第46話:光と闇の激突、家族の総力戦
世界樹の頂上、星空が黒い靄に侵食された大広間。目の前に渦巻く「闇の深淵」は、特定の形を持たない「無」そのもの。しかし、その存在感は圧倒的で、俺たちの精神に直接、絶望と虚無の感情を送り込んできた。
『…愚かなる光よ…抗うのか…』
無数に重なり合った、深淵の底から響くような声が、俺たちの脳裏を揺さぶる。
俺たちは、七つの聖石を両手に構え、それぞれの真の力を解放した。聖石から放たれる虹色の光が、俺たちの身体を包み込み、能力がさらなる高みへと引き上げられているのを実感する。
「この世界を…私たちを…虚無になどさせない!」母が聖石の光を両手で包み込むように掲げた。
俺は、七つの聖石の光を、黒い渦巻く「闇の深淵」へと向けて放った。光は、闇を切り裂くかのように突き進む。しかし、「闇の深淵」は、その光を飲み込もうと、さらに大きな渦を形成した。光と闇が激しくぶつかり合い、大広間全体が、まばゆい輝きと、不穏な黒い影に包まれた。
「虚無の知識が…また流れ込んでくる…!」美咲が顔を歪ませた。闇の深淵は、物理的な攻撃だけでなく、精神攻撃を仕掛けてくる。
「今度は…俺が受ける!」俺は叫び、自分の【概念収納】を最大限に発動させた。
「【概念収納:虚無の吸収(コンセプトストレージ:ヴォイドアブソープション)】!」
俺の【アイテムボックス】は、空間だけでなく「知識」という概念をも収納できるようになった。その力を使い、俺は闇の深淵が放つ「虚無の知識」を、次々と自分の【アイテムボックス】の中へと吸い込んでいく。
頭の中は、瞬く間に無数の情報で満たされるが、俺のスキルはそれを乱雑なままではなく、整頓された形で収納していくため、思考を阻害されることはない。
『…何だと…!? 我が知識を…奪うだと…!?』闇の深淵の声に、初めて動揺の色が混じった。
「その知識は…誰かを絶望させるためのものだ…! 俺が全て封じ込めてやる!」俺は、さらに強く【概念収納】を発動させる。
その隙を逃さず、父が動き出した。
「お前には、この大地の重さが分かるまい!」
父は【地殻接続】で、世界樹の根元にある大地そのものと深く同調した。そして、【重力制御】の真の力、【重力制御:星躯降臨(グラビティコントロール:プラネットフォール)】を発動させる。
大広間の天井から、無数の巨大な岩塊が生まれ、闇の深淵目掛けて、圧倒的な重力を伴って降り注ぐ。それは、まるで小惑星が降り注ぐかのような光景だった。
『…うおおおぉぉぉ…!』闇の深淵は、その身体を激しく揺らし、岩塊を飲み込もうとするが、父の放つ「星躯降臨」の重力は、空間そのものを歪ませ、闇の深淵の吸収能力を阻害した。
その隙に、母が行動に出た。
「大地に生きる命の輝きを、お前には理解できないわ!」
母は【大地の巫女】の真の力、【大地の巫女:生命の循環】を発動させた。彼女の身体から、世界樹の生命力をも取り込むかのような、強大な緑色の光が放たれた。光は、大広間全体を包み込み、闇の深淵によって枯れかけた世界樹の枝葉を瞬く間に再生させていく。
そして、その生命の光は、闇の深淵が放つ負の魔力を浄化し、その存在そのものを希薄にしようと試みた。
『…貴様…! 我が糧を…奪う気か…!』闇の深淵の声が、憎しみに歪んだ。
「希望の光が…お前の虚無を打ち消す!」美咲は【運命交渉】と【精神掌握】の真の力、【運命交渉:真実の光(ディスティニーネゴシエーター:ライトオブトゥルース)】を発動させた。
彼女の身体から、虹色の光が放たれる。その光は、闇の深淵の奥底にある「虚無」の概念に直接干渉し、その存在を「無」へと帰そうとする。同時に、美咲は闇の深淵に、この世界のあらゆる「希望」と「可能性」の情報を直接送り込み、その存在を否定しようと試みた。
『…ぐぅああああぁぁぁ…!』闇の深淵は、その存在が否定されるかのように、苦しげに渦を巻いた。
そして、萌が満を持して【魔力演算支配者】の真の力、【魔力演算支配者:世界法則改変(マナアルゴリズマー:ワールドリコンストラクト)】を発動させた。
「お兄ちゃん! 今だ! あの『闇の深淵』の存在を構成する法則を…書き換えるよ!」
萌の瞳が、青い光を放ち、闇の深淵の周りの空間に、無数の魔力式が刻み込まれていく。彼女は、闇の深淵が「無」であるという法則を、一時的に「存在しない」という法則へと書き換えようとした。
『…ま…待て…! 我が…我…は…』
闇の深淵は、その存在が揺らぎ始めたかのように、激しく痙攣した。
俺は、家族全員の真の力が集結しているのを感じた。父の大地の重み、母の生命の輝き、美咲の希望の真実、萌の世界法則の改変。そして、俺の【概念収納】が「虚無の知識」を完全に封じ込めた今、闇の深淵は、その核となる力を失い、その存在が不安定になっている。
「今だ…! これで終わりだ…!」
俺は、七つの聖石を両手に強く握りしめ、世界樹の根源から湧き出る光の柱に、その力を全て注ぎ込んだ。聖石の光は、俺の身体を媒介に、俺の【空間支配者】の真の力、【空間支配者:次元創造】へと昇華されていく。
そして、俺は、闇の深淵が渦巻く空間に向かって、叫んだ。
「【次元創造:無の終焉(ディメンションクリエーション:エンディングオブゼロ)】!」
俺の言葉と共に、七つの聖石の光が、闇の深淵を包み込んだ。光は、闇の深淵を新しい「次元」へと押し込み、その次元の扉を、俺自身が創造した空間の壁で完全に閉ざした。それは、闇の深淵をこの世界から切り離し、「無」の存在を「無の次元」に封じ込める力だった。
闇の深淵は、最後の抵抗を見せるかのように、強烈な絶望の波動を放った。しかし、家族全員の真の光が、その波動を押し戻す。
そして、黒い渦は、ゆっくりと縮小し、やがて完全に消滅した。大広間は、黒い靄が晴れ、本来の星空のような輝きを取り戻した。世界樹の光の柱も、以前よりもさらに澄んだ、温かい光を放っている。
静寂が訪れた大広間に、俺たちの息遣いだけが響いていた。
戦いは終わった。俺たちは、「闇の深淵」を、この世界から完全に切り離し、封じ込めることに成功したのだ。




