第4話:遺跡の奥で、異世界の地図を手に入れる
薄暗い遺跡の内部は、ひんやりとした空気が漂っていた。足元は砂埃で覆われており、俺たちの足音が静かに響く。壁に施された精巧な彫刻は、時間が経ってもその美しさを失っておらず、この神殿がかつてどれほど重要な場所だったかを物語っていた。
「ここ、本当にすごいね…」萌が目を輝かせて、周囲を見回している。
「まるで、映画の世界みたいだ…」美咲も感嘆の声を漏らす。
俺は【空間認識】スキルで周囲の構造を把握しようと試みた。通路は複雑に入り組んでいて、まるで迷宮のようだ。だが、その先に強い魔力の反応があることを感じ取れる。どうやら、萌が感知していた魔力の根源は、この遺跡のさらに奥にあるらしい。
父は【危険察知】で常に周囲を警戒しており、母は微かな薬草の匂いを嗅ぎ分けようとしている。
通路を進むと、いくつかの分岐点に出くわした。そのたびに、俺は【鑑定】スキルで壁の文字や紋様を調べたり、【空間認識】で魔力の流れを追ったりした。
「こっちだ」
俺の導きで、迷うことなく正しい道を進んでいく。
やがて、通路は広大な空間へと開けた。そこは、円形の広間になっており、中央には巨大な石碑が鎮座している。石碑の表面には、複雑な模様と、見慣れない文字がびっしりと刻まれていた。そして、この石碑こそが、萌が感じていた強い魔力の源だった。
「これが…?」萌が石碑を見上げて、息を飲む。
俺はすぐに石碑に【鑑定】スキルを試みた。
【古の知識を刻みし石碑】
・種別: 記録媒体
・特性: この世界の歴史、地理、種族に関する情報が記されている。特定の魔力を注ぐことで、その知識を開示する。
・解説: 創世の神が、この世界に最初の理を定めた際に作られたと伝えられる。世界の真理へと至るための道標となる。
「この世界の情報が記されてるって!?」俺は興奮して皆に告げた。
「これを見れば、元の世界に帰る手がかりが得られるかもしれない!」美咲も期待に胸を膨らませる。
しかし、どうやってその知識を開示するのか。
「特定の魔力を注ぐことで…か」
俺は自分の魔力を使って石碑に触れてみた。すると、石碑から熱のようなものが伝わってくるが、何も起こらない。
「俺の魔力じゃダメみたいだ…」
すると、萌が石碑の周囲に広がる微細な魔力の流れを指差した。
「お兄ちゃん、この石碑、すごく複雑な魔力の流れをしてる。私の【魔力感知】で分かるんだけど、ただ魔力を注ぐだけじゃなくて、特定の『形』で魔力を流し込む必要があるみたい」
「形、か…」
まるでパズルを解くようなものなのだろう。萌の【魔力感知】は、ただ魔力を感知するだけでなく、その性質や流れを読み取ることができるようだ。
「お母さんの『生命の循環』みたいに、何か特定の紋様と関係があるのか?」父が首を傾げる。
「もしかしたら、この紋様を辿って魔力を流し込むのかも…」美咲が、石碑に刻まれた複雑な模様の一つを指差す。
俺は再び石碑をよく見てみた。確かに、単なる装飾ではなく、何か特定の意味を持っていそうな、幾何学的な紋様が描かれている。
萌が目を閉じ、深く集中する。
「この紋様…魔力の流れが…あ、ここだ! この線に沿って魔力を流してみて、お兄ちゃん!」
萌の指示に従い、俺は石碑の紋様の一部分に触れ、そこに意識を集中して魔力を流し込む。萌が示してくれた通り、まるで迷路を辿るように、複雑な線に沿って魔力を流していく。
すると、石碑全体が淡く発光し始めた。そして、その光は次第に強くなり、石碑の表面に刻まれた文字や絵が、立体的に浮かび上がってきた。
それは、この世界の成り立ち、様々な種族の歴史、そして広大な地形が描かれた「地図」だった。
「すごい…!」萌が目を輝かせる。
地図には、見たこともない国々や都市、そして危険そうな魔物の生息地が記されていた。そして、その地図の中央には、ひときわ大きな文字で『世界樹:イグドラシル』と書かれた場所がある。そこは、この世界を貫く巨大な木として描かれていた。
「これだ…神様が言ってた『根源』ってやつかな…」俺は地図を見つめながら呟いた。
さらに、地図の下部には、いくつかの文字が浮かび上がっていた。
『元の世界へ帰るには、世界の根源たる「世界樹イグドラシル」の最上部にある「帰還の門」を開放せよ。門を開くには、七つの『聖石』の力が必要となる。聖石は、この世界の七つの大陸に散らばっている。』
俺たちはその文字を食い入るように読み込んだ。
「聖石…そして、七つの大陸…」父が顔をしかめる。
「つまり、俺たちは、この世界のあちこちを旅して、その聖石ってやつを集めなきゃいけないってことか?」
気の遠くなるような旅路が示されていた。しかし、同時に、日本に帰るための具体的な方法が示されたことに、俺たちは希望を見出した。
「でも、これだけの情報が手に入っただけでも大きな収穫だ!」美咲が力強く言った。
「そうだな。これで、どこへ向かえばいいか、目標ができた」俺は頷く。
萌は、地図の端に描かれた小さな文字に目を留めた。
「ねえ、お兄ちゃん、これ見て! この世界の言語と、簡単な挨拶の言葉が書いてあるよ!」
萌の発見に、俺たちは歓声を上げた。この世界で生きていく上で、最も重要な情報の一つだ。
「よし! これで、この世界の人たちともコミュニケーションが取れるかもしれない!」
地図と、この世界の言語の基礎知識を手に入れた俺たちは、次の行動へと移る準備を始めた。まずは、安全な場所で一度家を展開し、ゆっくりとこの地図を読み解く必要がある。そして、食料と水の確保だ。
「よし、みんな! この地図を手に入れたんだ。俺たちは、元の世界に帰るための、最初の一歩を踏み出したぞ!」
俺はそう言って、皆の顔を見回した。不安そうな表情の中にも、確かな決意の光が見える。
「さあ、この遺跡を出て、この地図を頼りに、新たな一歩を踏み出そう!」
俺たちは、未来への希望と、家族で元の世界へ帰るという強い決意を胸に、遺跡を後にした。森の出口へ向かう足取りは、来た時よりも、どこか確かなものになっていた。