王都の執務室にて
館に入ってすぐ見えてくる左右対称に2階へと伸びている階段は独特な木目となる魔獣のトレントから作り出していて、木の温かみを演出していながら、材質のせいか気を引き締められる。絨毯はたしか既製品を買ってすませたはずだが、少し見ない間に良いものに変わっているように見える。いつの間にやら減っている可能性が高い金庫の中身に思いをはせながら旅装を脱いで普段の服装に着替え、執務室に入るころにはテンタル、リーリヤ、2番がすでに待機していた。
「それでリーリヤ、王城ではどのようなことになっているのかな。」
「まずは2番から報告させていただきたく存じます。2番」
「はい、はい、はい、我が家くらいなものですな、安心して声を出せるのは、そいで旦那様、我らが王国に呼び出された勇者殿はどうやら複数の「恩寵」をお持ちのようですよ。男の一人はすでに近衛師団長と互角の剣裁きだとか。」
「恩寵」とはそれぞれ大なり小なり持っている無意識に出来る技能のようなものだ。あるものは手から火を出すことが出来たり、あるものは包丁を持たせれば美味なる料理を作り出すことが出来るといった具合だ。この「恩寵」とは別の体系として「魔術」が存在する。こちらは様々な事象に干渉することができ、砂嵐を起こしたり炎の槍を投射したりと学問体系になっているだけに出来ることは多岐に渡る。その中でもずば抜けて「魔術」に長けている者たちを「魔皇卿」と言ったりするが、この方々については話題に出れば思い出すとしよう。
「つまりなんだ、この短期間で10年以上師団長の地位を守ってきたパーラ卿と互角にやりあえる逸材を後2人は王城で生活をしているということか。」
「えぇ、えぇ、えぇ、本人を見ること自体は出来ておりませんので、各派閥の枝葉たちの騒めき程度に思ってもらえるといいんですが、騒めきにしては上から下まで似たような話でしたので、ほぼ表面上に流れている噂としては確実かと。」
噂程度と軽んじるのは誰でも可能だし、吟遊詩人はそういう有象無象をつぎはぎして面白おかしく謳うのだから後世にそれが真実となることはあるだろう。だが、上から下までということは下女のような王城に務めているだけの者から各省の貴族までがほぼ似た話になっているということだ。踊るのが得意な典型的な貴族ばかりなら良いが各省の人間までもがとなると気を付けなければならない。叩き上げ共の巣窟からも同じ話題がでるのだから信憑性は高いのだろう。
「しかし、2番は王城に潜っているのか、服装からしてもそうだが大胆だな。」
2番の服装というのはこの国の兵士の恰好だからだ。街道警備中には特にだがいつ戦闘になるかわからないし、戦闘に華々しさは必要ないという理念からフルプレートアーマーに目出し兜という実に簡素な装いなのだ。確かなんとか隊長とかになると目出し兜に意匠をつけてよいのだったか、短剣を彫り込んでいるがどういう意味なんだろうか。
「いや、いや、いや、旦那様。こういうのは大胆にしているほうが意外にバレないもんなんですよ。それに一応正規の手続きは経てるので真っ当な「兵士」させて貰ってますぜ。」
「そうなのか、では何かあった時には隊長殿に相談するとしよう。」
「えぇ、えぇ、えぇ、真っ当に誠実に過不足なく兵士の仕事をさせていただきまさぁ。」
「戯れはほどほどに、それでリーリヤからの報告とはなんなのでしょうか。」
「はい、王城で開かれるパーティなのですが、搬入され方が妙なのが一点、さらに妙なものが搬入された形跡が見つかりましたので、ご注意ください。」
「妙な搬入のされかたにものか、それぞれ教えてくれ。」
パーティなのだからそれなりの量を用意しておかなければ王家としての威信が問われるのだろうからそこら辺についてはある程度分かるが、搬入のされ方について気になるほど搬入しているということだろうか、それに妙なものというのも気になる。
リーリヤの次の言葉を待つのであった。