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第9話:枯れた森と母の使命

アラン村を後にして数日、俺たちはウルガン山脈を目指して歩き続けていた。道中、父の【重力制御】スキルは、その威力を遺憾なく発揮した。浮遊する魔物や、足元の悪い地形も、父の力で難なく突破できる。もちろん、魔力消費は大きいため、父がスキルを使った後は、母の【治癒の加護】で魔力回復を促すのが日課となっていた。


「父さん、調子はどうだ?」


「ああ、問題ない。だが、これだけ広大な世界を旅するとなると、もっと効率的な回復方法が必要になるな」


父の言葉に、母は心配そうな顔を浮かべていた。母の【治癒の加護】は身体の傷を癒すだけでなく、魔力回復にも効果があるが、対象が一人だと限界がある。


萌は地図を広げ、【魔力感知】で周囲の魔力の流れを確かめながら、この世界の植物や生き物の種類を【鑑定】で調べては、ノートに書き込んでいる。好奇心旺盛な萌にとって、この異世界は宝の山なのだろう。


美咲は、ときどき現れる警戒心の強い小動物たちに【魅力的な笑顔】で話しかけては、その反応を楽しんでいた。【精神感応】で彼らの感情を読み取っているのかもしれない。


「もう少しで、この森を抜けられそうだね」美咲が地図を見て言った。


しかし、森の様子は徐々に変わっていった。


木々の葉は色褪せ、地面には枯れた草花が目立つようになった。空気もどこか淀んでおり、生命の活気が失われているように感じられる。


「この森、なんだか変だよ…」萌が不安そうに呟いた。「魔力の流れが…おかしい。なんだか、乾いてるみたい…」


【魔力感知】で周囲の魔力分布を探っていた萌の言葉に、俺は【空間認識】で探ってみた。確かに、周囲の魔力が異常に薄い。まるで、森から生命力が吸い取られているかのようだ。


その時、遠くから、呻き声のようなものが聞こえてきた。


「なんだ…?」


声のする方へ進むと、開けた場所に出た。そこには、数人の村人らしき人々が、地面に座り込んでいた。彼らの顔は青白く、身体は痩せ細っており、まるで病に侵されているかのようだった。


「だ、誰か…水を…」


村人の一人が、か細い声で助けを求めた。


俺はすぐに【鑑定】スキルで彼らを調べた。


【病に苦しむ村人】


種別: 人族


状態: 深刻な脱水症状と栄養失調。魔力の枯渇による生命力の低下。


解説: 近くの村の住人。この森の異常な魔力枯渇の影響を受けている。


「母さん! 病人だ!」


母はすぐに駆け寄り、村人の額に手を当てた。


「この方たち、ひどい状態だわ…私の【治癒の加護】で何とかしないと!」


母が【治癒の加護】を発動させると、淡い緑色の光が村人たちを包み込む。しかし、その光は普段よりも弱々しく、すぐに消えてしまう。


「だめだわ…この枯れた環境では、私の魔力も回復しにくい…」母は顔を曇らせた。


村人たちの村は、ここから少し離れた場所にあるらしい。しかし、この枯れた森の影響で、村全体が病に侵されているという。


「私たちの村は…この森と同じように…少しずつ、死に向かっている…」村人の一人が、絶望的な声で語った。「何をやっても、畑は枯れ、水は濁り…もう、終わりなんだ…」


その言葉に、母は強い衝撃を受けたようだった。母は、いつも優しく、誰かの役に立ちたいと願う人だ。目の前で苦しむ人々を見過ごすことなどできない。


「母さんと『生命の根源』…この森の枯渇と、何か関係があるのかもしれない」


萌が、枯れた森のさらに奥を指差した。


「お兄ちゃん、この森の魔力が枯れてる中心に、何か大きな建物があるよ…すごく古くて、強い魔力の痕跡がある…」


俺は【空間認識】で萌が指し示す方向を探ってみた。確かに、萌の言う通り、枯渇した魔力の中心に、大きな建造物の気配がある。それは、まるで大地の奥深くに埋もれているかのような、神秘的な気配だった。


「もしかしたら、それが…地殻神殿…?」父が呟いた。しかし、地殻神殿はウルガン山脈にあると聞いていたはずだ。


その時、母が静かに口を開いた。


「私…あそこへ行ってみるわ」


母の目は、普段の優しい眼差しとは違い、強い決意を宿していた。


「母さん!? 危ないよ!」俺が止める。


「大丈夫よ、健太。私には、この人たちを救う使命がある気がするの。そして…この森を、元に戻す方法が、そこにある気がする」


母の言葉は、まるで神託を受けた巫女のようだった。彼女の魂の輝きが、この枯れた大地と共鳴しているのかもしれない。


「でも、お母さん…」萌が心配そうに母の服を掴む。


「陽子さん、無理はしないでください」美咲も止めるが、母の決意は固い。


「心配しないで。みんながいてくれるもの」


母は、そう言って微笑んだ。


俺は、父と美咲、萌と顔を見合わせた。母の決意を止めることはできない。ならば、俺たちができることは、母を支え、守ることだ。


「分かった、母さん。俺たちも一緒に行く。絶対に、無事に戻ろう」


俺は力強く頷いた。


こうして、俺たちは、病に苦しむ村人たちを残し、母の導きに従って、枯れた森の奥へと足を踏み入れた。その先には、母の新たな力が覚醒する場所があることを信じて。そして、この世界の『生命の根源』が、俺たちを待ち受けていることを予感しながら。

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