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第6話:森の脅威と、遭遇した人々

朝の森は、新鮮な空気と、鳥たちのさえずりに満ちていた。しかし、その美しさとは裏腹に、そこはやはり異世界だ。いつ何が起こるか分からない緊張感が、常に俺たちの周りに漂っていた。


俺は先頭に立ち、【空間認識】スキルで周囲の警戒を怠らない。父はその後ろで、頼りになる護衛として【危険察知】を働かせている。美咲は俺の隣で、地図と方位を確認しながら進路を指示してくれている。萌は時折立ち止まっては【魔力感知】で周囲の魔力の流れを把握し、母は皆の様子に気を配りながら歩いていた。


「この森、結構深いね…」萌が少し疲れた様子で呟いた。


「うん。でも、地図だとこの先に小さな川があるはずだ。そこまで行けば、一度休めるだろう」美咲が地図を指差しながら言う。


森の中は、やはり見たことのない植物が生い茂り、時折奇妙な生物が姿を現す。だが、そのほとんどは人間を警戒してすぐに姿を消すか、あるいは無害なものだった。


しかし、油断はできない。


「健太、右前方、何かいるぞ!」


父の【危険察知】が反応した。俺も【空間認識】で探ると、確かに複数の生命反応が近づいてくる。しかも、その気配は、明らかに友好的なものではない。


「くそっ、またゴブリンか!?」


茂みから現れたのは、昨日のゴブリンとは違う、少し大型のゴブリンだった。その手には粗末な棍棒を握っており、唸り声を上げてこちらを威嚇している。数も、昨日の倍以上、十体近い数がいる。


「グガアアア!」


ゴブリンたちが一斉に襲いかかってきた。


「みんな、俺の後ろに!」


俺は咄嗟に【強制収納】を発動させようとしたが、ゴブリンたちの数が多く、一網打尽にするには魔力が足りない。


その時、父が前に躍り出た。


「【剛力のストロングアーム】!」


父の身体が、一回り大きくなったように見える。その拳は、まるで岩のように固く、ゴブリンの棍棒を真正面から受け止めた。


ゴンッ!


鈍い音が響き、棍棒を持ったゴブリンは、父の一撃で吹き飛ばされた。


「すごいよ、お父さん!」萌が歓声を上げる。


しかし、相手もただではやられない。他のゴブリンたちが、四方八方から襲いかかってくる。


「くそっ!」


俺は【強制収納】で、数体のゴブリンをまとめて消し飛ばした。これで、少しは数が減った。


その隙に、母が素早くフレアベリーを取り出し、父に手渡す。


「悟さん、これを!」


父は躊躇なくフレアベリーを口に入れた。すると、父の顔色がわずかに良くなる。やはり回復効果があるようだ。


だが、それでもまだ数体のゴブリンが残っていた。


「健太くん、狙いは奴らのリーダーだ!」美咲が叫んだ。美咲は、その【精神感応】で、ゴブリンたちの思考をわずかに読み取ったのかもしれない。


俺はリーダー格のゴブリンに狙いを定め、【強制収納】を発動させようとした。しかし、別のゴブリンが俺の足元を狙って斬りかかってきた。


その時、萌が素早く反応した。


「【遠隔操作リモートコントロール】!」


萌の手から、地面に落ちていた小石がフワリと浮き上がり、ゴブリンの顔に正確に命中した。


「グギャッ!」


思わぬ攻撃に、ゴブリンは怯み、その隙に俺はリーダー格のゴブリンを【強制収納】で消し飛ばした。


リーダーを失ったゴブリンたちは、統率を失い、怯えたように後ずさりする。


「今のうちだ、逃げろ!」父が叫ぶ。


俺たちは残ったゴブリンたちを蹴散らし、その場から一目散に駆け出した。


ゴブリンたちの追跡がないことを確認し、ようやく川らしき場所を見つけることができた。透き通った水が流れ、周囲には小さな草花が咲いている。


「ふぅ…助かった…」美咲が肩で息をする。


「みんな、無事!?」母が一人一人に声をかける。


全員、小さな擦り傷は負ったものの、大きな怪我はなかった。俺は皆の無事を確認し、安堵の息を漏らした。


「まさか、こんなに早く戦闘になるなんてな…」父が苦笑いしながら言う。


「でも、みんなのスキルが本当に役に立ったね!」萌は興奮冷めやらぬ様子だ。


俺は改めて、家族それぞれの能力の重要性を実感した。皆の力がなければ、あのゴブリンたちから無事に逃れることはできなかっただろう。


「よし、少し休んで、それから村を探そう」


俺たちは川の水を飲み、持っていたわずかな食料を分け合った。


休憩を終え、再び歩き始めると、森の木々が少しずつまばらになってきた。そして、遠くに、微かな煙が見えた。


「あれは…まさか、村の煙か!?」美咲が指差す。


俺たちは期待に胸を膨らませ、急ぎ足でその煙の方向へと向かった。


森を抜けると、目の前に小さな開拓地が広がっていた。数軒の粗末な家屋が立ち並び、畑では見慣れない作物が栽培されている。そして、その開拓地の入り口には、木製の柵が巡らされ、数人の村人らしき人々がこちらを警戒するように見ていた。


彼らは、日本の人々とよく似ているが、服装は麻袋のような簡素なもので、腰にはナイフを下げている者もいる。


「人がいた…」母が安堵の声を漏らす。


しかし、村人たちは、見慣れない俺たちを警戒しているようだ。何人かは武器を構えている。


「どうする、健太くん?」美咲が心配そうに俺の服を掴む。


俺は、石碑で覚えたばかりのこの世界の言語を思い出す。


「アロハ!」


俺はそう言って、両手を上げて敵意がないことを示した。


村人たちは一瞬警戒を解き、互いに顔を見合わせた。


すると、その中の一人、年配の男性がゆっくりとこちらに近づいてきた。その顔には深い皺が刻まれており、経験豊かな人だと分かる。


「…旅の方か? この森の奥から来るとは珍しい」男性は警戒しながらも、ゆっくりとした口調で話しかけてきた。


俺は覚えたての言葉で、懸命に説明を試みた。


「私たちは…その…旅の者で…道に迷って…ここに来ました。私たちは、あなた方に害をなす者ではありません」


俺の拙い言葉だが、なんとか伝わったようだ。男性は、険しかった表情を少し和らげた。


その時、美咲がそっと前に出た。そして、彼女の【魅力的な笑顔】が発動する。美咲の笑顔は、不安を抱えた村人たちの心を解きほぐすように、柔らかな光を放っていた。


「こんにちは。私たち、本当に困っています。何か、助けていただくことはできませんか?」


美咲の笑顔と、その言葉の背後にある【精神感応】が、村人たちの警戒心をさらに解きほぐしたようだ。


年配の男性は、やがて武器をゆっくりと下ろした。


「ふむ…見るからに困っているようだ。まあ、そう警戒することはない。まずは中へ入れ。このあたりは、日が暮れると魔物が出るからな」


男性の言葉に、俺たちは安堵の息を漏らした。


「ありがとうございます!」俺は心から感謝を伝えた。


こうして、俺たちは、異世界で初めて、この世界の人々と接触することができたのだった。

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― 新着の感想 ―
「みんな、無事か!?」母が一人一人に声をかける。 なんかちょくちょく性別間違ってない?というセリフがありますね
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