招宴の始まり
王家のパーティはそれは豪奢なものを想像していたが以外にも質素なものになっている。調度品は確かに意匠が凝っており素人目にみても高額なものだろうと想像の付くものは多いのだがそれを愛でるわけでもなく素通りして社交に励む貴族たちばかりだ。
我が国は現在、国王は健在なものの次期国王をめぐって派閥争いが起こっている。複数の跡継ぎがいる国の必ず通る道といえばそうなのだが、今起こっている争いはなんとも複雑になっている。
第一王子であるポールト・ド・ルイは保守貴族はと近衛を派閥に組み込んでいる。第二王子であるポールト・ド・サンソンは軍閥貴族と兵士、城兵を派閥に組み込んでいる。第三王子であるポールト・ド・ロイは新興貴族と衛兵を派閥に組み込んでいる。それぞれに味方する貴族がことなり、協力する武力が異なる状態だ。現在は第二王子派閥がかなり王都では優勢なのだろう。先日、2番が兵士の恰好をしていながら王城内の噂を入手していることから何かあるとは思っていたが、王城内を巡回する兵士をちらほら見かけることから得心がいった。たちが悪いのはこれで城兵が面白くないとなればよいのだが同派閥に取り込まれているため住み分けをするに留めてしまっているということだ。
「これはシャール卿、貴殿も引っ張り出されてきましたか。出来れば中央とは関わりたくはないのですがな。」
「なにをおっしゃるのですかバーク卿、最近は貴殿の領地の特産である絹が中央のご婦人方を虜にしていると聞きますよ。」
この豪快な笑いで話をごまかそうとしている御仁はバーク・イタリー伯爵私よりも広大な領地を持ち養蚕を成功させ一着で庶民ならば贅沢しなければ一生を過ごせるだけの金が飛び交い、非常に政に明るく、さらに商機を逃さず販路を着々と拡大させている。これで前回の「大嵐」にて、単身で王都に続く橋の一つを死守した武闘家なのだから、神様は平等という言葉をもう一度考えた方がいいだろう。
「しかし、卿が出てくるということはこのパーティで何かあるというのは確定なのだろうな、明るい話題であれば市場をさらに盛り上げることが出来るというのに。」
口ではこんなことを言っているが、ここ数日の王都での祭りはバーク卿はじめ商会連合と繋がりのある貴族がそれとなく噂を流して仕組んだものであっても不思議ではない。
商会連合とはいくつかの商家が組織しているもので主に市場の物価の調整や流通量の統制をとっている。財務省の人間も連合に席を置いており、完全に政治と独立しているわけではないが、よほどのことがない限り国が関与することはないと言われている。実際に私自身が席を置いているわけでもなく、大々的に動く組織というわけでもないのもあって、活動内容の全貌を知っているわけではない。この国に仇なさない限りはバーク卿のような強力な後援者の庇護下でやっていくだろう。
「それ以上に館を重くしては皆が困ってしまいますよ。それに、私もさすがに王家からの招待状を無視することは致しませんよ。」
などと他愛のない話をしていると王座と王家の方々の席が用意されている壇上に人影が現れた。
「ポールト王の御成りぃ」
高らかと重低音でそれなりに広いパーティ会場の端まで届くほどの声で王家の方々の到着を知らせられると、威厳をたたえた足取りで各々に割り振られた席の前に移動する王家の方々が現れた。
「諸君、今回の集まりに出席してくれたことを嬉しく思う。皆の記憶にも新しいであろう「大嵐」の爪痕が各地に残っているなか、諸君らの献身によって我が国は以前の威光を取り戻しつつある。しかし、どうにもならないことも存在している。「大嵐」を鎮めるために散っていった英雄たちだ。彼らの我が国への無償の奉仕といっても良いかの戦働きに我々王家は報いなければならない。そこで、英霊たちが健やかに休めるように我が国の戦力回復は急務であった。一見平和に見える情勢は薄氷の上に立っていることを我々は理解している。この状況を打破するために勇者召喚を執り行い、見事3人の勇者を我が国に迎え入れることが出来た。」
王家派閥からであろう拍手が国王に送られ、会場は拍手の渦に飲まれた。万来の拍手が収まるのを待ち、国王がまた話し始めた。
「ありがとう諸君、皆に今日集まって貰ったのは他でもない、この3人を紹介するためなのだ。それでは新たな英雄の叙事詩が紡がれる最初の一幕に我々も立ち会おうではないか。3人とも壇上に上がってくれたまえ。」
黒髪で背は少年より少し歳がいったように見える少年、同じく黒髪で肩まで髪を伸ばし、最初の少年よりも若干背が高い少女、茶髪で他二人よりも高く、どこかのんきに歩いてくる青年が王の呼び声に応えて壇上に立つのだった。