第40話:知識を穢す者と、総力戦の序曲
黒いクレーターの中心、禍々しい輝きを放つ黒い結晶。その周囲で儀式を行う黒ローブの集団、そしてリーダーが掲げる穢された知識の聖石。このままでは、この世界全体が闇に飲み込まれてしまう。俺たちは、隠れていた場所から飛び出し、敵の本拠地へと突入した。
「止めるぞ…! 奴らの好きにはさせない!」俺は叫んだ。
俺の合図と共に、家族全員が動き出す。
まず動いたのは父だった。【地殻接続】で、俺たちが隠れていた場所の地面を隆起させ、その土塊を【重力制御】で一気に加速させる。巨大な土の塊は、黒ローブの集団目掛けて猛スピードで突っ込んでいった。
「怯むな! 排除せよ!」リーダーらしき人物が声を張り上げる。
黒ローブたちは、土塊に対し、黒い魔力を放って対抗する。その魔力は、土塊を侵食し、砕こうとするが、父の【魂の共鳴】によって強化された土塊は、簡単には崩れない。
その隙を縫って、母が【大地の巫女】を発動させた。彼女の身体から、生命力に満ちた緑の光が放たれる。光は、クレーターの周囲に倒れている、生命力を吸い取られた人間たちへと降り注いだ。彼らの干からびた身体が、微かに潤いを取り戻し、苦しげな表情が和らいでいく。
「生命を穢す行為など、許さない!」母の怒りに満ちた声が響く。
美咲は、敵の注意を惹きつけるため、【運命交渉】と【精神感応】を組み合わせた。
「あなたたちの目的は…一体何なの!? この世界の破壊が…本当に望み!?」
美咲の声が、黒ローブたちの精神に直接語りかける。彼らの動きが、わずかに乱れた。彼らの虚ろな瞳に、一瞬だけ、戸惑いの色が浮かんだように見えた。
その瞬間を、萌は見逃さない。【魔力演算支配者】で、黒ローブたちの魔力構成の僅かな乱れを読み取る。
「お兄ちゃん! 右手側の奴ら、魔力の繋がりが弱いよ!」
萌の指示を受け、俺は【空間支配者】を発動させた。欠損した魔力で構成された彼らの身体は、空間との親和性が低い。その弱点を突き、俺は指定された黒ローブたちの周囲の空間を、わずかに歪ませた。
「【空間支配者:歪曲】!」
空間の歪みによって、黒ローブたちの攻撃が逸れ、彼ら自身の動きも鈍る。その隙に、父が再び土塊を加速させ、複数の黒ローブを吹き飛ばした。
しかし、リーダーは動じなかった。彼は、手に持つ穢された知識の聖石を掲げ、空の黒い光の柱に向かって、さらに強い魔力を注ぎ始めた。
『…世界よ…我らの知識に…屈せよ…』
リーダーの声が響き渡ると、黒い光の柱が、脈動するように大きく膨れ上がった。その魔力は、このクレーター全体を覆い尽くし、俺たちの身体にも重くのしかかる。
「これは…精神に直接来るぞ…!」父が苦しげに顔を歪ませた。
俺たちの頭の中に、無数の声が響き始めた。それは、この世界の混乱、人々の絶望、そして、世界が滅びゆく未来の「知識」を直接送りつけられているかのようだった。
「くそっ…! 頭が…!」俺は思わず頭を抱える。
美咲が、最も苦しそうにしていた。彼女の【精神感応】が、この強烈な「知識」の波を直接受け止めているのだ。
「これは…この世界の…『真実』…全てを諦めさせる…『虚無の知識』だわ…!」
美咲は歯を食いしばり、自身の精神を守ろうと耐えている。
萌は【魔力演算支配者】で、この「虚無の知識」の魔力構成を解析しようとするが、その情報量が多すぎ、処理が追いつかないようだ。
「ダメだよ、お兄ちゃん…! この知識、膨大すぎる…!」
母は、即座に【大地の巫女:精神防壁】を展開し、俺たちの精神を護ろうとした。しかし、この「虚無の知識」は、大地属性の魔力をも侵食し、防壁をすり抜けようとしてくる。
リーダーは、その様子を見て、不気味な笑みを浮かべた。
「無駄な抵抗だ…愚かなる者どもよ…世界の真理を識らぬがゆえに…抗うか…」
彼は、穢された知識の聖石を、さらに高く掲げる。黒い光の柱は、さらに勢いを増し、クレーター全体を黒い雷光が走り始めた。
このままでは、俺たちの精神が完全に崩壊させられてしまう。
「健太くん…! あの知識の聖石を…止めないと…!」美咲が、絞り出すような声で言った。
俺は、意識を集中させた。あの黒い知識の聖石が、この「虚無の知識」の発生源であり、リーダーの力の核だ。あれをどうにかするしかない。
しかし、リーダー自身も強大な魔力で護られており、容易に近づくことはできない。そして、彼の放つ「虚無の知識」が、俺たちの思考を鈍らせ、攻撃を躊躇させる。
「くそっ…! なにか…何か手はないのか…!」
俺は、自分のスキルを総動員して打開策を探した。【空間支配者】、【強制収納】、そして【アイテムボックス】。この状況で、最も効果的なのは…。
俺は、決意を固めた。




