第8話:父の覚醒と、地殻神殿の予感
父が【重力制御】のスキルを発動させた瞬間、驚くべきことが起こった。
空中に浮遊していた巨大な浮遊石巨獣の動きが、ピタリと止まったのだ。まるで、見えない鎖で縛られたかのように、巨獣は激しく身悶えながら、ゆっくりと地面へと引き寄せられていく。
「グオオオオオオ!」
浮遊石巨獣が断末魔の咆哮を上げた。その巨体が、重力に逆らえず、ドスンッ!と音を立てて地面に激突した。衝撃で、周囲の地面が大きく揺れた。
「やった…やったよ、お父さん!」萌が歓喜の声を上げる。
「すごい…本当に重力を操ったんだ…!」美咲も呆然と父を見つめていた。
父は、肩で息をしながらも、その顔には達成感が漲っていた。
「くっ…思ったより魔力を使うな…」
俺はすぐに父のステータスを確認した。魔力ゲージは、ほとんど空に近い状態になっていた。やはり、【重力制御】は強力なスキルである分、消費魔力も甚大らしい。
だが、これで浮遊石巨獣を無力化することに成功した。
残りの浮遊石巨獣たちは、リーダー格が倒されたことで混乱しているようだ。一体、また一体と、父の【重力制御】によって地面に引きずり降ろされ、身動きが取れなくなっていく。
「今だ、健太! やれる奴を頼む!」父が叫ぶ。
「任せてくれ、父さん!」
俺は【強制収納】を発動させ、地面に落ちて身動きが取れない浮遊石巨獣たちを次々と収納していった。ドスッドスンと地面に落ちた巨獣たちが、瞬く間に光となって消え去る。
あっという間に、すべての浮遊石巨獣が俺の【アイテムボックス】へと収まった。
周囲に静寂が戻り、森には鳥のさえずりが響き始めた。
「やったね、お兄ちゃん、お父さん!」萌が駆け寄ってくる。
「すごいわ、あなたたち!」母も安堵の表情で父の元へ歩み寄った。
父は座り込み、息を整えていた。母はすぐに父の傍らに座り、【治癒の加護】を発動させる。淡い緑色の光が父を包み込み、疲弊した魔力を少しずつ回復させていく。
「ごめんよ、みんな。魔力が切れてしまって…」父が申し訳なさそうに言う。
「とんでもない! 父さんのおかげで助かったんだ!」俺は父の肩を叩いた。
【重力制御】の覚醒。これは、今後の旅において計り知れないほど強力な武器となるだろう。物理的な障壁も、空を飛ぶ敵も、父の力で対処できる可能性が生まれたのだ。
俺たちは、倒した浮遊石巨獣の素材をいくつか【採集】で回収し、アラン村へと戻った。
村では、俺たちの帰りを村人たちが不安そうに待っていた。
俺たちが無事に帰還し、浮遊石巨獣を討伐したことをゲイル村長に報告すると、村中が歓喜に沸いた。村人たちは、俺たちを英雄のように迎え入れてくれた。
「まさか、あの浮遊石巨獣を倒してくれるとは…! あなた方は、まさに神に遣わされし者たちだ!」ゲイル村長は感極まった様子で、深々と頭を下げた。
「いえ、これも、皆さんの助けになりたかったからです」俺は謙遜して答えた。
その夜、アラン村では、収穫したばかりの「風の実」を使った宴が開かれた。風の実で作られた酒は、少し酸味があったが、甘く爽やかな香りがした。村人たちは、歌を歌い、踊り、心から喜びを分かち合っていた。
俺たちは、村人たちからこの世界の様々な話を聞いた。アラン村は、比較的安全な地域にあるが、周囲にはまだまだ危険な魔物が潜んでいること。この大陸の南には、「ウルガン山脈」と呼ばれる巨大な山脈があり、そこには強力な魔物や、未踏の遺跡が数多く存在するらしい。そして、ウルガン山脈の奥地には、古の神々を祀る「地殻神殿」があるという噂も聞いた。
「地殻神殿…か」
村での一夜は、俺たち家族にとって、異世界での初めての安らぎとなった。同時に、この世界で生きていくこと、そして元の世界へ帰るという目標への決意を新たにする夜でもあった。
翌朝、俺たちはアラン村を出発することになった。ゲイル村長をはじめ、村人たちが盛大に見送ってくれた。
「感謝する、旅の者たちよ。あなた方の恩は、決して忘れない」ゲイル村長が深々と頭を下げる。
「いえ。皆さんの力になれてよかったです。この村の平和を祈っています」俺はそう答えた。
村人たちは、俺たちに旅の食料と、ウルガン山脈の簡単な地図をくれた。
「どうか、道中気をつけてな。この先は、危険な場所も多い」
俺たちは、村人たちとの温かい別れを済ませ、ウルガン山脈を目指して歩き始めた。父の【重力制御】という新たな力、そして地殻神殿という新たな目的地。
俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。