第39話:追跡の先に、黒い聖域
黒いローブの集団が残した微かな魔力の痕跡を追って、俺たちは北東へと進んでいた。彼らの魔力は、冷たく、そして全てを穢すような悪意に満ちていた。
「この魔力、どんどん濃くなってるよ、お兄ちゃん」萌が【魔力演算支配者】で周囲の魔力を探りながら言った。「まるで、この先に大きな魔力の塊があるみたい」
萌の言葉に、俺は【空間支配者】で周囲の空間をより詳細に探った。確かに、萌の言う通り、前方からは尋常ではない魔力の渦が感じられる。それは、ただの自然発生的なものではなく、明らかに人工的な、意図された魔力だ。
父は、地面に手を触れ、【地殻接続】で地脈の乱れを読んでいた。
「この地脈の乱れ…以前のエルリア村とは比べ物にならないほど大規模だ。恐らく、奴らの本拠地か、何か大規模な儀式を行っている場所だろう」
母は、周囲の植物の様子を見て、顔を曇らせた。「植物の生命力が、根こそぎ奪われている…まるで、この大地そのものが、何かに蝕まれているみたい…」
美咲は【精神感応】で、周囲に漂う感情を探っていた。
「…この先から、絶望と…そして、奇妙な『歓喜』の感情が混じり合って流れてくるわ…」
絶望と歓喜。相反する感情の混在が、一層の不気味さを感じさせる。
俺たちは、より慎重に、足音を忍ばせて進んだ。森は次第に、黒い靄に覆われ始め、陽光さえも遮られているかのようだ。枯れかけた木々は、まるで幽霊のように立ち並び、地面は黒く変色している。
数時間後、森を抜けた先に、俺たちの目を疑うような光景が広がっていた。
そこは、巨大なクレーターのような窪地だった。大地は深くえぐられ、その中心には、巨大な黒い結晶が鎮座していた。その結晶からは、エルリア村で感じたものとは比べ物にならないほどの、圧倒的な黒い魔力が放たれている。
そして、その黒い結晶の周囲には、無数の人間たちが倒れていた。彼らは、黒いローブの者たちに操られていた人間たちだ。彼らの身体は、まるでミイラのように干からび、生命力を吸い取られたかのようだった。しかし、その顔には、苦痛の表情ではなく、どこか虚ろな「恍惚」とした表情が浮かんでいる。
「これは…!?」母が思わず声を上げた。
「人間たちから…生命力を吸い取っているのか…!?」父が怒りに震えた。
俺は【空間認識】で、黒い結晶から放たれる魔力の流れを追った。その魔力は、倒れている人間たちから吸い上げられ、黒い結晶へと注ぎ込まれている。そして、その結晶に蓄えられた魔力は、さらに上空へと伸びる、巨大な黒い光の柱となって、空高くへと昇っていた。
空を見上げると、その黒い光の柱は、雲を突き破り、遥か彼方へと伸びている。その光景は、世界樹の光の柱を彷彿とさせたが、その性質は真逆だった。
「あの黒い柱…あれが、世界の『歪み』の元凶だよ、お兄ちゃん!」萌が叫んだ。「あの柱が、空間をねじ曲げたり、地脈を乱したりしてる!」
その時、黒い結晶の周囲に、多数の黒いローブの集団が集結しているのが見えた。彼らは、俺たちと戦った者たちと同じだ。彼らは、儀式を行っているかのように、黒い結晶に向かって何かを唱えている。
そして、その集団の中央に、一際大きな黒いローブをまとった人物が立っていた。その人物からは、これまで感じたどの敵よりも、圧倒的な魔力が放たれている。その魔力は、冷たく、全てを支配しようとするかのような、深い闇の魔力だった。
「あれが…リーダーか…」
リーダーは、手に何かを構えていた。それは、七つの聖石の一つである「知識の聖石」に似ていたが、完全に黒く変色し、禍々しい輝きを放っている。
「知識の聖石まで…!」美咲が息をのんだ。
リーダーは、黒い知識の聖石を高く掲げ、空の黒い柱に向かって何かを唱え始めた。すると、黒い柱の勢いがさらに増し、大地が激しく震え始めた。
『…闇よ…全てを…喰らえ…』
リーダーの声が、地響きのように森に響き渡る。その声は、これまで聞いたどの声よりも、明確な悪意に満ちていた。
このままでは、この世界全体が、彼らの闇に飲み込まれてしまう。そして、あの知識の聖石まで穢されているのなら、彼らは既に複数の聖石を汚染している可能性が高い。
俺たちは、隠れる場所から、その光景を食い入るように見つめた。
今、ここで奴らを止めるしかない。
俺は、家族の顔を見渡した。父、母、美咲、萌。それぞれの瞳には、恐怖ではなく、強い決意の光が宿っている。
「行くぞ…!」俺は静かに言った。
俺たちは、新たな、そしてこの世界で最も危険な戦いへと身を投じることを決意した。




