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好きな人ができた、と言うから大人しく去ってあげたのにどういうこと!?

作者: 大井町 鶴

短編20作目になります。いつもお読みくださっている方も、はじめましての方も、ありがとうございます。

今回は、婚約者に好きな人ができたと言われた――公爵令嬢カロリーナの物語です。強気な彼女の結末がどうなるのかどうぞ最後までお見守り下さいませ(o´∀`o)

★これまでの作品一覧はこちら(コピペしてご利用ください) ↓

https://mypage.syosetu.com/2663935/

「今、何て言われました?私の聞き間違えでなければ、《好きな人ができた》と聞こえましたけれど?」

「ああ、そうだ。間違いない」


目の前で静かにお茶を飲んでいる男が淡々と言う。


彼の短髪の銀髪がやたらと目についた。


(ついさっきまで、この銀髪がキレイって思ってたのに!)


悔しさにワナワナした。


「婚約者の私に向かってよくもそんなことを言えましたわね……そういうことでしたら、もう失礼いたしますわ!」


カロリーナはおもむろに席を立つと、ガゼボから出て行こうとする。


「待ってくれ!」

「何です!?」


今さっき、《好きな人ができた》と言ったばかりの男は、なぜか腕を掴んで引き留める。


「カロリーナ嬢は案外、そそっかしいんだな。まだ、オレの考えを伝えたに過ぎない」

「私が、それ以上の話を詳しく知っても、何の得にもなりませんわ。手を離して下さいます?」


アベルと言われた男は、伯爵家の嫡男であり戦場で名を挙げた話題の人物だ。戦場に行く少し前にカロリーナとの婚約が決定したのだが、彼は《どうしても国の役に立ちたい》と言って、大した交流もないまま戦場へと行っていた。


(手を離せと言っているのに、なんて馬鹿力……!さすが戦場に行っていただけあるわね)


戦場に向かう前は、耳くらいまで髪の毛を伸ばしたヘアスタイルだったのに、今は実用性重視の短髪になっている。それに、色白だった肌も浅黒くなっているし、筋肉も隆々になっている。つまり、逞しい大人の男性になっていた。


「お姉様~!お茶会はもう終わり!?私も混ぜてよ~!」


場にそぐわない大声がしたと思ったら、世の中で一番自分がカワイイと思い込んでいる実の妹であるミランダが走って来るところだった。


「へへ、走っちゃったわ」


ミランダの額にはご自慢のハニーブロンドの髪が張り付いている。上気した頬はバラ色だ。

彼女は愛らしい容姿をしていた。


(いくら可愛らしいと言ったって、きちんと注意はしないと)


「淑女が大声を出しながら走ってくるなんて、はしたないわよ」

「お姉様、厳しい~!やっとアベル様がご帰還されたのよ?自然と走っちゃうでしょ?」


どうしてあなたが走って来る必要があるのと、思う。


(いくら姉の婚約者だからって近寄りすぎだわ)


そう考えて、ハッとした。


もしかして、アベルの《好きな人》とはミランダなのではないかと気づいた。


「ねえ、私も来たんだから一緒にお茶をしましょう?」


ミランダがお得意の可愛いポーズ――首をかしげながらの上目づかいで、アベルの腕に手を掛けている。


間違いない、と思ったカロリーナは強引にアベルの手を振り払った。


「カロリーナ嬢、待て!」


アベルが呼び止めたが無視である。スタスタと馬車寄せに歩いて行くと、待機していた馬車にサッサと乗り込んだ。


「お嬢様、ミランダ様はご一緒ではないのですか?」

「あの子はアベル様が送るから大丈夫よ。さあ、馬車を出して」


アベルの屋敷から速やかに去ったのだった。


……その日の夜、やっとミランダは帰宅してきた。もちろん、アベルと一緒に。


「すご~い楽しかったあ。見て、これ、アベル様にいただいた!とってもキレイでしょう?」


ミランダが見せてきたのは、アベルの瞳の色と同じブルーのブローチである。


「へえ、良かったわね。……あなたたちはお似合いよ」


もう、ヤケクソになって褒めてあげた。


「やっぱりそう思う?実は、私もそうかなあって思っていたんだ。お姉様、ごめんね。ほら、ミランダはカワイイから。モテちゃうの」


自分で自分の名を呼ぶミランダにイラつく。


(思えば、こういうことは初めてじゃなかったわね)


アベルが婚約者になる前、幼馴染のシリノという子爵家の息子が元々、カロリーナの婚約者であった。だが、シリノはミランダに夢中になり、婚約話が無くなったのだ。あのことは、ミランダをさらに自信家にさせた。


(結局、《そんなつもりはなかった》って言ってシリノを泣かせたのよね)


そんなわけで、ミランダは絶賛、旦那様になる人物を探し中なのだ。


「ねえ、お姉様、アベル様って次期侯爵当主サマだし、ミランダにとってもいい話よね?」

「……運命の人に出会えて良かったわね」

「うん!お姉様と一緒にいると、いつもいい人に巡り合える気がするわ!」


冗談じゃない、と心の中でカロリーナは思う。


(ミランダにこういう図々しいところがなければ、頭がお花畑だっていうだけのカワイイ妹だったのに)


さすがに、こう二度も婚約者を取られると、カロリーナも落ち着いてはいられない。


「もう、私は疲れたから休むわよ。あなたもさっさと部屋に戻りなさい」


腰を上げかけたその時、ミランダに引き留められた。


「あのね、アベル様がねお姉様にお話があるんだって。たぶん、婚約話のことじゃないかな。私を好きになっちゃったから。玄関でお待ちだわ」

「え?アベル様を待たせてここでどうでもいいおしゃべりしていたってワケ?」

「急がないからって、言ってくれたんだもん」


能天気なミランダを見て、内心、舌打ちをした。


(もう!どうして会いたくない人と話さなきゃいけないのよ!待たせていたなら会わないわけにいかないし!)


