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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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風の魔術皇

 目の前には元から異様に強かった化け物どもが何やら不可解なことを喋っている。そう、理解出来るのだ、獣の咆哮などではなく、我々の文明を解しているのだ。魔獣とは相互理解が出来ないものというのが通例であり、知能といってもどちらかというと狡猾なものだった。だが、このような事例が出てくると必ず夢想家たちが現れるしこの戦が終わったらどこかの貴族が喚き始めるだろう。戦後のことを話しても仕方がないが、もうここまでくるとアプリコット討伐なんてことを考えている余裕は一片も存在しない。勇者一行の魔女殿の魔術でも焼き払えないとなると私たちでは手に余る。最初からそうだったが。

 

 「あらぁ、お・い・たがすぎるわよ。」


 突風が吹き荒れて化け物数体を細切れにしていく。繊細な魔術操作がいるのだろうが、それを感じさせない威力で尚且つ詠唱をしていない。これが魔術皇の手腕ということなのだろう。

 

 「これはさすがに目に余るわぁ。あ~んまり手は出したくなかったのだけどねぇ」


 そう言いながらまた数体の化け物を屠っている。敵味方問わずではないというところが非常に戦いなれているのだなと感じさせる。次々と打ち倒してくれているが、いつの間にか肉薄してきている骸骨兵士もどうにかしてくれると嬉しいのだがそうもいかないだろう。


 「ゴッコ、頭を潰してしまえ、腕や足では効果が薄いぞおそらく」


 骸骨たちには効果的だったはずの方法を指示していると、各々抵抗を始める。そんなときに中央方面から勝利を告げる鬨の声が聞こえてきた。これで目の前の連中も引いてくれるとありがたいのだが


 「おや、彼が敗れてしまいましたか。それよりも為れ果てがここにいたとは僥倖です。あなただけでも討ち果たすとしましょう。」


 「あらぁ為り損ないにそこまで言われたくないわねぇ。それにしてもこれが為り損ないの力?明らかにあなた一回為ってるでしょう。」


 「為れ果ての質問に答える舌は持ちません。さぁ瞳よ我らに祝福を」


 ア”ア”ァア”ァア”アア”


 上空の化け物の元凶が降りてくる。もう祝福とはなんなのかさっぱりわからないが、あれが地上に降りてくるというのは被害が広がることを意味している。


 「ちょっと、あれを相手にしてたら他には目移り出来ないわねぇ」


 「我らが瞳を前にして不敬ですよ為れ果て、濁りなさい」


 アプリコットの言葉と共にゆったりと動き出す化け物はこの戦場という場にふさわしくないほどに殺気を持っていない。すべてがあるがままに、そうなるように、そうであったかのように動いていく。敵方はともかく、味方側が何か声を発する前に圧殺されているからというのもあるかもしれないが、あらゆる念が渦巻くこの地において不自然なほどに自然体にこちらに近づいてくる。


 「本当にあれを降ろすなんてねぇ、古狸が束になってもあの規模は無理でしょうねぇ。」


 「むぅぅぅん、こちらの最大戦力殿のおかげで少し冷静になれましたが、あれは既存の召喚術体系に当てはめてもよいのかどうなのか。確か聖王国では有翼人種を堕天種とよんでおりましたから、あのように翼を持つ何かしらを見たことがあるないしよんだことがあるのかもしれませんが……ぶつぶつぶつ」


 絶賛思考の坩堝に落ちているのがいるが、状況はまったく好転していないので是非とも彼の魔術の力を借りたいんのだが


 「埒外の力のぶつけ合いなんて我々には関係ないぞ、ゴッコ!すぐに状況を確認してくれ、どこまで出来るかはわからないが、生き残りたいのは皆おなじだろう。」


 「へい、旦那。おい!うちも含めて周りの連中の状況を聞いてこい!あ?賊だなんだと言われたらその腰にぶら下げてる立派なもんで丁寧にもっかい頼めばいいじゃねぇか!これが赤くなるかその口を動かすかってな!ほら、いけ!」


 我が隊がただの賊集団となったような気がするが、まぁ生きていればいずれ誤解は解けていくだろう。彼らが走っていった方から戦闘とは違う怒号が聞こえている気がするが、些細なことだろう、そうに違いない。

 程なくして周りの情報が集まってきたが非常に芳しくない。我が国の貴族は最前線こそ誉れというのが多いのだが、右翼にはそういう方々が多かったようだ。指揮をとれる人物が軒並み討死か行方不明とは思っていなかった。副将のような立ち位置の人物が生き残ってくれていたのが幸いだ。

 手早く目の前の山賊に指揮系統の構築提案を記した走り書きを持たせて各人に走らせていく。


 「旦那、な~んか失礼なこと考えてやせんでしたか?」


 勘のいい山賊は置いておいて、指揮系統といってもお粗末なもので現状生き残っている貴族、私やヒキニ卿のような者が右翼戦場をいくつか区分して担当し、隊長各はその者たちの指示に従って動くというものだ。

 我が国ではこのような魔獣討伐では国軍というものは出張ってこない。出張ってくるなら王族といった「守られるべき方々」が戦場に立っているとかだろう。そのため、各貴族単位で兵力を出して各貴族が指揮をするため、指揮の混乱が起きやすい。まぁほとんどの貴族が前方への突撃命令をこよなく愛しているためそこまで問題が起きていないし、それで領土を維持出来ているためそれでいいのだという常識が根付いてしまっている。

 しかし、このような異質な戦場ではその常識が悪い方向に働いていく。突き進めば化け物の胃袋一直線だ。

 盾持ちを前面に出してその後方に長物を持った人間を配置、盾がどれほど役に立つかはわからないが長物で牽制しながらなら化け物はともかく骸骨どもには一定の効果を得られるだろう。弓を持っているものにはその後方から射掛けてもらうようにして、必要とあれば密集出来るように少し前面を湾曲させるように指示を出す。突出部が危険になるがそこは重点的に長物持ちで盾と盾の間から攻撃するようにさせる。

 簡易的ではあるがそのように指示をだして、自分の周りは愉快な山賊連中でいつものような防衛体制を敷いていきながら、大きな力の奔流たちの決着を待つことにした。


 「旦那、やっぱり失礼なこと考えてやすよね」


 まるで小姑のようにねちねち言ってくるおっさんの声が聞こえてくるが、そこは気にしないようにしておこう。


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