第36話:暗躍する影と、力の痕跡
清らかな輝きを取り戻した地の聖石を手に、俺たちは変わり果てたエルリア村を後にした。村の復興は時間を要するだろうが、聖石の浄化によって、少なくともこれ以上の荒廃は食い止められるはずだ。しかし、この聖石がなぜ汚染されたのか、その原因を究明する必要がある。
「聖石が、あんなにも深く憎しみに囚われるなんて…一体、何があったんだ…」美咲が悲しげな顔で呟いた。
萌は【魔力演算支配者】で、清浄になった地の聖石の魔力を解析していた。
「お兄ちゃん、この聖石、浄化されたけど…まだ、わずかに変な魔力の痕跡があるよ。すごく冷たくて…黒い、みたいな…」
萌の言葉に、俺は眉をひそめた。それは、以前静寂の湖で感じた、淀んだ魔力とはまた違う、より悪質な気配だ。
父は、周囲の地面に手を触れ、地脈の流れを読んでいた。「この魔力の痕跡…エルリア村だけでなく、周辺の地脈にも、同じような穢れが残っている。これは、自然現象ではない」
母も、荒廃した村の植物に手をかざし、その生命力の回復を試みていた。「この穢れは、ただの魔力とは違う。まるで、生命そのものを蝕むような…」
俺は【空間支配者】で、その「黒い魔力の痕跡」の発生源を探ろうとした。しかし、それは特定の場所に留まっているわけではなく、まるで広範囲に散布されたかのようだ。
「どうやら、これは組織的な犯行のようだぞ…」父が厳粛な声で言った。「誰かが、意図的に聖石を汚染し、地脈を乱している」
その言葉に、俺たちの間に緊張が走る。単なる魔物の襲撃ではない。この異世界には、俺たちと同じように、あるいはそれ以上に強力な力を持ち、悪意を持って活動している者がいるのかもしれない。
「聖石を穢すなんて…一体誰が、何のために…」美咲が唇を噛んだ。
「おそらく、あの世界樹の精霊が言っていた『再びこの世界を』という言葉も、この異変に関係しているんだろう」俺は言った。「このまま放っておけば、この世界全体が危険に晒される」
俺たちは、汚染された聖石の痕跡を追うため、北へと進路を取った。萌の【魔力演算支配者】が、その「黒い魔力の痕跡」の濃度が濃くなる方向を正確に示してくれる。
数日間の移動中、俺たちは奇妙な光景を目にすることが増えた。
動物たちが異常なほど怯え、人里から遠ざかる。
農作物が突然枯れ始めたり、逆に異常に成長して毒を持つようになったりする。
そして、時折、空に黒い影がよぎるのを見た。それは、鳥とは違う、人工的な、しかしどこか有機的な構造を持った物体のように見えた。
「あれは…何だ?」父が空を指さした。
俺も【空間認識】でその影を追ったが、速度が速く、すぐに視界から消えてしまう。
「魔物ではない…まるで、誰かが動かしているみたい…」美咲が眉をひそめた。
その夜、森の中で野営していると、萌が急に身体を震わせ始めた。
「お兄ちゃん…! また変な魔力を感じる…! さっきの聖石に残ってた、あの黒い魔力と同じだ…! しかも、すごく近くに…!」
萌の言葉に、俺たちはすぐに身構えた。父は【地殻接続】で周囲の地面を盛り上げ、簡易的な防御壁を築く。母は【大地の巫女】で、周囲の魔力の流れを鎮めようと試みるが、その黒い魔力は、母の魔力を弾き返した。
その黒い魔力は、一箇所からではなく、複数の方向から迫ってきていた。まるで、俺たちを取り囲むかのように。
そして、闇の中から、数体の人影が姿を現した。彼らは、全身を黒いローブで覆い、顔はフードで隠され、素顔を窺い知ることはできない。しかし、その手には、禍々しい輝きを放つ武器を構えているのが見えた。
「まさか…人間か…!?」父が唸った。
黒ローブの集団から、リーダーらしき人物が一歩前に出た。その者の手には、俺たちが浄化したばかりの「地の聖石」に似た、しかし完全に黒く変色した石が握られている。その石からは、地の聖石を汚染していたものと同じ、冷たく、不吉な魔力が放たれていた。
「見つけたぞ…聖石の輝きを持つ者たちよ…」リーダーらしき人物の声は、加工されているかのように低く、不気味だった。「汝らが、我らの計画を邪魔するのならば…排除するのみ…」
その言葉と同時に、黒ローブの集団が一斉に襲い掛かってきた。彼らは、闇を操るかのような素早い動きで、不規則な軌道を描きながら攻撃してくる。彼らの攻撃は、物理的なものだけでなく、黒い魔力をまとっており、触れるだけで身体を蝕むような感覚があった。
「くそっ…! 厄介な相手だ!」俺は【空間支配者】で、黒ローブたちの動きを予測し、攻撃を避ける。同時に【強制収納】で、彼らの武器を奪い取ろうとするが、彼らの武器は、まるで身体の一部であるかのように、俺のスキルを弾き返した。
美咲は【精神感応】で、彼らの心を探ろうとするが、彼らの心は、まるで闇に閉ざされているかのように、何も読み取ることができない。
萌は【魔力演算支配者】で、彼らの魔力構成を解析しようとするが、彼らの魔力は、これまで見たことのない、非常に特殊な構造を持っていた。
「気をつけろ! こいつら…ただの人間じゃない…!」父が叫んだ。
彼らは、七つの聖石の力を知り、それを汚染する術を持っている。そして、俺たちを狙って、ここまで追ってきた。
この異世界で起きている異変の背後には、彼らのような存在が暗躍していることは間違いない。そして、彼らが聖石を汚染した目的は一体何なのか。
俺たちは、新たな、そして強大な敵との戦いに巻き込まれていくことになる。




