再戦
ゴッコ達からは耳栓をしたくなるような大音量で随分と好き放題言われたが、ここで我が家だけが撤退するには被害が軽微すぎることや、正規兵で構成されていないことからも撤退することが出来ないことを懇切丁寧に告げると薬草をすり潰して作った気付け薬を口いっぱいに入れられたような表情をして、渋々承諾を取り付けることが出来た。
「旦那、俺たちぁ旦那だからついていくし命をかけてもかまやしねぇ。だがな、路地で泣いてるガキ蹴とばして笑う連中を助けることはできねぇぞ。」
ゴッコの去り際の言葉が耳に残っているが、それでも貴族という楔は必要なのだ。「高貴な者の務め」なんて大それたことは言えないし、つい最近までゴッコ達となんら変わらない生活を送っていた私としてはさっさとこの役目を投げ出してしまいたいが、そうもいかないのだ。
拠点としていた領都から出立し、先の戦闘があった平野に再度進軍していく。適宜斥候を放ってはいるものの、帰って来るものがいない。
件の平野についた時には目を疑う光景が広がっていた。
一様に統一された鈍色の鎧を身にまとったものたちが3つの集団を作っており、それぞれ旗を掲げている。見覚えのあるものはないが、翡翠将が言っていたアーサー王国のものだろう。
一つは白地に骸骨の目に剣と槍が刺さっているもの、一つは青地に赤いロザリオが施され、中央部分が目の形になっているもの、一つは紫地に黒い短剣とそれを加える犬が描かれているものだ。
どれかは翡翠将のものだろうが、あと二つあるということは翡翠将級の強さを持つものがあと二体いるということだからぞっとしない。
是非とも私の前に現れないで欲しいものだが、戦闘になる以上どれかのとは当るのだろう。得てしてこういうときほど、最も望んでいない結果になるのだから人生というものは全く不条理でしかないのだ。
相手が布陣をしている以上、こちらが準備出来る時間というのはほとんど無いのが常なため、大慌てで本陣と最終調整に伝令を飛ばしあっている間は不気味なほどに敵方は動きを見せて来なかった。
私は右翼側に配置されたのだが、最初の本陣が突貫からの包囲というのは戦場の配置が出来ないことを物語っていた。髑髏の旗が中央、ロザリオの旗が右翼側、短剣の旗が左翼側に布陣されており、無暗に突出すれば三方から抑え込まれかねない状況なため、中央軍も突撃はやめて、全面衝突ということになったらしい。すでに右翼が何派といったことはなく、完全な混成部隊となっているため指揮系統が非常に複雑怪奇になっているようだ。
例えば、伯爵家以上で貴族派のものの命令しか受け付けないといったものだが、事ここに至ってこういう話をしているものは早々に何かしらの事態に巻き込まれて戦場での行方不明者の仲間入りを果たすのだが、若い貴族や親から行けと言われてきているようなものたちは、戦場での臨機応変さに欠けることが多く、教育すればどうにかなるのかというと、机上と実地では全く別物であるということが常である。
そういうのは小規模の魔獣の集団と交戦することで自ずと身についていくのだが、平和な領地を持つ貴族たちには剣を持つよりもペンを振るっていることの方が多いのだろう。
私が知らないだけで以外に机との交友を深めている者が多いのかと思っていると、中央軍より前進の合図が鳴った。
さて、私が位置しているところに陣取っているロザリオの旗の軍団だが、目視出来た段階で逃げ出したい気持ちになった私は間違っていないと思う。
前列には馬の骨のような四足の魔獣に跨っている首がない黒甲冑のものたちが一糸乱れぬ整列をしており、その後ろにはおそらく歩兵がいてこれも黒甲冑なのだが頭はついているようだ。だが、鎧を着ているなら騎士や兵士で武器は剣か槍を想像するのだが、この連中は先端が鉄の塊で出来ている鈍器を持っている。
持っている盾には旗と同じロザリオが描かれており、木で出来ているというより金属製のような光沢をしている。
そう、光沢があるのだ。不死者ならば地より這い出てきて当時のモノを持っていることが多いことからくすんでいたり、へこんでいたり、使い物にならないほど壊れていたりもする。それでも不死者は術者の意向を果たすべく何かを襲うのだが、目の前には小綺麗な集団がいるのだ。
まるで、今まさに呼び寄せられたような・・・。
思考が最悪の方向を指し示して警鐘を鳴らし始めた時、右翼指揮官から突撃の指令が下る。それと同じ時に前方から歌声のようなものが聞こえてきた。
「いと慈悲深き我らが瞳よ 我らの祈りを聴きとどけたまえ 汝が子らの戦働き どこまでも駆ける疾駆の脚を どこまでも倒れぬ強靭なる健体を 彼の者たちは知らぬのです 我らが瞳の慈悲深さを 故に我らを介してください 瞳の御言葉をこの地に卸し 深き深き慈悲でもってお救いください 我が子らに恩寵を!」




