【第19話】隣の大陸へ②
「地底竜の回廊」
ダンジョンアタック1日目
「行ってきます」
兵士のおじさんたちに見送られ、俺はダンジョンに足を踏み入れた。
「あれ、ここは明るいな」
ダンジョンに入ってみると明るいことに驚いた。
中は床や壁、天井が光っており、LEDライトや暗視ゴーグルがいらない状態だった。
他のダンジョンもこうだったらいいのに。
俺は気を取り直し、右手にハンドガンを実体化させた。
「今日もたのむぞ、相棒」
俺はハンドガンのレーザサイトをONにしてから歩き始めた。
30分後
「ふう・・・」
ここに来るまでに今まで見たことがない魔物が何度も襲ってきた。
浮かぶ水晶やら、緑色の小柄のおっさん(たぶんゴブリンだ)、
そのほかにも装飾のあるツボが単体でずずず、っと音を立てながら近づいてきたので
ひいっと小さな悲鳴を上げながらハンドガンで撃ったりもした。
「結局は全部魔石になるんだけどね・・・」
それでもしんとしているダンジョンで初見だし、かなり精神的負担が大きい。
今までの魔物と違って、攻撃を受けたら痛そうというのも負担にちょっと貢献してくる。
「まあ、1撃なんだけどね」
そう、今のところ、ハンドガンの1撃で倒せてきている。
だからその分心は軽い。
あと全体が明るいのも負担は軽い。
プラスマイナス、 ・・・ちょいマイナスかな?
「っと、これは、宝箱か?」
ここにきて、初めての宝箱だ。
噂には聞いていたが、実在していたのか・・・。
しかしさっきの動くツボが頭によぎり、これはもしや動くツボの箱バージョンでは?という可能性に行きついた。
タン!
とりあえず宝箱のふたの部分を撃ってみた。
穴が開いた。
特に何も起きないようだ。
俺は用心のため杖の先を、空いたばかりの風穴に差し込んで持ち上げてみた。
「お? お?」
俺は器用に杖で宝箱を開け、中を覗き込む。
「おお! 本物の宝箱だったか」
中には水色の大きな宝石がついた指輪がクッションの上に置かれていた。
「これは何かのマジックアイテムかな?」
適正が商人ではないので正体は分からない。
ちょっとわくわくしながらリュックの中の小袋にしまう。
呪いのアイテムの場合もあるから分かるまで装備をしてはならない。
冒険者の基本だ。
宝箱があった道はここで行き止まりのようなので、引き返した。
◇◆◇◆◇◆
「お、ユージ君お帰り」
宝箱を発見してからさらに数時間。
その後しばらくウロウロしてから、俺は入り口に戻ってきた。
まだ太陽は高い位置にある。日が沈むまで、あと3時間ほどか。
俺に声をかけてくれたのはここの兵士さんだ。
槍を持っていない右手を軽く上げて声をかけてきてくれた。
「ただいまです」
「お疲れ様、特に怪我もないようで良かったよ」
「はい、このダンジョンは明るくてすごく助かりました。奇襲を受ける心配もなさそうで」
「そうだねぇ、ランタンがいらないのがとても助かるよね。
話によると、アギリの大陸のダンジョンも明るいらしいよ」
「そうなんですか」
俺が歩き出すとおじさんもついてきたので不思議そうに顔を見てしまった。
「ああ、おじさんも帰るよ。 もう今日のノルマも終わっているし、結界があるからね」
「そうなんですね、うちの村だと結界張ってあるんですけど夜警があるんですが」
「ははは、ここの結界はお城並みのとても強いのが張られているんだよ」
「ああ・・・」
「村とかだとレベルの高い冒険者の僧侶が、1年ごとに結界を新しくしてくれるけど、
お城や、こんな場所の場合は、結界士が結界を張るんだ」
「結界士って、かなりレアな適正なんですよね」
「そうだね、10年に1人生まれるかどうかだったかなぁ」
「すごいですね、会ったことありますか?」
「何度かあるよ、いつもここに来る人の年齢はそうだなぁ、きっとユージ君のお父さんぐらいじゃないかな」
「え、なるほど」
てことはおじさんと同じぐらいの歳では?
