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第7話:アラン村の異変と父の覚悟

アラン村。


それが、俺たちが到着した小さな開拓地の名前だった。木製の柵で囲まれた村は、質素ながらも生活の匂いがする。村の入り口で俺たちを迎えてくれたのは、村長のゲイルという年配の男性だった。彼の顔には深い皺が刻まれているが、その瞳の奥には、長年生きてきた者の知恵と優しさが宿っていた。


「遠路はるばる、よく来たな。こんな奥地まで迷い込むとは、よほど運が良いのか、それとも…」ゲイル村長はそう言って、意味ありげに俺たちを見つめた。


俺は改めて、覚えたての言葉で状況を説明した。家ごと転移してきたこと、元の世界に帰る方法を探していること。もちろん、神の声や聖石のことは伏せた。信じてもらえるはずがないと思ったからだ。


美咲の【魅力的な笑顔】と【精神感応】が、村人たちの警戒心を完全に解きほぐすのに役立った。特に女性陣からは、美咲の笑顔に「なんて可愛らしい子だろう」という声が上がっていた。


「ほう、それはまた…奇妙な旅だな」ゲイル村長は顎髭を撫でながら言った。「まあ良い。困っている者を放っておくわけにはいかん。今夜は、この村で休んでいくといい」


俺たちは、村の広場に案内された。そこには、数人の村人が集まっており、皆、好奇の目を向けていた。中には、ゴブリンに襲われたことを聞きつけ、驚いている者もいた。


「まさか、あの森にゴブリンが…最近、おかしいんだ。森の奥から、不気味な気配がするって」


村人の言葉に、俺は【空間認識】スキルで周囲を探ってみたが、今は特に異常は感じられない。


村では、新鮮な野菜と、見たことのない種類の穀物で作られたパンが振る舞われた。日本の食事とは違う素朴な味だが、疲れた身体に染み渡るように美味しかった。


「この野菜、美味しいね!」萌が目を輝かせて言う。


「本当だわ。日本とは違う味がするけど、栄養がありそう」母も笑顔で頷く。


食事中、俺たちはゲイル村長から、このあたりの事情について色々と話を聞いた。この村は「アラン村」という名前で、近くの森から資源を採集し、自給自足の生活を送っているらしい。しかし、最近は森の様子がおかしいという。


「以前は、こんな奥まで魔物が出ることなど滅多になかった。だが、数日前から、森の奥から奇妙な音が聞こえるようになり、魔物が増え始めたのだ」ゲイル村長は深刻な顔で語る。「特に、最近は『浮遊石巨獣』と呼ばれる、空を飛ぶ魔物の目撃情報が増えている。あれは、通常の武器では歯が立たないと聞く…」



浮遊石巨獣。その言葉に、俺は思わず父と顔を見合わせた。父の【剛力の腕】が、力だけでは破れない敵に遭遇する伏線かもしれない。



夜になり、俺たちは村の空き家を借りて休むことになった。家の中に入ると、ようやく一息つける。俺は早速、家を広場に展開した。村人たちは、突然現れた俺たちの家に驚きと畏怖の目を向けていたが、ゲイル村長が「彼らは不思議な力を持つ者だ」と説明してくれたので、余計な騒ぎにはならなかった。


翌朝、村人たちが慌ただしくしているのが聞こえた。外に出てみると、数人の村人が深刻な顔で集まっている。


「村長! また畑がやられた!」


「今度は、収穫寸前の『風の実』が…!」


どうやら、夜のうちに魔物に畑を荒らされたらしい。その足跡は、見たこともないほど巨大だった。


「やはり…浮遊石巨獣の仕業か…」ゲイル村長は悔しそうに拳を握りしめる。「このままでは、村の食料が尽きてしまう…」


俺は【鑑定】スキルで足跡を調べてみた。


【浮遊石巨獣の足跡】


・種別: 魔獣


・特性: 飛行能力を持ち、その身体は非常に硬い岩石で覆われている。物理的な攻撃をほとんど受け付けない。


・解説: 近年、この地域で目撃例が増えている強力な魔獣。


「健太くん…何かできないかな…」美咲が心配そうに俺に訴えかける。


村人たちの困窮した様子を見て、俺は居ても立ってもいられなくなった。元の世界に帰るためには、聖石を集める旅に出なければならない。しかし、目の前で困っている人々を見捨てるわけにはいかない。


「村長、もしよろしければ、俺たちが協力しましょう」俺はゲイル村長に申し出た。


村人たちは驚いた顔で俺を見た。


「あなたたちが…しかし、あれは生半可な魔物ではないぞ」ゲイル村長がためらうように言った。


「俺たちは、多少なりとも力があります。それに、この恩は必ずお返しします」父が力強く前に出た。「それに…俺も、家族を守る者として、見て見ぬふりはできない」



父の言葉は、彼のスキルである【剛力の腕】を彷彿とさせた。だが、俺は知っている。この魔物は、剛力だけでは倒せないということを。


「父さん…」


「大丈夫だ、健太。俺に考えがある」父はそう言って、俺にアイコンタクトを送った。その瞳の奥には、確かな覚悟と、何かを掴もうとしているかのような強い光があった。


ゲイル村長は、俺たちの強い意志を感じ取ったのか、深く頷いた。


「…分かった。感謝する。だが、くれぐれも無理はするな」


こうして、俺たちはアラン村の依頼を受け、浮遊石巨獣を討伐することになった。村人からは、魔獣の目撃情報があった場所を教えてもらった。


「よし、みんな、準備はいいか?」


俺たちは再び、森の奥へと向かう。今度は、村人たちの希望を背負って。


森の奥へ進むにつれて、空気はさらに重苦しくなり、遠くから奇妙な唸り声が聞こえてくるようになった。【空間認識】スキルが捉えたのは、複数の巨大な生命反応だ。間違いなく、浮遊石巨獣の群れだろう。


「健太、あれだ!」父が指差した先には、巨大な岩の塊が、不自然に宙に浮いていた。それが、噂の浮遊石巨獣だ。


その身体はごつごつとした岩石で覆われ、まるで空飛ぶ山脈のようだった。通常の武器が通じないというのも頷ける。


「グオオオオオ!」


浮遊石巨獣が咆哮を上げ、その巨大な身体を揺らしながらこちらに向かってくる。地面が微かに震えるほどの威圧感だ。


「父さん、どうするんだ!?」


俺は【強制収納】で一体を消し飛ばそうと考えたが、消費魔力を考えると、何体も相手にするのは難しい。


父は、冷静な表情で浮遊石巨獣を見据えていた。そして、地面にゆっくりと片手を置いた。


「剛力だけではダメだ…そう、この『質量』を操るんだ…」



父の身体から、微かな光が放たれる。その光は、まるで地面と繋がっているかのように、大地へと吸い込まれていく。


その時、俺の頭の中に、父のステータス画面が浮かび上がった。


【佐藤 悟】


・職業: 護衛ガーディアン


・スキル:


・【剛力のストロングアーム


・【採集コレクト


・【危険察知デンジャーセンス


・【重力制御グラビティコントロール】:対象の質量や重力を操作する。発動中は魔力を継続消費。


父のスキルに、新たなものが加わっていた! 【重力制御グラビティコントロール】!


父は、空に浮かぶ浮遊石巨獣に狙いを定め、咆哮した。


「【重力制御グラビティコントロール】!」


次の瞬間、驚くべきことが起こった。

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