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第1話 どこにでもいる平凡な俺達の日常

 


俺、市瀬優斗は今日も漫画研究会の部室に後輩と過ごしていた。


「よし、こんなもんかな」


 漫画研究会らしく、俺は漫画を描いていた。


「兄貴、今日も暇っすねー」


 一緒に部室にいるこいつは同じく漫画研究会部員の加村淳。中学時代からの後輩で、俺のことを「兄貴」と慕っている。


 淳とは些細な出会いで、中学時代、こいつがクラスメイトのパシリにされていたところを助けたら以降こいつは俺のことを「兄貴」と慕うようになった。


 なんだかんだこうして今も付き合いが続いている。


 ここは漫画研究会の部室ではあるが、この部活は基本的に普段は俺と淳しかいない。他にも部員は数名いるのだが、他の部活との掛け持ちだったり幽霊部員だ。


 そんなわけで、俺は淳と共同で漫画を描いている。


「暇だっていうなら、こっちの作業手伝えよ」


「はいはいっす」


 俺達は今こんなジャンルの漫画を描こうとしていた。


 現在流行りの異世界ファンタジーでいわゆる異世界転生というものだ、


 現代日本で過ごしていた日本人がひょんなことか死亡して、異世界に転生するというアレだ。


 最近の流行りとして定番だが漫画を描くにはやはり流行を取り入れた方がいいだろう、とそんなありきたりなジャンルを描いてる。


 だがそれをどうやって自分だけのオリジナリティある作品にできるかはまさに描き手次第だろう。

俺達が今描こうとしてるのはこんな話だ。


 現代日本で陰キャな男子高校生が異世界転生をして、そこで盛大な冒険をするというものを描きたい。


 それにはどんなテーマにして、どういったシーンを入れたらいいのか。


 それにはまずキャラクターの外見を決める必要がある。ラフ画を起こして、そこから主人公のイメージ図を考えていた。

「この主人公はやっぱりイケメンじゃないとな。金髪で、鎧を着てて、めっちゃイケメンで」


 前世で陰キャな外見だったからこそ、転生先では全く違うビジュアルにしたい。


「やっぱ最近流行りの異世界ものにするなら主人公にどんな特技を持たせるかだな。前世でなんらかの得意分野があって、それを転生先で生かせれば、テーマとしてばっちりだ」


 これからどんなストーリーにしようか考えていると、淳がこう言った。


「ねえ兄貴。もしも俺達がこんな風に異世界に転生したりしたら、楽しいって思うすっか?」


「そうか?」


「だって、もしもアニメやラノベみたいに異世界転生なんてしたら楽しそうじゃないっすか。現代日本とはまた違う文化で、魔法とかが存在して、逆転人生で金持ちになってとか」


 アニメやラノベではなんらかの得意分野を持った主人公が前世での知識を生かして最初からチートだったりするのが定番だ。


「俺だったらネットもゲームもない世界に転生なんて嫌だがな」


 あくまでもこれは流行りのジャンルということで面白いだけだ。


 こういった話は作り物で、空想の世界である。


 異世界といえば中世ヨーロッパ的な時代である。当然ながら電気も風呂もトイレも生活様式は全く違う。電化製品なんて当然なかったりもする。俺としては漫画もアニメもゲームもネットもない世界なんて耐えられない。


「こういうのはフィクションだから面白いものだと思うぜ。現実ではありえないからこそ、読むのは面白いし、ストーリーを作るのも面白い。それがあるから俺達も最近流行りのこういうのに挑戦しようってことで始めたんじゃないか」


「でももしもっすよ。もしもこういう世界で可愛い女の子にモテモテでハーレム状態だったり、すげえチート持ちで無双できる人生ってのはそれはそれで楽しそうじゃないっすか」


「ふむ」


 異世界転生の醍醐味とはやはり現代日本とは全く違う人生を送ることができることだろう。


 現代日本で得た知識を持って、新しいスキルを入手し、無双する。


 そして周囲には自分を慕ってくれる美女。そしてみんなが自分に恋心を……というのも定番か。


 なんなら最初は弱い立場だった主人公が下克上をして優位な立場になったりもする。


「まあ、そりゃあ俺達の年頃だとそういうのには憧れるな。だが考えてみろ。こういう世界につきものなのはやはり女の子を守ってやれるくらいに強い男だ。下克上をして偉人になり上がるとか、それは常に戦いに身を置いて日々命の危険と共にやり取りをしている。そういう場所だ。つまり、自分がいつ死ぬかもわからないんだぞ」


