第24話:炎の荒野と、新たな情報
水辺の都アクアリアでの滞在は、穏やかで有益なものとなった。美咲の活躍により、湖は清められ、人々は安心して暮らせるようになった。俺たちは、都の人々から次の聖石に関する情報を得るため、積極的に交流を深めた。
萌が【魔力演算支配者】で、都の周囲の魔力の流れを解析し、聖石の痕跡を探した。
「ねえ、お兄ちゃん。この都からずっと南の方に、すごく熱い魔力の塊があるよ! なんか、燃えてるみたいな感じ!」
萌の言葉に、俺は地図を確認した。大陸の南には、「炎の荒野」と呼ばれる広大な地域が広がっている。そこは、灼熱の砂漠と火山で構成されており、非常に危険な場所として知られていた。
「炎の荒野か…まさか、次の聖石は『炎の聖石』か?」父が汗を拭いながら呟いた。
「もしそうなら、相当厳しい旅になりそうね」母も少し顔を曇らせる。
美咲は、人々の噂話から、炎の荒野に関する不穏な情報を集めてきた。
「炎の荒野には、最近、凶暴な火属性の魔物が増えてるって噂よ。それに、旅人が行方不明になる事件が多発してるって…」
どうやら、炎の荒野でも何らかの異変が起きているようだ。それが聖石と関係している可能性は高い。
俺たちは、水辺の都アクアリアに別れを告げ、炎の荒野を目指して南へと旅立った。萌が編み出した【魔力演算支配者】による風の魔法で移動速度は格段に上がっているが、炎の荒野の熱気は想像以上だった。
「暑い…! なんだこれ、サウナかよ!」俺は思わず愚痴をこぼした。
気温は容赦なく上がり続け、空気は熱波で揺らいでいる。地面はひび割れ、ところどころからマグマが噴き出している場所もある。植物はほとんど生えておらず、赤茶けた大地が果てしなく広がっていた。
父は【地殻接続】で足元の地面を冷やそうとしたが、広大な荒野全体を冷やすことはできない。母は【大地の巫女】で、なんとか体力を消耗させないように努めてくれる。美咲は、疲れ果てた表情で、それでも前を向いて歩き続けていた。
萌は、暑さに負けず、むしろ目を輝かせている。
「お兄ちゃん、見て! あのマグマ、魔力の流れがすごく速いよ! そして、すごく攻撃的!」
【魔力演算支配者】の力で、萌には炎の魔力の「本質」が見えているのだろう。
その時、地面の亀裂から、巨大な火の玉が飛び出してきた。火の玉は、まるで意思を持っているかのように、俺たち目掛けて飛んでくる。
「っ! 来るぞ!」父が叫び、【重力制御】で火の玉の軌道を逸らそうとするが、その熱気と魔力に阻まれる。
「【ウォーターシールド】!」美咲が咄嗟に魔法で水の盾を作り出した。水の盾は、火の玉と衝突し、蒸気を上げて消滅する。
火の玉の向こうから、姿を現したのは、全身が炎で覆われた獣型の魔物だった。その瞳は、灼熱のマグマのように赤く燃え盛っている。
「あれは…炎獣か!」父が声を上げた。
炎獣は、咆哮を上げながら、次々と火の玉を放ってくる。その攻撃は苛烈で、かわすのも一苦労だ。
「このままじゃ、体力が持たない!」
その時、萌が、炎獣の動きをじっと見つめ、何かを呟いた。
「あの炎獣、魔力の構成が…不安定…?」
萌の言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中に、新たな可能性が浮かび上がった。炎の荒野、凶暴な炎獣、そして萌の「不安定」という言葉。もしかしたら、この炎獣こそが、この荒野の異変の原因、あるいは次の試練の入り口なのかもしれない。
萌は、ゆっくりと両手を前に出した。その瞳は、炎獣の魔力の流れを完全に読み取っているかのようだ。
「お兄ちゃん! あの炎獣の魔力の暴走を止められるかもしれない!」
「まさか…萌、あいつの魔力まで操れるのか!?」俺は驚きを隠せない。
「うん! でも、すごく複雑だから…ちょっと時間かかるかも…!」
その間にも、炎獣の攻撃は容赦なく続く。父が【地殻接続】で地面から岩壁を作り出して攻撃を防ぎ、母が【大地の巫女】でその岩壁を強化する。美咲は【運命交渉】で、炎獣の動きを鈍らせようと試みるが、炎の魔物にはあまり効果がないようだ。
「健太! ここは俺に任せて、萌を護れ!」父が叫んだ。
俺は、炎獣の攻撃から萌を護るように、前に出た。【空間認識】と【強制収納】を駆使して、飛来する火の玉を次々と消し飛ばしていく。だが、炎獣は次から次へと火の玉を放ち、その勢いは衰えることを知らない。
萌は、極度の集中状態に入っていた。彼女の身体から放たれる青い光は、炎獣から放たれる灼熱の魔力と拮抗している。まるで、炎と氷がぶつかり合っているかのようだ。
「クソッ…! キリがない!」
炎獣の攻撃は、次第に激しさを増し、俺たちの防御を突破しようとしていた。
その時、萌が大きく息を吸い込んだ。
「分かった…! この炎獣の魔力の構成式…書き換える!」
萌の言葉と共に、彼女の身体から、まばゆい青い光が螺旋を描くように上昇した。その光は、炎獣の身体へと降り注ぎ、炎獣の身体を構成する炎が、わずかに色を変え始めた。それは、まるで、灼熱の炎に、穏やかな青い光が混じり合っていくかのようだった。




