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第3話 勇者パーティの仲間達と再会


ピピピ、という目覚まし時計のアラームと共に俺は目が覚めた。


「はっ!」


 目に入ったのは金色の空間ではなく、いつもの見慣れた自室の天井だ。


 間違いなく、俺が昨日寝るときに入った布団の中であの空間じゃない。


 異世界になんて転生してない。どこかへ飛ばされたわけでもない。

 間違いなくここは俺の部屋だ。とりあえずいつもの場所にいることができてホッとする。


「あれは夢だったのか?」


 違う。夢なんかじゃない。目覚めた俺にもはっきりと覚えている。


 前世での俺の記憶が。あれは間違いなく俺の中にあった記憶だ。


 目が覚めてもぼんやりしない、鮮明な記憶。むしろどんどん鮮明になっていく。


 あそこで見た勇者イセトの人生、あれは俺自身に起きた出来事だったのだから。


 少し混乱した。俺があんな大掛かりな使命を持ってた勇者だったなんて。


 この世界に生まれてから、そんなことは何も知らないまま、記憶もなく生きていたのに。 


 しかし、間違いなくあれは俺の中にあったことだ。


 今日からの俺はこれまでのいつもの俺ではない前世のことを思い出した俺。


 もう昨日までの平凡な男子高校生だった俺じゃない。自分の過去を思い出したのだ。


「くそ、一体どうすれば……」


 混乱して少々落ち着かない俺に、何か物音がした。

 それと同時に、声が聞こえた。


「ご主人、ご主人、起きてくださいよ」

「……!?」


 部屋の中に声が響いた。今ここには自分だけしかいないはずなのにどこから聞こえてくるのか? 誰かがこの部屋に忍び込んだというのか?


「なんだ今の声……?」 


 謎の声が不気味だ。頭を動かして部屋をぐるりと見渡しても人間らしき姿はない。


「ご主人、ご主人。こっちです。早く来てください」


 しっかりと耳を澄まし、その声がする方へと耳を傾けると、それは部屋の隅から聞こえてきた。


 部屋の隅にあるもの。ペットのハムスターのゲージ。


 俺が昨日おやつをあげたモモ太のゲージだ。声はそこから聞こえてくる。


「ま、まさか……」


 ゲージの中から聞こえてくる声、まさかまさかと俺はモモ太のゲージを覗き込んだ。


 モモ太がゲージの網にへばりついて、俺に呼び掛けてるかのようにこっちを見つめていた。


「ご主人、やっと起きてくれたんですね」


「な……!?」


「ご主人、おはようございます」


 信じられない。ありえない。ハムスターが言葉を話している。


 ハムスターは基本的に無言であり、鳴くとしても怒ってる時や怖い時に「ぎー」と鳴く程度だ。しかしこれは鳴き声じゃない、俺にもわかる日本語で喋っている。


「モモ太お前、喋って……?」


「そうですよ。僕、言葉を話せるようになったんです」


 どういうことだろうか。理解が追いつかない。動物であるハムスターが言葉を話している。


「まさかご主人と話せるなんて驚いちゃいましたよ。なんか不思議な夢を見たんです」



「夢……?」

「僕、ポフィですよ。ご主人の使い魔だったミニドラゴンの。なんかこんな身体になっちゃってるけど、それを思い出したんです」


「ポフィ!? お前、ポフィなのか!?」


 外見はどう見ても普通のハムスターだが、モモ太はポフィと名乗った。


 勇者は必ず使い魔を召喚するのがあの世界での決まりだった。

 俺の使い魔のポフィは俺と同じようにこの世界に転生していて、それがハムスターのモモ太だというのだろうか。

 俺の前世の相棒との感動の再会かというのか。


 いや、でも昨日まで一緒に暮らしていたペットなんだから再会とは言わないか。


「びっくりしました。きのう神が夢の中でお告げして、お前は勇者イセトの相棒なんだからお前も覚醒しろとか言われて。こんな身体になっちゃってますけど、僕はフィローディアの召喚獣っすね」


「お前、勇者イセトって……!しかもフィローディアって名前まで」


 モモ太が俺の前世の記憶にあったものと同じ単語を口にしている。


「それがご主人のあの世界での名前ですよね。僕、ちゃんと思い出しましたもん。ぼくの御主人があの勇者イセトってフィロ神に言われました。それでご主人と会話できるようにってフィロ神が言葉が話せるようにしてくれたんです」


