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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
流れゆく刻
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堂々巡り

尚も勇者御一行との楽しい対談は続いているが、如何せん彼らが感情論に過ぎる。


 「そうですか。しかし、大多数の貴族が奴隷というものに一定の関心を持っていてそれについては個人的に対応するのではなく貴族として対応するものが多いのです。」


 「どういうことですか」


 「貴族が収める地というのはある種の小さな国といっても構いません。国というものには需要と供給というものが存在していて、それはどのようなものについても付きまとってきます。」


 国というと大袈裟かもしれないが、確実に経済は動いているし、その金額が時として膨大な金額を動かすこともあるのだから、大きな権力というものに溺れやすいというのは一定の理解をすることが出来る。往々にしてそういうものを振り回すのが好きなのは若者か突然そのような力を持ってしまった者が多いのだが


 「そして、領民というものは有限なのですよ。他領から引き抜いてしまえばその領主との関係に影響出てしまいます。しかし、経済活動を活発にしていこうと思えばどうしても労働力という問題が出てきます。」


「だからといって奴隷を使う必要はないでしょう!」


 「ふむ、確かに時間をかけてやれば出来るでしょう。ですが、農業をするにも鉱山を開発するにしても成果が出てくるには時間が必要になります。労働力の補充をするのに貨幣ですむのであればそれを持つものが使わない手はないのではないですか。」


 「そんな理由で奴隷達の権利がなくなるのは納得いきません!」


 「権利ですか、確かに多くの権利を失っているのかもしれませんが。失っていることで守られているともいえるのですよ。」


 基本的に口減らしで売られたものや戦争で捕まった奴隷というのはものはその地で生きていくことがそもそも難しい者たちが多い。口減らしで売られたものは語るまでもないが、戦争奴隷というものは言語が通じないというものも多かったりする。そういうものは自身で生きていくにはまず言葉の壁を乗り越えなければならず、戦地でそのようなことが出来るはずもない。あえて触れていないがそういう目的の奴隷はいるが、それらは目的が目的なだけにマシな待遇が多いため考えないでおく。


 「守られているわけないじゃないですか!不衛生な環境で押し込まれるようにして檻の中にいるのですよ。」


 「もちろん、そういう商人もいるでしょう。ですが、右も左もわからない土地で必要最低限の衣食住が整えられ、死を待つことなく明日がむかえられるのです。」


 「その必要最低限というのが良くないのですよ!一日にパンが2つと薄いスープだけなのですよ!」


 それはとても良心的な商人なような気がする。空腹というのは単純に気力を削いでしまう。だが、彼らはそれを商品としているのだ。戦地でやたらと辛くて硬い干し肉を煮炊きの煙を避けて水で必死にふやかして啜る。何かが腹に入れば人は飢餓から遠のいていき、家族が待っているやらと都合のいい言い訳を自分に言い聞かせながら眠りにつくことが今までなかったのだろう。


 「食事が出るのならば生きることは出来るでしょう。野ざらしでないのであれば雨風はしのげるのでしょう。あなたのすぐ近くにいるその元奴隷はよくわかっているのではないですか。」


 ゾド殿が今にも襲い掛かりそうな表情をしてこちらを見ている。それにしても話が堂々巡りになってきた。


 「まぁ、この楽しい会話を続けても構わないのですが、結局勇者殿はどのような目的で来られたのですかな」


 「だから、奴隷の解放を…」


 「あぁそういうのではなく、この地に来た理由ですよ。建前についてはもうよくわかりましたので、その名簿とやらの中で私を選び、この地にまで来た理由が知りたいのです。」

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