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サイコロと図書館

※途中、一般的な文章作法を無視して、ちぐはぐな感じのする所は、意図的にそうしてあります。ご了承を。

 僕はユーリに聞いてみたいことがある。

 当然だろ。

 聞いてみたいことがあるはずだ。

 それは聞く必要のないことで、

 聞かなくともユーリが云うであろう答えがわかっていると、

 僕がそう思い込んでいることで、

 僕がユーリが云うであろう答えをわかっていると、

 ユーリは知っている、と

 僕が思い込んでいることだ。

 つまり、聞いても仕方がなく、聞く必要がないことだ。きっと。

 でも、だからこそ聞いてみたいこともある。

 確実に解ける問だからこそ、さっさと答えを教えてほしいと考えてしまうような、そんな感じ。

 だけど一方で、僕が上のように感じている壮大な思い込みは、ただの思い込みでしかなく、

 やっぱりユーリは僕が聞いてみたい質問に対して、

 僕が想像するのとはまったく違う、そして、180度は変わらないような答えを用意しているのかもしれない。

 間違いがないことは、もしユーリが彼女の思いに対し正直に答えるならば、僕が問うてみたい質問に対し、何らかの答えを用意しているということだ。

 でも、彼女が僕のことを深く慮るのであれば、やはりその質問に対し正直な答えをくれないかもしれない。

 頭がこんがらがって来たのだろうか。話はたぶん単純で、僕らはこんなに分かり合っていると、僕自身は想像しているはずなのに。

 わかっていると思い込んでいるからこそわからないこと。

 関数を無限大にして収束させるような。

 

 …でも、質問をすることはきっと生産的な結果を生産しては呉れないのではないかと考える。

 もしも、ユーリが正直な答えを僕によこさないならば、僕は結局答えを得られないのだろうし、

 万が一、彼女が正直な答えを「吐露」するのであれば、きっと何かが決壊してしまう気がするんだ。

 メビウスリングと一緒に。


 僕らはもう働かない。

 病気にかかっているものは、いつ消えるかわからないから、早期労働制度というのがある。

 普通に考えて、人間というのは年を経るに従い、死亡率が高くなっていく。

 聖籠病患者に関しては、その上昇ペースは常人の比ではない。

 高等教育機関「テクノクラーテ」ではその辺りが目下のところ研究されているらしいのだけれど、確率論、積分学、統計学、そんなのを用いて。

 とにかく、普通のペースで働いて、「これから」って時期に死なれては組織としても困る。だから、

 僕らは国の保護を受けながら、常人よりハイペースで教育と労働を受ける。

 そして、常人の半分のタイミングで「除籍」される。手厚い退職金のようなものを受け取って。

 その後も、時給制で働くものもいるけれど。

 僕らはそれを選ばなかった。

 僕は人一倍そのペースを上げてがんばった。

 つまり、ユーリを含めても、その先十分に楽に暮らせるほどに、僕は学び、働いた。 実際、僕はさっき云っていた積分学も確率論も人よりは理解しているし、僕が働いていた貿易財団は、僕の業績によって国の発展に大きく貢献した。

 だから僕は今こうして、30歳になって、ひたすらユーリを抱いて生きている。

 ユーリが働く必要もなく。アイスクリームも食べられるくらいに裕福だ。旅行にもいける。

 僕らは多面サイコロを毎日振りながら生活しているのだ。

 12の目のうち11は幸福の継続。

 12の目のうち一つは幸福の終息。

 いや、

 そのサイコロは僕だけのものなのかもしれない。

 ユーリはどんなサイコロを持っているんだろう。

 12の目のうち11は幸福の継続。

 12の目のうち一つは…?

 

 それこそが、

 僕が答えを知っているということにしていて、

 君はきっと僕が君の答えを知っていると思っていると、

 僕が勝手に思い込んでいる、

 だからこそ、僕が君に尋ねてみたい、

 そして、君はきっと正直に答えないと、

 僕は予想し、

 一方では期待し、

 一方では、正直に答えてほしいと思ってみたくもなり、

 だからこそ、だからこそ?

 だけれども?だけれども、

 彼女がその質問に正直に答えたならば、

 彼女の思いを正直に答えるならば、

 きっと僕らは、君は、僕は、

 何かを決壊させてしまう気がした。

 僕が決壊するのは別にいいなんて思わない。

 そんな格好のいいことも云う気はない。

 できれば僕は、やっぱりこの幸せを、うわべだけの、あるいは「決してうわべだけではないが、確実に深くまでは差し込んでいない幸い」を、決壊させたくはない。

 でも、

 これはキレイ事ではなく、

 やっぱり僕らが決壊することを通じては、彼女を決壊させたくないから。

 そして僕が決壊することで、彼女を決壊させたくないから。

 更にそれを通じて、また僕を決壊させたくはないから、つまり、君を決壊させたくはないから…。

 結局僕は利己的なのか?他己的なのか?

 いや、僕の問いはそんな自問自答自爆的なものではなかったな。 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ねえ、

 君は、僕が死んだ後、

 何を思って、何を思案して、

 何を使って、何を使用して、

 何を信じて、何を信用して、

 何を食べて、何を食事して、

 何を得て、何を獲得して、

 そして何を愛して生きていく、生きていくつもりなのでしょうか?


