第5話 俺達の勇者活動
学校が終わり、家に帰って自室に入る。
俺はベッドにどすん、と腰かけた。
「ふう。今日は色々あって疲れたぜ」
あの夢を見てから前世の勇者の仲間達も同時に覚醒していて、それが同じ学校にいてパーティが揃ったのだ。
そして神に姫を探せだの魔王を阻止しろだのと言われたのだから今後のことを考えねばならない。
ふと部屋の隅にあるゲージをちらりと覗くと、モモ太が網の中からこちらを見つめていた。
「ご主人、お帰りなさいです」
そうだった。学校では俺達が勇者パーティだったことを目覚めさせられたように、モモ太もまた前世では俺の使い魔だったことを思い出したのだ。
俺はゲージからモモ太を出して両手で包むようにして机の上に乗せた。
「今日もお疲れ様です」
ポテポテと丸い体、背中にジャンガリアンハムスター特有の黒い筋が入った毛の模様。
こうして見るとごく普通のハムスターでしかない。しかし、中身は前世でミニドラゴンだった俺の相棒なのだ。
「モモ太、お前が俺の相棒だったことを思い出したみたいに、学校で俺達の仲間も見つけたよ。俺達と同じようにフィロ神に覚醒させられたんだと」
「ほら、僕の言うこと間違ってなかったでしょ」
「ああ、朝は信じられなかったけど。お前も間違いなく俺の相棒だったポフィなんだな」
「じゃあ僕らだけじゃなかったんですね。学校にも僕の仲間達もいたってことですよね」
モモ太の前世はミニドラゴンだった。ドラゴンは肉食だ。
だからモモ太は小動物用の乾燥ビーフが好きだったのだろうか。ハムスターにしては植物性なものよりも動物性たんぱく質である肉を好物なのは前世と嗜好が似ててだったのかもしれない。
そう思えば納得だ。
俺はモモ太に学校であったことを話した。この世界のどこかに姫がいるので探せと、そして魔王がこの町に現れようとしていると。
「神様は姫を探せって言っても、どこに姫がいるかはわからないんでしょ。どうするんですか?」
「うーん、そうだな。どうすれば……」
神は前世と同じく勇者として人助けをしろ言った。この世界で前世のように人助け、つまり少しでも記憶をリンクさせるようなことをすれば能力が覚醒させられるかもしれないとのことだった。
その間にフィロ神は姫を探してくれるようだが、同時に俺達も探さねばならない。
「明日、学校で淳と岸野さんとも話し合うよ」
「じゃあご主人、明日から僕も学校に連れて行ってくださいよ」
モモ太はそう言い出した。自分も学校に行きたいと。
「お前をか?」
「僕も仲間達に会いたいです。僕もご主人の相棒だったんだから、仲間外れは嫌ですよ」
「確かにお前は相棒だが……」
といってもモモ太をどうやって学校に連れて行くのだ。鞄やポケットに入れてか?
学校でもずっと一緒にいる相棒なんてなんだか魔女っ娘アニメのマスコットキャラみたいだな。しかし勇者である俺の相棒なのだからモモ太も俺の仲間ではある。
「わかったよ。だけど授業中とか人前には出てくるなよ」
「了解です」
学校内にペットを連れて行ってはいけない。見つかれば没収どころではないだろう。
見つかれば騒ぎになるのだからモモ太には隠れてもらうしかないが。
翌日、俺はこっそりモモ太を学校に連れて行って勇者一行で部室に集まった。
モモ太は仲間達との感動の再会をした。
「これがポフィですか? ずいぶんと可愛いお姿になりましたわね」
「ちっちゃいっすね。あの世界ではミニドラゴンとはいえ少し大きかったっすよね」
「突っつかないでくださいよー」
ドラゴンではなくハムスターという愛らしい姿になっていて、可愛い。
「モモ太。お前は普段は隠れてろよ。学校にペットを連れてきただなんて校則違反だからな。他の生徒や先生には見つからないようにしろよ」
「わかりました」
そしてメンバーも揃ったので俺達は作戦会議をする。
「じゃあ俺達がやるべきことは、やっぱりフィロ神の言う通りに人助けをするしかなさそうだな。あの神は能力を覚醒させるには前世に近いことをしろと言った。となるとやっぱり勇者の時みたくこの世界でできることをするしかないな。そのついでに姫を探そう」
あの神の言うことを信じるならばこうするしかない。
「神が姫を探している間、俺達が何もしないわけにはいかない。。特に神は俺達が前世に近いことをすると思い出しやすいと言っていた。魔王をどうするかの手がかりも見つかるかもしれない」
「うーん、やっぱりそれしかないっすか」
「でも、そうするしかないですわね。ただフィロ神様が探している間に私達も何もしないというわけにもいきませんですもの」
「僕も賛成ですね」
「ただフィロ神様になんでも任せっきりもよくないからな。俺達が情報収集をする為にも、姫の手がかりにもできることというと前世に近づくしかないな」
「わかったっす」
「わかりましたわ」
「わかりました」
とみんな賛同した。
パーティの意見が一致したところで俺達はこれから何をすべきかを決めた。
「まずは俺達が人助けの依頼を募集する。ゲームで言えば依頼クエストってやつかな。困ってる人が俺達に助けを求めて、俺達が解決。そうすれば記憶がより覚醒するかもしれない」
「では私も茶道部とこちらも兼任させていただきますわ。勇者の仲間として私も参加せねばなりません」
「といっても本当に俺達にそんなことできるっすかねー」
もちろん俺達にはできることに限りがある。本当に警察沙汰にするレベルな依頼なんて来たら解決できるかはわからない。そして俺達は政治家といった権力があるわけでもない。
ただの高校生なのだからできることに限りがある。医療や政治など大きなものはできない。
しかし、かといって何もしないわけにはいかない。
どんな行いが前世に近い行動になるのかはわからないけれど、この世界でも近いことはできるのではないだろうか。
「これでよしっと」
俺達は部室にあったパソコンでSNSのアカウントを作った。
この町の情報収集の為に俺達はSNSにアカウントを作ることにした。
『この学校の悩みを解決します。ご依頼こちらまで』
アカウントにはそう説明して、メールフォームのアドレスを貼る。
さらにチラシを作った。
『この学校の悩みを解決します。ご依頼こちらまで』
と、そのSNSのアカウントのIDとアドレスを貼っておく。
それをプリントアウトしてコピーして大量に作る。
これを委員会に言って掲示板に貼らせて貰えばいい。
その後、俺達はその件を委員会に申し出てチラシを掲示板に貼ってもらえるようにと許可を求めた。
表向きは漫画研究会のネタ集めにという無理矢理な理由だったが、なんとか通った。
色んな生徒からの信頼が強い成績優秀の岸野さんのおかげでそれを通してもらった。ボランティアのようなことをするのだからということで、「岸野さんの言うことなら信頼できる」と通してもらえたのだ。
掲示板にそのチラシを貼って、あとはこれで依頼が来るのを待てばいい
「本当に来るっすかね、依頼」
「自分から困った人を探しにいくのは難しいだろ。ならこれが一番いい方法だ」
「でも、無理難題押し付けられたらどうするんすか」
「勇者だったら無理難題なイベントでも解決してきただろう。それならば、その時のことを思い出してできる限りのことはするんだ。それに、こんな平和な町でこんな平凡な学校での人助けくらいならまあ大丈夫だろ」
これは結局のところやってみないとわからないが、何もしないよりはマシである。
こうして俺達勇者パーティの活動が始まった。