【第17話】家族団らん
「大荷物だな」
「はい、実家に顔を出しに行くんです」
俺は今西門の冒険者用の出入り口にいた。
俺がタッチした石板は、当然青く光った。
「そうか、親孝行だな、通っていいぞ。気をつけてな」
「はい、では行ってきます」
俺は重くなったリュックを背負いなおしアルク村へと歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆
「そろそろ昼にするか」
俺は道の端っこにリュックをそっと下し、その横に座って一息ついた。
「このリュック、すぐずり落ちるんだよなぁ。
このジャケットと相性が悪いのかなぁ」
空を見上げると、名前の知らない鳥が旋回していた。
「よし、ご飯ご飯」
俺はリュックから西門の横に店を構えるサンドイッチ屋のサンドイッチを取り出し噛り付いた。
「うまうま」
俺が座って休んでいる前を、冒険者たちが通り越していく。
地図によるともう少し先にダンジョンがあるらしい。
しかしこっちのダンジョンは人気がないな。
東のダンジョンの3分の1ぐらいしか人が歩いてない。
「ああ、数も関係あるか」
西のダンジョンはこの先の1つだけだが、
東のダンジョンは歩いていける距離に2つもダンジョンがある。
さらにずーっと行くと、地方都市にたどり着く道だ。
それで交通量も違うのかもしれない。
「それに比べてこっちの道は、アルク村とハシル村にしか行けないからな」
俺は水でのどを潤してから立ち上がった。
◇◆◇◆◇◆
コンコン、ガチャリ。
「ただいま」
「え? ユージかい?」
「うん、顔見世に来たよ。あと報告とか・・・」
「おお~しっかりやってるんだね! かっこいい!」
「・・・そうかな。 父さんは?」
「夜警終わって今は寝てるわ」
「そっか、いろいろお土産買ってきたよ」
「おう、ユージか」
「父さん、久しぶり」
「起きたのね、お茶入れるわ」
「おう、元気でやってたか?」
「うん。 お土産いっぱい買ってきた」
「なんだ、無理すんなよ」
「余裕だよ」
俺はお土産をテーブルに広げる。
父親にはお酒を3瓶
母親にはネックレス
お菓子とくだもの。
あとは両親に1着ずつの服だ(売店のおばちゃんのアイディア)
両親はそれは喜んだ。
「見て」
「なっ、Cランクだと!?」
「すごいじゃない! え? お友達と一緒にやってるの?」
「ずっと一人でやってる」
「ん? これお前、ギフトか?」
父親が俺のギルドカードを見て名前の横にある☆を指さしながらそう言った。
薄く書かれているのによく見つけたな。
「うん、一人でもやっていける、強い能力が手に入って、それでやってる」
「・・・なるほどなぁ、おまえがギフト持ちか」
そういいながら父親は自分のギルドカードを俺のカードの横に並べた。
Dランク 剣士
「Dだったんだ」
「おうよ」
「Dも結構強いよね」
「お前な、どうせずっとボッチだったんだろ、剣士の強さ知らねえだろうが」
「あはは」
「しかしCランクか・・・早すぎだろお前。まだ1か月だぞ」
「それだけすごいギフトなのね」
「うん、大体というか、この大陸だと、どの魔物も1撃だよ」
「はぁ? お前なぁ・・・」
父親は顔を横に振り、天を仰いだ。
◇◆◇◆◇◆
「そうか。Cランクってことはお前、行くのか?」
「うん」
「あら」
母が親父を横目で見た。
「ん~実はな、俺には前に仲間がいたんだ」
「冒険者の?」
「そうだ。そいつは魔法使いだったんだが、バカみたいに優秀な奴でな」
「うん」
「最初は俺の方がランクも上だったんだが、あっという間に追い抜かれてなぁ」
「そうなんだ・・・」
「で、あいつはCランクになって、さっさとこの大陸出て行っちまったんだよ」
「へぇ」
「置いて行かれたのよね」
「えっ」
「まあ、そうだな。
一緒に来るかとか、そういうことも言われなかった」
「落ち込んで帰ってきたところをコイツにつかまってなぁ」
「なんて言い方をするのよ。もともと結婚の約束してたでしょ」
「そうだな。ガキんちょの頃の約束だったけどなぁ」
「へぇ・・・」
「お前にはいないのか? 結婚の約束した女は」
「いないよ」
「そうか、お前ずっとあの3人と遊んでたもんなぁ」
「遊んでいたんじゃなくて訓練だけどね」
「ハッ。
そういや、あいつらとは会ったのか?王都でよ」
親父は鼻で笑った後に思い出したようにそう聞いて来た。
「うん、顔自体は何度か、昨日は初めて話しかけられたよ」
「ほう」
「あっちはうまくいってないみたいでね、ご飯だかお金をねだりに来て、断ったよ」
「・・・まあそうだろうな」
「たぶん、そのうち村に戻ってくるんじゃないかな」
「そうか」
気まずい空気になったので話題を変える。
「という事で、ほかの大陸に行く前に、一回顔見せと、報告に来たんだ」
「そうか。じゃあまた送迎会をしてやらないといけないな」
「そうね」
「本当?」
「当たり前だろ。だが、いつ出発するんだ?明日じゃないだろ?」
「少しゆっくりしようと思ったけど、特にやる事もないから・・・2日後かな」
「ふーん・・・」
「じゃあ、明日の夜に送迎会をして、朝から出発ね」
「うん。朝から出発して、王都を超えて、北の山に行くよ」
「そうか、教えてもらったんだな」
「うん」
実は隣の大陸へ行くための洞窟は公にされていない。
実際はみんな話ぐらいは知っているけど、行っても門番に止められるし、殺風景だし観光にもならないぐらいの認識だ。
ちなみに地方都市船が来るらしいけど、ツクシ大陸側からは資格がないと乗れないらしいから洞窟一択だ。
この洞窟は俺の買った地図にも書かれていなかった。
Cランクになったときにお姉さんに場所と行き方を教えてもらったのだ。
「父さんは知ってる?向こうがどうなっているのか」
「知るわけないだろ、行ったことねえのによ」
「なんで秘密なのかわかんないんだよね、
隣の大陸の冒険者だって、最初はFからやるんでしょ?」
「それは知らんが、・・・聞いた話によるとこっちの冒険者が弱すぎるから保護するためだって誰かが言ってたな。
そいつはその場でタコ殴りにされていたが・・・案外そうかもなって俺は思ったぜ。くやしいけどな」
「へぇ」
「余生を過ごしにこっちの大陸に来るやつもいないことはないからな」
「そうなの?」
「ああ、あっちのハシル村に数人いるらしいぞ」
「そうなんだ」
「まあ何にも教えてくれないだろうけどな」
「あんまり話さないように言われてるのかな」
「多分な。
ま。行ってみりゃわかるだろ、隣の大陸、名前はなんてんだ?」
「ええっと、アギリって名前らしいよ」
「アギリか」
「うん」
「ねえ、そろそろユージの話を聞かせてよ。
どんな感じでやってるの?」
「えーと・・・」
俺は久しぶりの家族の団らんを楽しんだ。
そして次の日はクリーニングの魔法で家中をキレイにした。