 信じられないが、モモ太がそれを知っているということは本当なのだろう。


 でなければハムスターが言葉を話すことも、その記憶を知ってるわけもない。ポフィはこの世界でハムスターに転生していたというのか。


 昨日まではごく普通のハムスターだったのだから、言葉なんて話せなかった。


「でも、こうしてご主人とお話できるようになってなんか嬉しいですよ。僕は今まで喋れなかったから。どうやらご主人も僕と同じように前世のことを思い出したみたいですね」


「どうして? なんで俺達、こんなこと思い出したんだろう」


 これまで生きていて全く記憶になかった前世のことを、なぜいきなり覚醒させられたのか。


 しかも俺だけじゃない、モモ太まで同時に覚醒したというのだ。


「あの神様、この町に危機が迫ってるとか言ってましたよね。それで僕とご主人がフィローディアのことを思い出した理由じゃないですかね」


 神が言うには、この町に危機が迫っているから勇者としてそれを阻止しろと言っていた。

 この平和な町で一体何が起きるというのだろうか。全く想像がつかない。


「うーん……」


 俺とモモ太は頭をうならせた。一体記憶を思い出したから何をすればいいというのか。


 フィロ神様よ、もう少しはっきりしたことをちゃんと伝えてくれよ、と思った。


「とりあえず学校行ってくる、お前との話は帰ってきてからだ」


「わかりました」


 モモ太はそう言うと、ゲージの中の巣箱へと戻っていった。


 俺はいそいそと制服を身に着け、学校へ行く支度をした。


 まだいつもの登校時間よりもずっと早いが家にいるとよくわからない状況に混乱するだけだ。

 いつも通りに学校へ行けばまだ冷静になれるかもしれない。


 とにかくいつもの日常生活に戻ればまだ落ち着けるかもしれない。



 俺は学校へ行く準備を済ませると、家を出て自転車に乗った。


 間違いなくここはいつも俺がいる日本だ。異世界でもなんでもない。


 住宅も、電柱のある町並みも、コンクリートの道路も、人々も、車もあれば自転車だってある。通学路だって、いつも通りだ。


 俺が違う世界に飛ばされたわけでもなんでもない。いつも通りの日常だ。


 少し混乱するが、自転車をこいで学校に着いた。


 まだ朝早いので生徒も少ない。自分の学校の制服を着た生徒達を見ると、安心する。


 いつも通りの学校でいつも通りに俺は登校したんだ。


「さすがに家や学校ではあの夢のことを誰かに言うことをするわけにもいかないな。こんなの変な夢を見たって言われるだけだ。アニメやゲームの見過ぎだって馬鹿にされるだけだ。いつも通り、ここではいつも通りの俺だ」


 そう言い聞かせる。前世のことを思い出したってここではいつも通りの高校生だと言い聞かせる。


 いつものように授業を受ければいいと、教室に入った。


 まだホームルームが始まるよりも早い時間ということで生徒の数は少なかった。


 自分の席へ行こうとすると、岸野さんが俺の隣の席に座っていた。どうやらすでに登校していたらしい。

しかし、何やら顔をうつむけている。どうしたんだろうか?


「あ、岸野さん来てたんだ。おはよう」


 いつも通り挨拶する俺。そう、いつも通りのはずだった。


 岸野さんはいきなり顔をあげるやいなや、突然の行動に出た。


「勇者様あー!」


 そんな声と共に、俺に岸野さんが抱き着いてきたのだ。


「え、岸野さん!?」


 突然抱き着かれて、俺はその重みに耐えきれず、よろけて、どすん、とその場に尻もちをつく。その上に岸野さんがのしかかる。


 ああ、岸野さんの豊満な胸が俺の顔に ってそれどころじゃない。


「ああっお会いしたかったですわ! まさかここでもお会いできるなんて」


 そう言って俺にの頭をがっちり掴んで離さない。


「き、岸野さん? どうしたのさ! なんで突然……! 会いたかったって、岸野さん。どうしちゃったの?」


 会いたかったも何も、昨日だって普通に同じクラスで会っていたのに、なにを突然言い出すのか。


 岸野さんようやく俺を腕から解放し、のしかかったまま俺の顔をじっと見つめた。


「私、記憶が覚醒しましたの! 市瀬さんが勇者イセト様だってことを思い出したのです」


 勇者イセト、俺が夢の中で覚醒させられた前世の名前だ。


「え、イセトって……!」


 なぜ岸野さんがそれを知っているんだ。あれは俺の夢の中だけじゃないのか 


「なんで岸野さんがその名前を! それをどこで!?」


 あれは俺の夢の中で見たことのはずなのに。


 なぜ岸野さんが勇者イセトのことを知ってるんだ。


「私、記憶が覚醒しましたの。前世のことを思い出して。私、ラミーナですわ! フィローディアの教会の娘のラミーナ! イセト様と一緒に冒険した仲間の!」


「ぜ、前世!? しかもラミーナって!?」


 前世、と聞いて驚いた。なぜ勇者イセトの名前だけじゃなくて前世という概念を言うのだ。


 そしてラミーナという名前。それを知ってるということは……。


「岸野さん、君もなの!? というかラミーナって君だったのか!?」


「そうですわ! 記憶が覚醒しましたの! 私はイセト様の仲間だったラミーナですわ!」


 なんと岸野さんは前世の俺の仲間の一人であるラミーナが転生した人物だったというのだ。


 俺とモモ太と同じく、まさかこんな身近に仲間がいただなんて……!


