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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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神徒

 翡翠将が言っている力とは恩寵のことなのだろうか。であればある程度の研究は進んでおり、体系化していることから能力そのものはともかく制御等については結果が出ている。であれば、意味とはどういうことだろうか。魔術にしてもそうだが、意味というよりも事象そのものに着眼点が行くことが多いがそうではないということだろうか。答えが返ってくるわけでもない思考の坩堝を彷徨っていると彼らの決着がついたようだ。


 「ぐふっ、その力・・・ら来て・・・かもしらぬも・・・るとは」


 「こ・・・ことに・・・のか!・・・くれ!どう・・・さらに強く・・・来るんだ! 皆を・・・力が欲し・・・!」


 少しその場との距離があるのと、他の騒音もあるせいでうまく聞き取れないが、勇者殿の声の方が張りがあることから、どうやら勝者は勇者殿らしい。これは戦線に大きな影響を与えるだろう。


 「勇者殿が敵将を討ち取った!これは好機であるぞ!各々方、奮起されよ!」


 お早いことにもう情報が伝わっているらしい。誰だったか忘れたが右翼統率組の貴族が右翼全体に向けて鼓舞をする。相応に体勢を崩しているし、目の前の化け物が消えたわけではないが、相手の将の喪失はこちらの利になる筈なのだ。


 「嗚呼、そうですか。あなたは先に逝くのですね。それはとてもとても素晴らしいことです。我らが瞳が遣わしたアンゲルスの前で逝くのです。これ以上の誉は無いでしょう。」


 勝手に瞳の部分を神と置き換えるのであれば、神が放ったあの化け物の前でやられることは最高の名誉のように言っているのだろうが、どこからどうみても碌なものではないだろう。しかし、彼らには何かしらの意味があったのだろう。化け物たちがじりじりと後退をしている。状況だけ見れば好機だと攻撃をしようとしたとき、眼前の異様な光景に戸惑ってしまう。

 我々の言葉が正しいならばそれは共食いだ。化け物が化け物を食らっているのだが、食らった方が徐々に図体はデカくなり、体の表面は鱗のような光沢をはなっているのに無数に走る筋のようなものが常に脈打っている。一つ目だったものが二つの複眼の目になり、鰐のような口の下顎が真っ二つに割れてもうどう形容したらよいのかわからない個体になっていく。体は蟷螂の見た目のままに二足歩行となり、使わなくなった足は背中のいき皮膜のようなものを体から引き延ばし羽のようなものを作っている。あんなおぞましいものが何体もいるのではこちらがどれだけの兵力を投入しても根こそぎやられてしまうのではないか。そんな絶望感が右翼を支配した。


 「万象の調べ 世界樹の雫 流転し逆巻き 紅き抱擁 意志を持つ瞳 翼を失った鳥は鳴き 祖は身を焦がした フランメシュトルム」


 刹那の閃光と紅い紅い柱が化け物どもを焦がしていく。連中が離れてくれて幸いだが、これではこちらも近づくことが出来ない。ちなみにこの魔術は勇者一行である魔女の一撃なのだろうが、味方と敵の認識はしているのかいまいちわからない御仁だ。


 「ふっふ~ん。カイト君とツトム君が真ん中で戦ってたからやばそうなこっちに来てあげたわよ!ありがたくおもいなさいよね!」


 なるほど、自信家なのはいいことなのだがちょっとばっかし来るのが遅いのではないだろうか


 「旦那、あの魔女さんはここを散歩道か何かと勘違いしているのですかい」


 「それはないと思うが、気楽には考えているのだろうな」


 「ふぅぅむ、美しさも愛らしさもネメヒちゃんが勝っていますな」


 ヒキニ卿はいつまでいるのかわからないが、話題を振ってしまうと負けてしまったような気がするので無視することにする。


 「これだけ焼けば生き物なら死んじゃうでしょっ、えっ、まじ?」


 魔女殿の余裕が消える。その原因は即座に私たち右翼前線に肉薄してきた。蟲、獣どちらとも形容できる化け物が炎などものともせずに兵士たちの頭を食いちぎり、ねじ切っていく。個体によってはどこから出してきたのか金属の棒をねじったような杖を持って兵士の頭を粉砕している。そのような光景を作り出しながら化け物どもがうわごとのように言葉を発し始めた。


 「お…おぉ…我らが瞳…これなるは聖戦…我らが血肉…その一片までもを供物とし…かの地に我らが安息を…かの地に我らが豊穣を…おぉ我らはついに至ったのだ…瞳の御許まで…」


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