勇者の思考
報告の通り、数日後に勇者御一行が我が領都に到着していた。御一行は到着した翌日にこちらとの面会を求めてきたが、2,3番が戻ってくるまでの間は他の面会があるやら公務があるやらで凌いでいた。
そんなことをしている間にこちらの用意も出来たため、御一行をお呼びして面会しているのだが、一級品の装備を身にまとっている勇者殿と聖騎士殿、魔導士らしくない革鎧を身にまとっている魔女殿の他に、大剣を背中に背負っており、一般的な男性よりも一回り大きな体をしていて、茶髪に顔には無数の傷がある獣人の男性がいた。
「このような辺境で勇者殿をご拝謁できますことを喜ばしく思いますよ。」
「あぁ、いえ、そのようなことは」
「おい、カイト、おべんちゃらに照れんな」
王都ではどのような扱いを受けていたかはあまり知らないが、こういうことにあまり耐性がないのであろう。
「歓談を楽しみたい所ですが、勇者殿もお忙しい身でしょう。今回、私を訪ねて来たのはどのような理由でしょうか。」
「はい、それはこの国で起きている奴隷についてです。」
何を訪ねてくるかと思ったが、そういうことか。奴隷制というものをあまりよく思っていないということは報告で受けているし、どこかの奴隷商の名簿に私の名前でも見つけたのだろうか。
「ほう、奴隷ですか。別段この国でも禁止はされておりませんからな」
「そこなのです。今、僕たちは王都で奴隷商の悪事を暴いていっています。とある奴隷商が持っていた名簿の中にあなたの名前があったからここまで来ました。」
「ふむ、そうですか。それで。」
「奴隷を買うことを止めていただけませんか。そして今働かせている奴隷を解放して欲しいのです。」
これは驚きだ。聖人にでもなりたいのだろうか、自身が気に入らないからやめてほしいと頼んでまわっているとは
「それは私にどのような利点があるのでしょうか。」
「これはそのような話ではないのです!同じ人が苦しめられているのに、何故利益を求めるのですか!」
「話が見えませんな。勇者殿は私の領内で苦しむ奴隷を見かけたのですかな。」
「見かけていないからあなたに頼んでいるのです!どのような場所で働かせているにせよ、奴隷から解放して欲しいのです。」
「再度お伺いします。奴隷商の名簿に私の名前があり、私の領内でも奴隷を働かせているのであろうと踏んだあなたたちが見ていた光景の中に奴隷はおりましたか。そして、もしそのようなモノがいたとして、それを解放することで私に利益はあるのでしょうか。」
「だからっ」
「ちょっと待てカイト。この人はこっちが名簿の名前のみで奴隷を抱えていると決めつけていることに疑問がある筈だ。先ずはそれを説明しないととぼけられ続けるぞ」
とぼけているつもりは無いのだが、元は奴隷でも今は立派な耳目たちばかりなのだ。私はどちらかというとこの危ういまでの正義感に疑問が生じていた。
「そ、そうか。それはこのゾドが実際に見ていたからだ。」
「確かに俺は此奴の名前を聞いたが、此奴自身は見たことないぞ。」
「あれ、そうなの!」
「ふむ、つまり私の嫌疑は晴れたと考えてよろしいかな。」
「いえ、どちらにせよ奴隷商の名簿に載っていましたので、もし奴隷を買っていたなら即刻解放を」
「そこなのですよ、勇者殿」
「えっ?」
「勇者殿は肉を食べますかな」
「はい、食べますが…」
「では、肌着のような衣類は買われますかな」
「一回の遠征でダメになるものは…」
「それでは何が違うというのですかな」
「どういうことでしょうか」
「肉を食べるために「買う」、衣類を「買う」これらは一種の経済活動と言えますな。それでは、奴隷を「買う」ことはどうなのでしょうか。」
「それは誰かの尊厳を無視した経済です!」
「尊厳ですか。それでは、そのもの達はその尊厳の為に死ぬのですかな」
「そんなことは言っていません!」
「おっしゃっているではありませんか。経済を回すためには「商品」を「供給」する。その商品に価値を見出した者が「買う」。別に私は経済を勉強しているわけではありませんが、それだけのことではありませんか。」




