第37話:闇の術者たちと、家族の覚悟
森の中で、俺たちは黒いローブをまとった集団と対峙していた。彼らの手には、地の聖石を汚染していたものと同じ、禍々しい輝きを放つ黒い石が握られている。そのリーダーらしき人物の声は、加工されているかのように不気味で、彼らがこの世界の異変の元凶であることは明白だった。
「排除するのみ…」
その言葉と同時に、黒ローブの集団は、闇を操るかのような素早い動きで、不規則な軌道を描きながら攻撃してきた。彼らの攻撃は、物理的なものだけでなく、黒い魔力をまとっており、触れるだけで身体を蝕むような感覚がある。
「くそっ…! 厄介な奴らだ!」俺は【空間支配者】を駆使し、彼らの動きを予測し、攻撃を避ける。同時に、【強制収納】で彼らの武器を奪い取ろうとするが、彼らの武器は、まるで身体の一部であるかのように、俺のスキルを弾き返した。この強固な抵抗は、これまでの魔物とは一線を画している。
父は【地殻接続】で地面から岩壁を作り出し、黒ローブたちの攻撃を防ぐ。だが、彼らの黒い魔力は、岩壁を溶かすかのように侵食し、わずかながらも耐久力を削っていく。
「こいつら、俺の【地殻接続】を侵食してくるぞ…!」父が唸る。
母は【大地の巫女】で、父の築いた岩壁を強化し、同時に俺たちの身体に【治癒の加護】を施し、黒い魔力の侵食から護ってくれた。しかし、彼女の穏やかな魔力も、彼らの穢れた魔力とは相性が悪く、浄化が難しい。
美咲は【精神感応】で彼らの心を探ろうとするが、彼らの心は、まるで闇に閉ざされているかのように、何も読み取ることができない。だが、彼女は相手の動きの「隙」を見つけ出すことに長けていた。
「健太くん、お父さん! 彼らの動きには、ほんの一瞬の『遅れ』があるわ! 攻撃後の再構えに!」
萌は【魔力演算支配者】で、彼らの魔力構成を解析しようと試みる。
「お兄ちゃん! 彼らの魔力、特定の属性じゃない! なんか…『欠損した魔力』を無理やり繋ぎ合わせてるみたい…だから不安定なんだ!」
萌の解析が、俺たちにヒントを与えた。欠損した魔力を無理やり繋ぎ合わせている?
「欠損した魔力…! それが彼らの弱点か!?」父が叫んだ。
俺は、美咲の指摘した「隙」と、萌の解析した「欠損した魔力」に意識を集中させる。
【空間支配者】で、一瞬の隙を狙い、相手の周囲の空間をピンポイントで固定しようと試みる。しかし、彼らは空間の歪みを感じ取って、その固定を回避した。
「くそっ、厄介な!」
黒ローブのリーダーは、手にした黒い石を掲げた。すると、その石から、強力な黒い魔力の波動が放たれ、地面が大きく揺れ動いた。周囲の木々が枯れ果て、大地がさらに荒廃していく。
「この力…まさか、各地の聖石を汚染している元凶なのか!?」父が顔を歪ませた。
俺は、直感的にその黒い石が、浄化したばかりの地の聖石と同じような「聖石」を汚しているものだと理解した。
「させるか!」
俺は【空間支配者】を最大限に発動させ、黒い石から放たれる魔力を【強制収納】しようと試みた。だが、それはあまりにも強大で、完全に収納することはできない。しかし、その一瞬、魔力の勢いを弱めることには成功した。
その隙を逃さず、美咲が叫んだ。「お父さん! 今よ!」
父は、自身の【地殻接続】と【重力制御】を合わせ、足元の地面から巨大な岩塊を隆起させた。岩塊は、黒ローブのリーダー目掛けて高速で突き進む。
リーダーは、動じることなく黒い石を構え、その岩塊を黒い魔力で侵食しようとした。だが、父の岩塊は、聖石を浄化したことで覚醒した【魂の共鳴】の力が宿っており、その侵食を耐え抜いた。
岩塊がリーダーに直撃するかに見えた、その瞬間。リーダーは、黒い魔力でできた結界を展開し、岩塊の直撃を免れた。
「…チィ…」リーダーは舌打ちし、後方へと跳んだ。
しかし、この攻撃で、黒ローブたちの陣形が崩れた。
萌は、この機会を見逃さなかった。
「みんな、下がって! 私が、あの魔力、解析しきったよ!」
萌は、自身の【魔力演算支配者】を最大限に集中させ、両手を前に突き出した。彼女の身体から、澄み切った青い光が放たれる。
「【魔力構成式:改変(マナアルゴリズム:リコンストラクト)】!」
萌の言葉と共に、青い光が、黒ローブの集団へと降り注いだ。光は、彼らの身体を覆う黒い魔力を透過し、その「欠損した魔力」に直接干渉する。
すると、黒ローブたちの身体を覆っていた黒い魔力が、まるで制御不能になったかのように、激しく揺らぎ始めた。彼らの動きは鈍り、その顔を覆っていたフードが、風に煽られて外れる。
そこに現れたのは、感情のない、虚ろな目をした人間たちの顔だった。彼らの肌は青白く、まるで生気を失っているかのようだ。
「こいつら…人間なのか!?」俺は驚愕した。
「どうやら、あの黒い魔力で、無理やり動かされているみたいだよ…」萌が息を切らしながら言った。「彼ら自身に、明確な意思はないみたい…」
リーダーらしき人物は、舌打ちすると、他の黒ローブたちに何かを合図した。すると、彼らは、周囲の闇へと溶け込むように姿を消していった。
「逃げたか…!」父が悔しそうに呟いた。
森には再び静寂が戻った。だが、その場に残されたのは、荒れ果てた大地と、そして、人間が「魔力」によって操られているという衝撃的な事実だった。
俺たちは、その場で息を整えた。今回の戦いは、これまでの魔物との戦いとは全く異なるものだった。彼らは、聖石を汚染し、人間を操る。その目的は一体何なのか。
「彼らが持っていた黒い石…あれが、聖石を汚染する元凶なのかもしれない」美咲が言った。
俺は、手にしていた星屑の結晶を握りしめた。この異世界の異変は、想像以上に深刻だ。
「このまま放っておけば、この世界全体が、奴らの手によって荒廃させられてしまう…!」俺は決意を新たにした。
俺たち家族の新たな戦いが、今、始まったばかりだ。




