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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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信仰の陰

「勇者召喚」とはこの王国に伝わる古い古いおとぎ話の中の召喚術の一つにして成功した暁には世界の平和を約束する術だ。

 だが、そのような術には必ずといっていいほど相応の代償が必要になり、それは聖女の血肉や無垢な魂といったものが相場になっている。この王国は聖女に相当するものは存在しなかったため、無垢な魂の方になるだろうがおとぎ話をそのまま信じるのはよろしくないだろう。


「続けて、3名の異界人の鑑定を執り行うために眼の間に連れていかれるところまでは追えたようです。そこからは聖王国の〈顔無し〉に阻まれてしまい少々戦闘になったようです。」


 〈顔無し〉とは聖王国が誇る狂信者の総称だ。神こそが至上にして絶対でありその現身であるヒトが世界を統べるべきと信じているかの国はしばしば亜人種とよばれるエルフやドワーフといった種族を「神への供物になる名誉に殉じよ」と高らかに謳いながら虐殺を行っている。しかし、彼らは我が王国の他種族に対する寛容さを悔い改めるべきと再三使者を送りつけてきていたはずだ。


「連中と特定できる何かがあったということか、奴らも阿呆ではないから敵地でそれとわかるものを残してはおかないだろう。」


 かの国はこの国をよく思っておらず、敵地と称してもよいほどに国境沿いに兵力を置いている。どんなに我が国の王家からヒトの勇者召喚の一報をうけたにしても行動が速すぎる。なによりも〈顔無し〉というのがよくない。連中は啓示の遂行に命をかけており、そのためならばどのような手段を用いても構わないという考えで動いている控えめにいって頭の可笑しい連中だ。


 「特定できた要因としては交戦中に「聖女が降臨された、聖戦が始まる」と叫びながら攻撃してきたそうです。城の兵士も交えた乱戦になったため5.7番が撤退しながらの陽動、6番が再潜伏を図ったところ「王の短剣」にやられたとのことです。」


 「王の短剣」とは我が王国の王家に仕える暗部であり、この国の諜報、防諜を司っている機関だ。安直な名前だが、名称にさして興味を持っていないようで歴代の王ごとに呼び名が変わっているという少し変わった側面も持っている。


 「よほど王家はその召喚に力を入れているようだな、どちらの王太子が目論んでいるのかは知らないが王家直属まで動かしての防諜工作となるとうちがどれだけ探りをいれてもいたずらに消耗するだけだろう。城に潜っているものは下げてくれ。」


 「かしこまりました。旦那様。」


 さて、せっかく招待状を送ってきてくれているのだからパーティに行くのは決定しているのだが、その前にこの目の前の紙束を片付けなければならない。

テンタルに紅茶を頼むとまた紙束の処理に集中し始めた。


 勇者召喚の一報を受けた日から数日後、それまでに帰還した5番、7番からの報告書に目を通したり、普段パーティには滅多に参加しないこともあり、まったく新調していなかった外行用の服を用意したりと忙しい日常が過ぎ、今は王城に向かう馬車の中にいる。


 「しかし、王家も大々的に謳っている割には勇者本人を表に出してまいりませんね。何かを待っているのか、それもとただ鍛錬させているだけなのかはわかりませんが、不気味です。」


 テンタルが言っている通り、各貴族に対して文を飛ばすほどに喧伝しているというのにあの文以降に勇者の話はぱったりと途絶えている。探れる範囲で情報を集めてはいるものの、どうしても短剣と信者が邪魔をしてくるため迂闊に人員を割けない状況になっている。情報は中央では大きな武器となるのだから少しでも収集してパーティに臨みたかったのだが、致し方ない。


 「今回のパーティでそれもはっきりするだろう。それよりもタウンハウスには誰が詰めていたかな、最近は領地に籠りっきりで中央には疎くなってしまっている。早めに世情の更新をしておきたい。」


 「タウンハウスにはリーリヤが取り仕切っております。2番、3番が確か詰めていたかと思います。」


 リーリヤは「大嵐」の後に壊滅していた村の孤児の一人だ。確か今年で17歳になるはずだが、背はさほど伸びなかったため本人も気にしている。

 そうこうしている内に何事もなく王都の玄関口の象徴といってもよい大扉を抜けると目抜き通りは盾にグリフォンと王冠、錫杖が刻まれている我が国の国旗が所せましと掲げられており、誰が撒いているいるのか紙吹雪が舞い、大道芸人が日頃の成果を披露している祭りの様相を呈していた。

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