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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
流れゆく刻
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静謐の棺

 平和というものは、日々の日常を積み重ねることによってのみ成立するものだと私は思っている。朝、何物にも邪魔されることなく眠れたことを喜び、領地から採れる恵みを食み、その場で対応可能な問題や中長期的な領地運営を信頼できる部下と共に試行錯誤し、生死のやり取りをすることが無かった一日を夢枕に眠る。

 これが私にとっての最高の褒美としているのだが、他の方々はそうもいかないようだ。領地を維持している間にも大小様々な貴族が転封であったり領地取り上げなどの粛清まがいなことをされていたようだ。

 何故他人事なのかというと、私のような魔獣の生息地を近場に持つ領地というのはあまり好まれないのだ。

 それ故にどのようなことになっているのか把握していなかったのだが、貴族どもがどうのというのは正直どうでも良いことなのだ。重要なのは勇者御一行がついに取引のある奴隷商に行きついてしまったことだ。

 彼らには彼らなりの思いがあるのだろうが、香りが甘くなるほどに角砂糖を落とした黄茶ばかりが好まれるわけではないのだ。

 

 「勇者御一行はこの国の最大戦力の一角であり、騒動の中心にいつもおられるな、まったく」


 愚痴を吐かねばやってられないが、この場にはテンタルしかいないのを良いだろう。


 「旦那様、お気持ちは察しますがさらによろしくないことが起きているようですよ。」


 テンタルが封筒を持ってこちらに近づいてきた。それを受け取って手早く封を切り、内容を改めるとどうして今なのだという内容が書かれていたため、頭痛を覚えて文末まで読まずにテンタルに投げてよこした。


 「旦那様、行儀がよろしくないですよ。そういうことは外では決してしないでくださいね。内容、拝見いたします。・・・・・・っ。」


 何やらお小言を言っていたが文章を読んでいくと顔色がどんどんと悪くなっていく。さもありなんだ。


 「この内容は本当なのですか、帝国が内乱状態というのは」


 「その封筒で来ているのだから情報源そのものは信用出来るだろう」


 普段の部下へのやりとりや貴族相手に送る封筒ではなく緊急時のみ使う封筒で届けられている。こちらが放っている密偵からのものなのだから、部下を信用するのであればこの封筒の中身は確かな情報なのだろう。

 もう一つ緊急の封筒があるのだが、こいつを読む気にもならない。もちろんそんなわけにはいかないのだから読むのだが、何かが起こる時はだいたい急で外部からの修正というものが厳しいのだ。


 「はぁ、王城はどうなっているんだ。 短剣がかなりの数折れているらしいぞ」


 「珍しいですね、宰相殿が考えなしに振るうことは無いでしょうから相当の妨害にあっているのでしょうね。」


 「面倒だぞ、回収さえ妨害されているようだからな。」


 「そうなりますと手繰られていてもおかしくありませんな、早々に別の任地に振ったほうが良いでしょうに」


 王家直属の諜報・防諜機関「短剣」は基本的に大立ち回りをするような組織では無いので、私のような木っ端貴族が放っている諜報員にバレているということはいろいろと片手落ちのまま動いているということだ。


 「それと先ほどゴッコから伝令は来ておりますよ。」


 「珍しいな、境界付近で何かあったのか、読んで来ていくれ。」


 ゴッコはあんな戦争があるとき以外は基本的に隣の領付近で治安維持に努めてもらっている。見た目があれなので道の警備というわけではなく道以外、山や林といった見える警備がいないところから境界を越えようとしてくるものをお仕置きして貰っている。


 「へへへ、ダンナから聞いてやしたが旦那はほんとにえらいさんだったんで」


 「あぁ、窮屈で仕方がないがな、報告を」


 「なんでしたっけ、勇者さん方が領都に向けてきてやすぜ。あっしがダンナから伝言頼まれて馬使って走って来やしたからまだ数日後になると思いやすが。」


 「何か連中がこっちに来る目的はわかっているか」


 「いんや、ダンナが隠れるの得意なのに探らせようとして失敗してるらしくて、急いであっしが来た感じですね」


 ふむ、森や林を知り尽くした者たちが隠れて感づかれるというのは少し厄介だな。領都内でも張り付かせるのは難しいかもしれないし、荒事になることも考えられるので2,3番は一旦戻しておくか。


 「テンタル、2,3番を戻しておいてくれ。招かれざるお客さんがどういう目的での来訪なのかはわからないが、備えておかなければいけないだろう。」


 テンタルがお辞儀をして行動を起こす後ろ姿を見ながら、大体碌なことにしないであろう御一行の目的を考えながら書類仕事に戻るのであった。

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