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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
流れゆく刻
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平行線

 確かに自身の心情に反する状態を理不尽と考える者はいるだろう。だが、人の世の中で理不尽と感じているものは大体それを覆い隠すだけの見返りがあることが多いのだ。


 「奴隷の価値とはどのようなものなのですか!」


 「それぞれ用途が異なりますからね、買った者次第ではないでしょうか。戦闘の為に腕っぷしを見込んで買うモノ、屋敷を維持するために買うモノ、勿論、それ以外の目的で買うものもいるでしょうね。」


 「それでは、その人自身の尊厳が無視されているじゃないですか!」


 「尊厳ですか、確かにそういう考えはありますが、その尊厳の為に死を選べる者はそう多くないのですよ。勇者殿」


 「生き死にの話ではない筈です!」


 「わからない方ですね、村を盗賊に襲われ、両親を殺された者がどうして狩猟が出来るのですか。戦争で片腕を無くした者がどうすれば家族を養っていけるのですか。勿論、それまでに残酷な形を迎える者もいるでしょう。買われた後に凄惨な目にあわされる者もいる。ですが、それまでに等しく金銭が発生しているのですよ。それは価値ではないのですか。」


 「結局のところ、奴隷を正当化したいだけではありませんか!」


 最終的には奴隷を解放したいのだろうが、あまりにも感情的に過ぎる所がある。その感情に同調するものだけの世界に居れば問題ないのだろうが、彼が踏み入っていくのはおそらくそれらと反する考えが渦巻いている世界なのだ。


 「そして何より、先ほど例を挙げた以外にも奴隷というのにはなりえるのですよ。」


 「えっ」


 「口減らしですよ。平民というだけで税を取られ、自身が死なない為に子供という品を売る者、毎日2食は食べれるかもしれないと希望をもって子供を売る者、国の身勝手な戦争で足を失い、碌に畑仕事も出来ない青年をごく潰しと罵り売るもの…挙げ始めたらきりがありませんね。」


 「そんな…」


 「月並みな言葉ですが、皆生きるのに必死なのですよ。そちらの彼のように不幸さえなければ腕っぷしで稼ぐことが出来る者というのはごく少ないし才能というのは全てを助けてくれるわけではないのです。」


 「ちょっと言葉が過ぎるんじゃないですか」


 先ほどまで黙っていた聖騎士殿がこちらを睨みつけながら言葉を吐き捨てた。彼らの誰一人にも戦闘で勝てる気はしないが、あくまで対話ということでならと応じてきた。


 「そんなに剣呑な表情をなさらないでください。それにそちらの彼も剣の調整はこの場でなさらなくても良いのではないですか。」


 「む、これくらいは気づけるか。武闘派が多い国の貴族らしいな」


 「さて、話が少しそれたかもしれませんね。奴隷についてですが、私自身は購入しましたが、その後は手厚く扱わせていただいていますよ。」


 「そんな物みたいな言い方しないでください!そして奴隷から解放してください!」


 「その奴隷の解放とはどういうことですか。」


 「奴隷たちには奴隷紋刻まれている筈です!それを解いてください!」


 奴隷紋というのは言うことを聞かない奴隷であったり言語が通じない奴隷に対して施されるものだ。前者のに施すものには戒めるために使われる。言語が通じる者や表面上は従うものについては何の効力もない焼き印を二の腕に施す。


 「それでは奴隷たちの腕を焼けというのですか、それとも削げと」


 「魔術的な紋のことです!彼だってされていたのですから!」


 ということは彼ことゾド殿は奴隷商人に逆らうか抵抗するかしたのだろう。おそらく、彼のような奴隷を扱っている商人ならば全て戒めておかないと枕を高くして眠れないのだろう。一応、私の方でも調べた方がいいかもしれない。まぁ所有物を示す為にあえて施す連中もいるのだから真相は分からない。


 「あなた方は奴隷についてもう少し詳しく調べた方が良いかもしれませんね。そうすれば少しは話の行き違いが正せそうだ。」


 「奴隷というだけで売る側も買う側も正義なんてありません!知る必要もありません。」


 知るという行為はとても難しいものだ。学問であれば解法であったりを理解してしまえば対応することが出来ることが多い。だが心情であったり情勢を知るにはそれぞれの立場、考え方、決断がどのような影響を及ぼすのかを薄っすらとでも想像できなければ盲目のまま渦中に飛び込むことになる。つくづく知るということは人間が出来る行動の中で最も難しいものの一つな訳だ。


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