足は止まらなかった。


歩きながら風景を楽しんでいると大きな道に出た。

こっからはまれに馬車なんかも走ってくるようになるので注意が必要だ。


俺は右を見る。

ハシル村がある方向だ。

馬車は見た限りは走っていない。


俺は道の左端(ひだりはじ)へ寄ると、王都の方向に向かって歩き出した。



◇◆◇◆◇◆


母親が入手した情報によると、

俺のパーティーメンバー3人と出発したリズちゃんとやらは、

両親からヒーリングを使えるようになるまではダメだと言われていたらしいが

あっという間にヒーリングが使えるようになってしまい、約束通り旅の支度をしたんだとか。


で、ちょうど俺のパーティーが王都へ行くという情報を得て、

僧侶が居るらしいことも知ってこのパーティーにお願いしてみようという話になったそうだ。

村の男の子3人が守ってくれるのではないかと期待をして。

それを聞いて狂ってるのかと思った。



「ヒーリング自体は、適性が出てしばらくしたら、1日1回は使えるようになるんだよなぁ・・・」


効果の高さや使える回数は、覚えた後の瞑想や治るイメージの復習とか、何度も使うことで向上していくのだ。


「リズちゃんとやらは、たぶん効果の弱いヒーリングが1日1回使えるぐらいとみた」


切り傷も治らない、かすり傷の血が止まるぐらいだろう。

俺がそうだった。


忘れると決めたのに、気づくと先に出て行った4人のことばかりを考えていた。

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