「うう、確かにそう言われるとそれは怖いっすね」


 基本的にゲームの世界でもそうだ。


 ゲームでは雑魚をしてレベルアップして冒険を有利に進めるといっても、あれはモンスターとの戦いで常に死と隣り合わせである。


 ボス戦など強敵と戦うということは、本当の意味で人生のゲームオーバーを迎えるということだ。


「じゃあ逆に、実は前世で勇者だったりして、この世界に転生してるって話も面白そうじゃないっすか?」


「なんだそれ?」


「現代日本の主人公が異世界に行くんじゃなくて、逆に異世界で生まれたやつが現代日本に飛ばされるとかそういうのっすよ」


「なるほど、逆転生というやつか」


 現代日本で生まれた人物が異世界に転生・転移するのではなく、逆に前世が異世界出身であり、現代日本で転生して生活するというもの。それはそれで斬新かもしれない。


「主人公は異世界で世界を救ったとか、そんな栄光があった上で日本に転生してて、それだったら逆に異世界の知識をどうやって現代で使うか、とか」


 現代日本に住んでる人物が異世界に転生ではなく、実は前世でそんな栄光があってこの世界に転生。


「それだったらその主人公はかつての栄光をどう現代で生かすかだな」


「それだと、例えば異世界での医療や文化、そういった知識を現代で使うことで逆に無双するとか。異世界での医療が現代で役に立ったり、魔法で使っていた道具に近いものを現代で使うとか、生活様式を現代で役に立たせるとか」


 つまり、現代日本生まれの者が異世界でチートするのではなく、逆に異世界で得た知識で現代でチートするといったものだろう。


「それはそれで面白そうな話だな」


「でしょ? 俺達がこういうストーリーを作るってのはどうっすか?」


「確かに斬新なアイディアではあるな。だが、それだと定番の逆の設定ということで難しくもありそうだが」


「うーん、やっぱそうなっちゃうっすかねえ。面白いアイディアだとは思ったんすけど」


 やはりこういったものは構想は思いついたとしても、それをストーリーとして形にするのは難しいものである。

 そんな会話をしながら俺達は作業を進めた。


「ちょっと疲れた。自販機でジュース買ってくるわ」


 ずっと集中しているとキャラデザの作業で少し疲れて喉が乾いた。気分転換も兼ねて一度部室を出た方がいいだろう。


 俺は椅子から立ち上がり、軽くストレッチをすしてドアの方へ歩き出した。


「いってらっしゃいっす」


 淳に見送られながら、俺は部室を出た。



 俺は自動販売機のあるロビーに来た。


 自販機で何のジュースを買おうかと呑気に考えていると、そこには先客がいた。


「あら市瀬さん。ご機嫌よう」


「岸野さん!」


 そこにいたのは俺のクラスメイトである女子生徒の岸野さんだ。


 ストレートな黒髪、美しい顔立ち、すらっと伸びた手足。


 そして制服を押し上げる豊満な胸……って俺はどこを見ているのだ。


 岸野さんこと岸野美奈は金持ちのいわゆるお嬢様だ。


人柄も良く、その物腰穏やかな性格でみんなに優しい。岸野さんは誰とでも仲良くできる穏やかな性格で俺によく話しかけてくれる。席替えで隣の席になってから、俺はよく岸野さんと喋るようになった。