両親が在宅ならば相手を頼むところだが、彼らは今日も自分たちが遊ぶのに忙しかった。


……玄関へとやって来ると、アベルが立ちつくしていた。


「お待たせして申し訳ございません!先ほど妹から聞いたものですから。……それで、なにか私にご用でしょうか?もう、話すこともないと思いますが」


一応、待たせたのできちんと謝罪はしたが、手痛い仕打ちをされた手前、思わずツンケンしてしまう。


「昼間の話をきちんと話したい」

「もう充分伝わりました。……妹にブローチを贈られたそうですね。アベル様のお気持ちは理解いたしましたわ」


アベルの瞳が大きく見開かれた。


「それは大事な人に敬意を払ったものであって、特別なものではない」

「気を使って頂かなくても結構ですわ。というか、あなた様も分かりにくいことをなさらずハッキリとおっしゃってくだされればよかったのに。ご帰還されてからこの3ヶ月、無駄に過ごされましたわね」


カロリーナの言葉にアベルがピクリと反応した。


「この3ヶ月がムダだったと?」

「そうですわ。そもそも、ご帰還されて久しぶりに会ったら、私といてもほとんど話さないで、《ああ》とか《ふむ》とかばかり。ミランダと話している時は、気楽なご様子でしたのに」


言ってやったぞとばかりに、彼を睨みつける。


「……君は戦場にいたら、長生きできない人だな」


ボソリと言ったアベルの言葉に、ビクッとした。


(言い過ぎた?……だとしても、脅しの言葉を言うなんてどういうつもり!?)


「と、とにかく、私の言いたいことは、妹を宜しくお願い申し上げます!ということですわ。……それではどうぞお幸せに!」


くるりと踵を返すと、その場から逃げようとした。


が、素早く腕を掴まれる。


「1日に何度、私の腕を掴む気ですか!離して!」

「……離さない。オレから逃げないでくれ。そして、話をどうか聞いてくれ」


最後の方が鼻声なので、まさかと思い彼の顔を見ると、なんと彼は泣いていた。


日焼けした浅黒い顔に涙が流れている。


「ウソ……涙?なぜ?」


ワケが分からず、茫然とした。


「どうか話を、どうか」


さきほどまでの軍人らしい威圧感は消え去り、なんだか懇願されていた。


……居間のソファで、ミランダも加えた3人で話し合うことになった。


「アベル様、ひどい!私の気持ちを弄んだのね!」

「オレはミランダ嬢を好きだと言った覚えは一度もない。君が勝手に勘違いしたことだ」

「何でそんなことを言うの?アベル様の瞳色のブローチだってプレゼントしてくれたじゃない!」

「それはオレの瞳色ではなくて、君のアクアブルーの瞳色に合わせて贈ったものだ。あくまで婚約者の妹君として」

「はあっ!?」


可愛らしいはずのミランダがすごい形相だ。


石の色を良く見ると、確かにミランダの瞳色と同じ明るいブルーであった。


「カロリーナ嬢にはこれを渡すつもりでいた」


そう言うと、アベルは大事そうに懐から取り出す。高そうなジュエリーボックスに入ったそれは、グレイッシュブルーが美しいネックレスとピアスのセットだった。


「その色ってアベル様の瞳の色じゃない!」

「そうだ。これは特別なものだから」

「これを私に……?」


アベルがうなずく。


「ズルイ!お姉様の方がとっても豪華!!」


ミランダが子どものように悔しがっている。


「それはそうだ。大切な婚約者に贈るものだから」

「やっぱり私のことを弄んだのね!」

「だから、違うと言っている。どうして君はそうやって勝手に勘違いをするんだ?」


アベルは頭を抱えた。


「あの、アベル様の《好きな人》って私ということですわよね?」


話の流れからして、自分が《好きな人》らしいと分かったが、念のために確認しようと尋ねる。自分で《好きな人》などと言うのは恥ずかしかった。


「そうだ。婚約は親同士が決めたものだった。でも、自分の気持ちが伴った時にはきちんと想いを伝えようと考えていた」


頬をポッと染めて言うアベルに、嬉しいというよりも腹が立った。


「なんと紛らわしい!なぜ素直に気持ちを表さなかったのです!?アベル様は大馬鹿ですね!」


カロリーナは思わず叫んだ。


ミランダは子どもみたいに泣き続けている。なかなかの修羅場だった。


……3ヶ月が経った。


本日は、騎士団の式典がある日である。


騎士団の上に立つアベルは、名誉の勲章を胸に付けて、集まる人々の前で堂々と剣を天に掲げていた。


「ああ~、やっぱりアベル様はカッコいいな」

「もうやめてよね、あなたの暴走がややこしいことにしたんだから」

「それはミランダのせいだけじゃないもん」


そう言うと、ミランダは何やら手を振っている。誰に手を振っているのだろうと見てみれば、式典の最中だというのに、ミランダに手を振っている騎士団員がいた。


(もう、新しい彼氏?ホントに調子いいんだから。……それにしても、アベルってやっぱりイケメンね)


今日も彼の銀髪が眩しい。


カロリーナと目が合ったアベルは人前であるにも関わらず、ウィンクしてくる。


途端に顔が真っ赤になったカロリーナだった。


(キャー!ステキすぎる!)


なんだかんだで、《幸せ!》と思えたカロリーナなのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

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現在、『婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋をした公爵令嬢の話』を連載中です。

音楽に興味がある方もない方も楽しめる、とある公爵令嬢とややぽっちゃり男爵令息のチェリストの物語です。よろしければぜひお読みくださいませ(o_ _)o


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