「さて、宿に戻る前に魔石を売りに行くだろ?」
「はい」
このダンジョンはモンスターの沸きはあまりよくなかったが、それでも50近くの魔物を倒していた。
料より質って感じだった。魔物の質だけど。
「さてここだ。おじさんも入り口で魔物を倒したからね」
おじさんが自分の腰に下げていた20cmの小さな袋を指さした。
袋は少し膨らんで重そうな形をしている。
「結構来ましたか?」
「今日は20匹くらいかな」
「そんなにですか。って、おじさん結構強いんですね
「でしょ。冒険者のランクでいえば、BよりのCだそうだよ」
「おお、だったらめちゃくちゃ強いですね」
「ふふ、まあこの槍を使っている時だけなんだけどね」
おじさんは槍を掲げて見せた。
「槍使いなんですね」
「ん~違うね。
おじさんは槍使いの上の、短槍使いという、武器特化型の適正なんだ」
「おお」
武器特化型の適正を説明するには、その下の適正もセットで説明する必要がある。
戦士>槍使い>短槍使い
※右に行くほどレアで武器を選ぶようになるが強力。
簡単に言えば上の図の通りだ。
戦士はうまく扱える武器の種類が沢山あるけど突出した強さにはなりにくい。
ある意味器用貧乏のような適正となる。
その上の剣士や槍使いは武器の系統が決められた適正で、
槍使いだったらどんな槍でも力を発揮できる。
その上が、短槍使い、長槍使いなどの武器の種類まで絞られた適正だ。
適正で指定された武器に限り、神がかった戦闘能力を発揮することができるのだ。
適正により、到達できるランクもおおよそ決まる。
しかし努力によっては1つ上のランクに達することも十分可能ではある。
ちなみにユージの僧侶はこんな感じとなる。
僧侶>結界士>賢者
僧侶は、回復魔法、結界魔法、移動魔法、魔物限定で攻撃になる聖属性攻撃の魔法が使える。
たくさんのことができて便利だが、1つ1つはそこまで強力ではない。
レベルの高い場所へ行くと全部が今ひとつ足りない使えない魔法になってしまうのだ。
つまり僧侶は短槍使いの逆で、器用貧乏。
「さあ、ユージ君からどうぞ」
「ありがとうございます、それでは」
王都のギルドのような大きな建物に入ると、ちょっとにぎわっていた。
ここには武器屋、防具屋、道具屋、そして魔石の買取スペースがあった。
俺は魔石の買取スペースで、カウンターに置かれた箱に魔石の入った袋を傾けて魔石を移した。
「たくさん持ってきたね」
「頑張りました」
「本当に初日? 期待の星だなぁ」
そういいながら、カウンターにいたおじさんは素早く魔石を種類ごとに分けた後、計算をしてくれた。
「それでは発表するよ。
風のクリスタル×3
ゴブリン×8
壺の魔物×4
どくねずみ×15
どくろグモキング×15
だいおうむかで×12
デスローブ×12
だね、なかなかやるじゃん」
「「「おお~」」」
周りから歓声が上がった。
いや、多分みんなこのぐらい倒せるんだろうけど、子供の俺が倒したから歓声があがったのだろう。
「風のクリスタルは1体2,000ゼニー、これを3なので6,000ゼニー。
ゴブリンも1体2,000ゼニーで8体だから、16,000ゼニー、
壺の魔物も1体2,000ゼニーで4体だから8,000ゼニー、
どくねずみが1,500ゼニー×15だから、22,500ゼニー、
どくろグモキングが3,000ゼニーで×15だから、これも45,000ゼニー、
だいおうむかでが3,500ゼニー×12で42,000ゼニー、
デスローブが4,000ゼニー×12で48,000ゼニー、
合計187,500ゼニーだ」
「おお」
こちらの金額には俺以外、誰も驚いた声は出さなかった。
まあ、王都にいるころと変わらないんだけどね。
ただ、おおよそ半分の数しか倒してないのに、王都と同じになったのがすごいと思ったところだ。
俺はギルドカードをおじさんに渡した。
「ほい、いいな?」
「はい」
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残高: 5,201,000
入金:187,500
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チンっと小気味の良い音がして、液晶の数字が変わった。
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残高: 5,388,500
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実家へのお土産で少し減ってたが、あっという間に回復したな。
「あ、そうだ、これ見てもらえませんか?」
「ん、指輪だね」
「はい、ここのダンジョンの宝箱から出ました」
「『鑑定』・・・これはMPタンクの指輪というマジックアイテムだね。
装備しておくと余剰分のMPがこの指輪の中にストックされて、
魔法を使うと、即座に体に消費した分のMPが補充されるものだよ。
これは最大30まで貯めることができるね」
「ヒーリング10回分ですね」
「そうだね、とても有用なものだ。使わないにしても、売らない方がいい」
「わかりました。・・・・それで売ったら幾らになります?」
「ん?、これだと3000万ゼニーだね」
「おお・・・」
頑張れば意外と届きそうな価格だな。
「大事にします。ありがとうございました」
俺はそう言って買取屋のカウンターからずれる。
横で見ていたおじさんは自分は清算せずにこっちに話しかけてきた。
「ユージ君は武器を使わないからこっからさらに減るものはないからいいね」
「え、ああ、おじさんは槍のメンテナンスがあるんですね」
「うん、数日に一回ね。あそこの武器屋に見てもらうんだ」
「へぇ」
「防具が壊れたときとかは、隣の防具屋だね」
「なるほど」
「さて、話を聞きたいところだけど、ご飯までまだ時間がある。
今日は疲れただろから、ご飯までは部屋でゆっくりと休むといいよ」
「ありがとうございます、気を張っていたのでちょっと疲れました」
「うんうん、宿屋はここの隣だから、そこの出入り口から出で右に行くとわかると思うよ」
「ありがとうございます、それではまた」
「はい、ご苦労様でした」
「ご苦労さんー」
俺は手を振ってくれるみんなにお辞儀をして建物を出た。
みんなは余裕ありそうだったな。