 その上品な部分もあってまさに天使のような女子生徒だ。


「岸野さんも飲み物買いに来たの?」


「ええ。茶道部の皆さんにジュースをご馳走しようと思って。たまにはお茶以外もいいですねって」


 岸野さんは茶道部に所属している。


 岸野さんは数人分のジュースを抱えていた。部員への差し入れなのだろう。


 クラスメイトや部活でも心づかいができて、俺みたいなやつとも仲良くしてくれる。まさに女神のような人だ。


「俺も部活で漫画描いててさ、ちょっと疲れたから休憩にって」


「そうですか。絵を描く作業もなかなか大変ですものね。無理をなさらずに、茶道部にいらしたらお茶をご馳走しますわ」


ああ、岸野さん、本当に女神のようだ。金持ちのお嬢様ってだけでなく、そういう気配りがうまいのが慕われる秘密だ。


「ではこれで失礼しますわ」


「うん」


岸野さんは茶道部の部室がある方へと去っていった。

俺も自販機で飲みたいジュースを選ぶと、それを買って部室に戻った。




 部室に戻ると、淳はスマホで電子書籍の漫画を読んでいた。

 これから描きたい漫画の参考にする為に、今流行りの漫画を読んでいたのだろう。


「兄貴、これおすすめなんすよ」


「どれどれ?」


『ゲーム好きな男子高校生だった俺、勇者様に転生して無双する』


 それはタイトルからして、まさに流行りのテーマだろう。ゲーム好きの主人公が異世界に転生してゲームの知識を生かして勇者になるというストーリーのようだ。


 淳いわく、なかなか人気があるらしく、次にアニメ化する異世界ものはこれではないかと言われいてる。


「俺達もいつかこれくらい人気な漫画描きたいっすね」


「そうだな」


 俺達がこれからどんな物語が思いつくかはわからないが、それは日々考えてみるしかないだろう。

 王道なストーリーこそなかなか考えるのも大変だ。それが腕の見せ所だろう。


「さて、作業に戻るか」


「ういっす」


 こうして俺達は今日も部活動に精を出した。






 下校時間になり、俺は帰宅した。

 夕飯を食べ、入浴をすませる。

 自室にて宿題が終わり、さて自由時間というところで、俺は部活でやっていた次に描く予定のストーリーを考える。


 淳との共同制作の漫画は俺がストーリーを考えてそれを部室で執筆という形だ。


 LINEで次の話について相談しながら一緒に考える時もあるが、大筋を考えるのは俺である。


 俺は机にノートを置いて考えた。


 登場人物の外見のざっとしたラフ画を描いて、肝心のどんな話にするかを考える。


 これまで読んだ漫画やラノベ、アニメにゲーム。そういったものから着想を得て話を考える。ファンタジーもので王道なのは何だろうかと考える。


「そうだ。やっぱ王道と言ったらこれだろ」


 俺はノートにペンで文字を書き込んだ。


『勇者が魔王に攫われた姫を助けに行く』


 これはゲームなどでもお馴染みの定番ものだろう。主人公が勇者で攫われたヒロインである姫を助けに行く。昔からゲームでも定番だ。


 やはり展開的にはこういったものを主軸にした方がいい。


「王道だからこそ、捻った展開を作るのは腕の見せ所だな」


 こう言った基盤のある物語はただありきたりな話を描くのではなく、王道だからこそそれをどう斬新なスタイルで見せるかだ。


 定番ものなら、どうやって勇者が姫を助けに行くのか、その途中でどんな冒険での出会いがあるのか。戦いはどんな感じになるのか。そしてどんな展開を迎えるのか。


「ただのありきたりなイベントが起きるだけじゃダメだな。何かひねった展開がないと」


 俺はこれをどういったストーリーにするかを考える。


 ふと部室で淳が言っていたことを思い出す

「もしも異世界転生が本当にあったら」と


 俺はこういった話を描くのは好きだ。現実ではあり得ないからこそ、フィクションにロマンがある。作り話だからこそ面白いというものだ。


 しかし、もしも本当にこんな話が起きて、自分がその身を経験することになったら。


「俺だったらもしも異世界にでも転生して勇者として生きるんだったらどうするんだろうな」


 そんなことを考える。そういった「if」がまた創作のアイディアになったりするのだ。


「ふむ。とりあえず色々考えてみるか」


 俺は次に描きたい話の候補を紙に書き起こした。


『勇者が魔王を倒しに行く話。それを何かひねった展開にしてオリジナリティを出す』


「それじゃこれを淳と考えよう」


 俺が考えをまとめた時、部屋にカラカラという音が鳴り響いた。


「お、起きてきたか」


 俺は部屋の隅に置いてあるものを覗き込んだ。 


 部屋の隅には小動物用のゲージが置いてある。鳥かごのような金網の箱の中でハムスターが回し車で走っていた。


 ペットのハムスターであるモモ太だ。ハムスターは夜行性なのでこうして夜に起きる。


 従姉妹が飼っていたハムスターが子供を産んだので引き取って欲しいと言われ貰ってきたのである。

ハムスターは雄と雌を一緒に飼うと子供が生まれることがある。


 ハムスターはネズミの仲間なのでたくさん子供の産むことが多いのだが、その時に生まれたハムスターは生まれたのは二匹だった。


 従姉妹がそのうちの一匹のメスを「モモ子」という名前にしたからその兄弟ということで「モモ太」と名付けた。


 ジャンガリアンハムスターでグレーの毛色に背中の黒い筋の模様が特徴だ

 モモ太は通常のジャンガリアンハムスターよりも少し体が大きい、雄だからだろうか。


 まあそれでもやはりペットとして飼っていると愛着も湧くのである。


 俺がゲージを覗き込んでいるのに気がつくと、回し車で走るのをやめてモモ太は俺がいる方角のゲージの網をガジガジと齧り出した。


「わかったわかった。今やるから」


 モモ太がこれをする時はおやつが欲しい時だ。


 餌は常に餌箱に入れてあるが、ハムスターはおやつを欲しがることがある。


 そういった時はひまわりの種や小動物用ビスケットを与えたりするのだ。


 俺はゲージの横にある箱から小動物用の乾燥ビーフを一つ出した。


 それをゲージの網の隙間から中に投げ込むと、モモ太はすぐに駆け寄り、小さな手で掴んで齧り付いた。

 

 こうしてハムスターが物を食べているのを見る時は確かに可愛い。小さいのにきちんと手で持って、それをもふもふと食べるのだ。


 一生懸命齧りついて乾燥ビーフの形が小さくなると、残りは頬袋に入れてモモ太は巣に戻っていった。


 ハムスターというとひまわりの種や野菜に果物などが好物な草食のイメージがある。しかしモモタは乾燥ビーフが好きなのだ。


 ペットフードに小動物用の乾燥ビーフが売ってるくらいなのでハムスターも肉を食べるのだろう。草食かと思いきや意外と雑食である。魚の煮干しが好きなハムスターもいる。


 モモ太は肉が好物だからハムスターの標準サイズよりも体が大きいのだろうか。きっと栄養がいきわたってるのだろう。

 なんだかんだハムスターは確かに癒されるのだ。


 同じ部屋にゲージを置いておくと、回し車の音で夜中に目が覚めることがあるのは辛いが、常に飼い主のそばに置いておいた方が様子を見るのにはいいのだ。


 こうしてモモ太の様子を見ると、俺もそろそろ就寝することにした。


「さて、寝るか」


俺は布団に入って目を閉じだ


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