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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
流れゆく刻
32/34

何かの始まり

 リストを見たからにしてはやたらと突っかかってくるのが面倒になったので、強引に聞いていみたが不味かったかもしれない。そんなことを今更ながら思っているとノックの音が鳴った。


 「ご歓談中に失礼いたします。旦那様、少々困ったことが…」


 テンタルが場の雰囲気をつかんで濁してくれているが、領主であればよくある面倒ごとが舞い込んできたようだ。


「こちたの方々なら大丈夫だろう。それに何も悪いことをするわけじゃないのだからあまり言いよどむと疑われるぞ」


 「それもそうですね、旦那様、魔物が現れましたよ」


 どこの領地にも出てくる可能性がある魔物だが、森があるところには出現頻度が高い。噂には門のようなものがあってそこから魔物が出てくるというおとぎ話はあるが、ほとんどが文字の英雄たちによって塞がれている。現実でも是非活躍して欲しいものだ。


 「さてはて、勇者殿が丁度おられるのだ。活躍していただけますかな」


 「話がまだ終わっていませんが、困っている人がいるなら見過ごせません。」


 あまりこういうことで勇者殿のような異物を入れたくはないのだが、建設的には出来ないであろう話し合いを続けるよりはマシというものだ。


 「それではお願い致しましょう。ですが、まずは情報収集を行わなければいけませんね。」


 「そういうのは部下にやらせるものじゃないんですか。」


 「事前に出現する魔物、数、規模、気候、地形条件等がわかるのであれば良いのですが、今まさに報告された事象に対して悠長に取り組んで良いのか悪いのかについては即決出来ているつもりですよ。」


 そう言いながら現状館の中にある戦力や途中合流可能な部隊がいないかの確認をテンタルに命じる。程なくして動ける人員の規模が確定したため魔物が現れたという地域に向かうことになった。


 「最低限の資料にはなりますが、今向かっている地域の資料になります。勇者殿も目を通しておいてください。」


道中に特に話すこともないし、変におしゃべりをされても困るので、暇つぶしになればとテンタルが集めてくれた情報を共有しておく。


 「資料ってこれニケラ村という村が近くにあって、牧畜が盛んであるということ以外わからないじゃないですが。」


 今回の地域は新しく入植地のためそこまで情報があるわけではないのだが、牧畜をしているということは常に獣害について考えている筈の村人達が領主にまで陳情をあげているということを考慮しなければならない。

 もちろん、手に負えない規模になってしまったなら軍に依頼するというのは自然な流れだが、そういう報告は入っていない。


 「そうですね、何分ここは首都などとは離れていますから、情報の共有や収集が難しいのですよ」


 「ならもっとそういうことに人を割けばいいじゃないですか、情報は大事ですよ」


 まったくその通りなのだが、情報の集積には膨大な時間がかかることを分かっているのだろうか。


 「おっしゃる通りなのですが、そういう人員を育成するのも非常に時間と金がかかるものなのですよ。」


 「領主は贅沢をしたり奴隷を買いつけるのに、そういうある種の国防については予算を出し渋るんですね、政治屋みたいだ」


 ある程度の知識は持っているのだろうが、ちぐはぐな知識をつなぎ合わせたかのような発言をする勇者殿に怒りとも呆れともなるような感情を持ってしまったが、このままでは致命的になると思い、私が知っている限りの知恵を話すことにした。なんだかんだと私も甘いものだ。


 「ふむ、あなたたちはある程度の教育を受けているのでしょう。首都でも受けているでしょうしね。それはあなた方に価値があり、それを維持、増進させるためにという側面があります。」

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