「で、でも。俺あの勇者の姿じゃないよ。赤い髪じゃないし、体格も違う、鎧だって着ていない。なんで俺が勇者だってわかるのさ」


「フィロ神に言われたんです。市瀬さんが勇者イセトの生まれ変わりだって。それにその波長を感じます。間違いなく市瀬さんはイセト様ですわ」


「え……。あ……!」


 岸野さんがそう言うと、俺の中にも何かがぱああと花が開くような感覚がした。


 心の中からじわじわとあの世界の記憶を鮮明にしていく。


 教会の娘として生まれ、俺と出会い共に冒険した仲間。


 岸野さんの頭の上にラミーナの顔が現れたように見えた。


 岸野さんの発言からしてその単語を知ってるのは嘘や演技ではないだろう。



「お、おい、岸野さんが市瀬に! 何があったんだ!?」


 周囲のざわつきに俺ははっとした。 


 いつの間にか教室にはさっきよりさらに登校してきた生徒が入ってきていた。


 教室に入ってきたクラスメイト達が俺と岸野さんが俺にのしかかるような姿勢になってるのを見て驚いていたのだ。


「確かに岸野さんはよく市瀬と話してることあるけど、いつの間にそこまで」

「なんか前世とか勇者とか言ってるぞ、なんのことだ? 一体どうしたんだ?」


 俺と岸野さんのやりとりで周囲がざわざわと騒ぎ出す。


 いかん、これでは俺どころか岸野さんまで変人扱いされてしまう。

ここは一旦この場を離れることにした方がいいだろう。


「ご、ごめん岸野さん、話は後で」


「あ、待ってください!」


 岸野さんの制止を振り切って俺は慌てて教室の外に出た。


まだ朝早い時間だったので教室にいた生徒数が少なかったのが救いか。


 岸野さんと俺のあんな光景を見られてあんな会話を聞かれたら、何事かと思われてしまう。


「岸野さんが俺の前世の仲間……なのか」


 岸野さんが俺のことを勇者イセトだと言ったように、間違いなく俺にも岸野さんにラミーナの面影を感じたような気がする。顔とか容姿じゃなくて雰囲気がなんとなく。


 そもそも岸野さんが俺の夢の中でしか知らない「勇者イセト」の名前を知っているのだ。


 俺の夢の中なんて誰にも覗けないはずなのに。あの岸野さんが嘘をつくとも思えない。


「ちょっと、どこかで一旦落ち着こう。そうだ、部室に行こう」


 ホームルームまでにはまだ時間がある。

 落ち着ける場所はないかと、俺は漫画研究会の部室に逃げ込むことにした。


 部室錬に着て、俺は漫画研究会の部室のドアを開いた。


 すると、そこには先に誰かがいた。


「あれ、淳じゃないか。お前今日は早く来てたのかよ。どうしたんだ?」 


 すると、淳は突然の行動に出た。


「兄貴―!」


「うわっ!?」


 淳が勢いよく俺に飛びついてきたのだ。


 さっきの教室での岸野さんのパターンと同じく、いきなり淳が飛びついてきたのだ。


「ああ、兄貴はやっぱり俺の兄貴だったー! 会いたかったっすよおー!」


 まるで懐かしい誰かとの感動の再会かのように、淳は泣いていた。


「兄貴ってなんだよ。そりゃお前はいつも俺のことをそう呼んでるけど、そんな今更感動の再会でもあるまいに! それに昨日も会っただろ! 一体どうしたんだよ!?」


 俺が淳から離れると、淳は目をうるうるさせていた。


「俺、夢で見たんす。前世のことを思い出して勇者イセトが兄貴だってことを、神が告げたんです。俺達、フィローディアで仲間だったって!」


「勇者イセトだって。しかも前世!?」


 岸野さんと同じように、俺の夢の中でしか見れないはずの単語を知っている。


「じゃ、じゃあお前も」


「俺、ジュディルっすよ。風の一族の戦士のジュディル。兄貴の弟分だったやつっす!」


 ジュディル、と聞いてピンときた俺の前世のパーティにいた仲間だ。


 一人旅をしていたが俺と出会い、共に姫を助ける為の魔王討伐へと行く仲間になった。

 どこか臆病部分はあったが、風を扱う一族の一人ということで、戦士としては強かった。


「お前がジュディルなのか!? 俺の仲間の!?」


 またもや仲間の一人が同じ学校にいたというのだ。前世の記憶を共有してる仲間が。

 俺だけがあの夢を見たんじゃなくて、淳と岸野さんまで俺と共通する記憶を持っていたのだから

 俺とモモ太のように、二人もまた間違いなく俺と同じ夢を見ていたのだ。


 すると突然、部室のドアが開いた。


「市瀬さん、やっぱりここにおられましたのね。部室にいるんじゃないかって」


 入ってきたのは岸野さんだった。


 岸野さんは俺が漫画研究会に所属してるのを知ってるんだから俺がこの部室によくいることを当然知ってて当たり前だ。どうやら教室から追いかけてきたようだ。


「ちょ、ちょっと俺達で話そう」


 この場を落ち着ける為にはまず、ゆっくり話してみる必要がある。

 俺達は部室の椅子に座って話しあうことにした。


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