 ああ、馬鹿らしくなってきた。

 どうしてこんなに結核療養所を描写したような文章を読むような気持ちにならなきゃならないんだ。

 つまりさ、僕らは幸せなんだよ。

 ずっとこうしていられるんだからね。

 ずっとこうしていられないんだから。

 

 「でも、聖籠病が子供にうつっちゃう病気じゃなくてよかったわよね。あと私にも」

 何度か果てたあと、さすがに疲れ、ぼーっとしていると、ユーリは軽い調子でそう云った。

 「どうしてこれだけあげちゃったあとにそういうこと云うかな」

 「これだけもらっちゃた後だからよ」

 まったく恥ずかしげもなく、一直線にそう返す。

 「だって、子供にうつる病気だったら、いろいろ気をつけなきゃならなくなっちゃうし、あまり気持ちよくなくなっちゃうでしょ?まして、もらったら私に移るって話になっちゃったら、すっごく美味しい毒薬を飲むようなものよ。私、味わう自信ないなぁ」 まあ、それでもあなたがそこにいたら飲んじゃう気がするけどね、とユーリは調子を変えずに云う。

 「結局何のために生きるのかって云う話になってくるのかなぁ。やだな、私そういう倫理っぽい話」

 「自分で言い出したんじゃないか…。まあ、人生の質は安定とか、健康じゃないって云う話か」

 「人生の質は、愛情とか、行為の質で決まるって云う話よ」

 「何言ってるんだか…」

 ユーリはこれでいつも通り。何も変なところがないユーリである。

 「明日は早く起きる必要はあったかしら?」

 ユーリはまた顔を近づけて、

 「ないね。なにもないよ」

 僕はまたキスをする。される。

 「そういえば、明日はいつ明日になって、今日はいつまで今日なのかしらね?」

 一瞬唇を離したときに、ユーリはそうつぶやいた。

 とりあえず、その日のうちに答える暇はなかった。

 答えなんかどうせ持っていなかったけれど。

  

 

 目を覚ました時、全身は異様に火照っていた。

 自分で自分の体を触るだけでも解る程、全身と云う全身が敏感だった。

 「…そりゃあ、あんな夢を見ちゃったらな」

 今度は前よりいくらか記憶に僕が残っていた。

 僕はユーリと云う女と、飽きる程、でも決して飽きることなく、抱き合っていた。

 疲れて眠ってしまう瞬間まで、「僕ら」行為し続けた。

 羨ましいと云うか、恥ずかしいと云うか…そんな気持ちと行為の記憶が、体をそんな風にしていた。

 「…だから、こんな時間に、目、覚ましちゃったんだな…」

 その部屋にまだ朝が来ていないことは明らかで、部屋は限りない群青で満ちていた。

 「…それにしても、夢ってのはこうも同じテーマのものを見るものなのかな…。ユーリって女は、間違いなく昨日もいた…」

 果たしてストーリーまでつながっていたかどうか…。そこまではよくわからない。

 今回にしたって、こっちに戻ってくる直前のシーンが強烈すぎて…いや、そう云うシーンしかなかったんだったかな…とにかく「それ」以外は覚えていない。

 わかったことは、ユーリと云う女は、確かに大事な存在だったと云うことだ。

 僕の夢の中に於いて…。

 

 夢の話は誰にもしなかった。

 その夢が普通の事なのかどうかわからなかったから。

 例え普通の事なんだとしても。

 普通ではない可能性の高い僕にとっては、普通ではない事かも知れない。

 そうだとしたら、その事を知るのは、些か怖い。

 

 その日は、地理でレポート課題が出されて、調べものの為に僕らは図書館へ行った。

 「しかし、オレたちは受験がないからいいけどさ、受験組はこんな時期に調べものなんかしてる暇ないんじゃねえか?」

 それについては誰もが同感する所であろう。実際、かなり不満が起こっていたようだ…。

 「まあ、そんなにシビアな評価するわけでもないだろうし、いいんじゃない?下手にテストやるよりは」

 冷静に考えたら、これがテストの代わりになるって云うんだから、なかなか親切なことじゃないか?

 一方で、そう思ったりもする。

 

 この街の図書館の中はいつも明るい。日ざしが入りやすいよう工夫された作りになっていて、いざ来てみると、なかなか居心地はいい。

 「あ、机空いたから、とって来るわ」

 で、居心地がいい空間として評判がいいので、平日の午後と云う半端な時間にもかかわらず、随分とこんでいる。

 だから、空き次第に席をとっておかないと、複数人で座る席はすぐ埋まってしまうんだ。

 それは君津に任せて。と、僕はまず、産業のコーナーを物色した。

 因みにテーマは「とある一つの製品に関し、シェアの多い国や地域、或いはその産業的特徴」をまとめるもの。

 結構手の入れ加減が微妙で。適当にやればどうとでもなるし、本気でやると大学の論文にもなりそうだ。

 因みに僕は(多分君津も)、まだテーマを全く決めていない。早い話、ここで手頃な本をみつけて、その本に書いてある産業を書こうって云う作戦だった。

 「農産物ってのもアリだな…カカオとか…工業製品だったら…車とかか?」

 僕は大まかに産業別に分類されている棚を右から左へ、タイトルを物色しながら目をスクロールさせる。

 そこに、目が止まったのは、完全なる偶然。或いは、殆ど必然。

 「病院・医療」というコーナー。

 目に止まった本の名前。

 

 『ユーリ・ファーマシーの軌跡』

 ふと、目についたタイトル。

 「…へえ。ユーリって本当にある名前なんだな」

 心なしか動揺しているのは、僕がこの名前を見ただけで、夢の中でのことを思い出してしまっているから。

 …はぁ、恥ずかしい…。

 殆ど無意識的に、僕はその本を手にとった。

 課題の足しにはならないだろうけど…。


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