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【第01話】置いて行かれし者

ここはアルク村。


少し肌寒いが、よく晴れた春の日

俺の予定は思いっきり狂ってしまった。


「しっかりやりますから・・・!」


そう必死な様子で俺に頭を下げるのは、

同じ村に住む2つ年下の女の子だ。


その後ろには、男の子が3人気まずそうな顔をして視線をさまよわせていた。


今日は、この男の子3人と一緒に村を出て王都に行き、冒険者になるはずだった。

しかし母と集合場所の村の入り口まで来て見ると、男の子3人と、女の子がしっかり旅装束姿で待っていた。


「・・・どゆこと?」


「私頑張ります、しっかりやりますから!」


現状が全く飲み込めず、何とかひねり出した言葉に対して、

女の子が返してきた言葉がこれだ。


女の子は最初からこの一点張りで、俺をあきらめさせようとしている事だけは解った。



「ユージ」


後ろから母親が声をかけてきた。

今、村に残る人たちが送り出しをしてくれるために村の入り口に集まっていたのだ。


「母さん・・・」


「これは無理よ、帰ってきなさい」


(はあ?)


母親も何でこんなことになっているのか分かってはいないようだったが、

状況を読んでだろう、そんなことを言った。

母親は顔が引きつっていた。


俺は周りを見回す。

見送りに来ていた村人の8割は困惑していたし、女の子を止めようとしていたけど、

頑張るの一点張りで取り付く島もない状況に、すぐに様子見モードに移行してしまった。


当の女の子の両親は、仕方がないといった顔をしている。


そもそも、この女の子、

サイズぴったりの旅装束に、新しそうな杖まで持ってるところを見ると、それを用意したのはこの両親だ。

どうでもいいが、余った皮で造ったであろうフリルと、フードに縫われている大きな白いリボンなどがかわいらしさを倍増させている。

こっちからしたら、考えるところがちょっとずれているなという印象だが。


そんなことはどうでもいい。

今の俺の心の中は、仲間を取られた、それで埋め尽くされていた。


確かに母親が言う通り、女の子を押しのけて、無理やり3人を連れて村を出ることは難しそうだった。

というか、まずこの3人が女の子を止めようとしてない。

これが一番腹立たしい。


俺たちは仲間だろ!


「みんなはいいのか?」


聞かずにはいられなかった言葉を視線を合わせようとしない3人に言う。

俺の言葉は怒りと悲しさで震えていた。


「まあ・・・な?」

「絶対頑張るっていうからさ」

「俺は僧侶だったらどっちでも」


そうかい。

返ってきた3人の答えに俺の心も決まった。


「わかった、じゃあな」


俺は荷物袋を背負いなおし、杖を握り直し、3人に背を向け家に向かって歩き始めた。

母親もついてきた。


(最悪・・・)




この世界では15歳になると誰でも適正(てきせい)が発現する。

適正(てきせい)は、例えば勇者とか、戦士とかだ。


発現した通りの仕事に()ければ食いっぱぐれる事はないといわれているし、成功しやすい。

勇者とか戦士は戦闘向きなので、冒険者や兵士が成功しやすいし、うまくいけばどっかの騎士団にも入れる。


もちろん適正と関係ない仕事にも()くことができるけど、適性による補助がないため苦労するそうだ。


俺とさっきの男の子たちは年はバラバラだが、大体2~4年位前に15歳を迎え適正が発現している。

そこから訓練とか、お小遣いを貯めたり、村の外で大人たちにサポートしてもらい、ちょっとした戦闘を経験してみたりしながら

準備を進めて、ようやく今日出発、というところだった。


俺に発現した適正は、僧侶。

回復魔法、結界魔法、移動魔法、魔物限定で攻撃になる聖属性攻撃の魔法が使える。

でも一人では戦えない。


他の3人は、戦士2人、魔法使い1人だ。

これなら俺も役に立てる。


かなりバランスがいい構成ということで、この4人でパーティを組むことになったはずだった。



「リズちゃんも僧侶なんだっけねぇ」


横に追いついて軽く体当たりをして来た母親がそんなことを言った。


いつの間にか足が止まっていたことに気づく。

俺が歩き始めると、母親もすぐに横を歩き始める。


「そうらしいね」


「でもリズちゃんは今年15だったでしょ?

 適正が発現したばかりだと、まだ回復魔法も使えないんじゃないかねぇ」


「そうかもね」


俺は発現して2年で苦労して、ようやく1日3回、ヒーリングが使えるレベルだ。


あの女の子はどうなんだろうか。

まあもうどうでもいいけど。


そんなことより俺はどうしたらいいんだろう。

この日のためにあんなに頑張って準備をしてきたのに。

俺は頭の中のスケジュール帳の予定が真っ白になり、頭の中も真っ白になった。

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