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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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戦の跡に

 戦争というものには兎角金がかかる。ヒト、モノどちらも平時とはまったく違うからだ。金が動くということはそれに伴って書類も増える。国の中枢だけならば冷やかして早々に領地に引っ込むが、その書類が帰りを待っている状態を想像すると少しでも早く減らしてしまいたいので、足早に領地に足を向けた。

 勲功式の後に祝宴が催されていて、何やら勇者御一行と王子たちの大立ち回りがあったらしのだが、直接私に関係するものではなかったので、挨拶周りを終えると早々に暇させていただいた。


 「それで、わけのわからない魔獣討伐時に何か動きはあったのか」


 「それについては2番から報告したいことがあるようです。報告を」


 テンタルに促されて2番が目の前に数枚の書類を差し出しながら報告をしてくれる。


 「えぇ、えぇ、えぇ、旦那様が戦争ごっこから帰って持ち帰った情報をもとに各所から吸い上げましたが、貧民層が狙われているようですね。一部の富裕層も狙われました。今回は40使いましたが半数以上が割れてしまいましたよ。」


 「ふむ、それだけを聞くと問題になるようには感じないが」


 その書類には情報を得るための中継経過とそれによる事象のすべてが書かれていたが、数多くの結果が中断、つまり何かしらの原因で調査したり報告をあげることが出来なかったルートがあるということだ。

 身寄りのない者やその日暮らしをしている者については少しの報酬をちらつかせるだけで飛び込んでくるものが多い、もちろんそういうものばかりとは限らないが、庶民の生活を出来ているものには想像もできないようなことがこの世には多く存在するのだ。

 逆に富裕層というものは物知りであることを望む者が多い。情報とは持っているだけで社交界では武器となり、自身を守る盾ともなる。


 「まぁ正直碌な情報を撒かなかったので、こちらの被害という意味では皆無なのですが、ルートの再構築に手間がかかるかと思いますよ、えぇ」


 「ちなみにこっちはどんなことを対価にしたんだ?」


 「いくらかの金銭と、調理場の近くに住み着いた猫の一昨日の献立ですよ。仕掛け箱やどこの貴族なのかわからない紋章の封がされた紙切れは皆さま余程大事なようですね、えぇ」


 相も変わらず悪辣なことをする。木っ端とはいえ貴族がわざわざ対価を用意してまで情報を欲しているのであれば真偽はともかく収集することは可能だが、出来るだけこちらの手の内は見せないに越したことは無い。


 「それに、どのルートも最低7回は通していますので早々こちらにはたどり着けないでしょうね、えぇ、えぇ」


 私たちが良く使う手段なのだが、「友人の友人」、「知人の知人」を辿っていって日常を過ごしながら情報をこちらに知らず知らずに流して貰う手法をとっている。「気になるアイツの好きなものが知りたい、こういうことに興味があるか知りたい」といった具合だ。そんな露骨なものではないがバレにくい反面、情報を吸い上げるのが遅いのと、ルートが構築し機能するまでには時間がかかることが難点だろう。


 「あまり過信するなよ、いつでも切れるようにはしておけ」


 「あんまりですねぇ、旦那様は。もちろんですとも」


 本当に欲しい情報に辿り着くまでにどれだけの紙を燃やさなければならないか頭を抱えながら手に取った書類に考えたくはないが、目を背けることも出来ない問題が書かれていた。


 「地方はともかく、王都での戦後復興まで難航しているのはどういうことだ。」


 「あぁ、それについてはワタシよりも5番が適任ですよ。報告を」


 そう言われて目の前に進み出てきたのは小柄な男性でフードですっぽりと顔を覆った男だ。暑い日だろうとその恰好をしているため暑くないのか気になるところだ。


 「主人よ、報告する。単純な話で金が無いのだ。王侯貴族は戦費を傭兵や武具に使い込んでいたようだ。戦後となって十分な手柄をあげれていない王子への支援をしきれずに他王子の派閥からは突き上げをくらい、その貴族たちも地方貴族が力を落としてしまったために金勘定をしなければならなくなっている。」


 「商人たちはどうしたんだ、御用達がいくらかあっただろう。」


 各派閥に各々の商人がついていたはずだ、そちらも上が揺らげば自身に降りかかってくることを恐れるはずだ。

 

 「主人、第三王子が支援しているのは主に木工関連の商人と建築士です。」


 「そういえばそうだったな、最近は貧民街に手を加えることもなくだからといって新居が増えているとも聞かないから苦しいか」


 もちろんそれだけではないのだろうが、表面的に見れば簡単に支援をすることもできないのだろう。


 「それで、これは誰の筋書きが強くでているんだ?」


 「今回の戦については主に宰相殿が動かれているようです。もちろん短剣達も近衛も使っておられないようですので、王城内で小競り合いが起きておりますが。」

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