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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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纏わりつく予感

 「魔術皇」というのは特異な魔術を扱い、なおかつ普通の魔術が使えるものとは一線を画す能力を持つ者たちのことだ。こう聞くと人数が多くいるように聞こえるが、王国内でも5人、聖王国で3人と何十人といるわけではない。

 そして、この「魔術皇」には一つの協定のようなものが存在する。容易に地形を変えたり、命を玩具のように扱えることから、国家間の戦争では前線に立ってはならないというものだ。これはうっかりその「魔術皇」が収める土地に踏み込んでしまった場合にはこの協定違反とならないため、注意が必要だ。

 「風の魔術皇」は、顔が半分まで隠れる赤色の帽子付きのローブを着ていて、服の裾には金糸で蛇が巻き付くように刺繍されている。

 いつぞや誰かが緑色の服を着ないのかと問うたことがあるそうなのだが、彼は「風がいつから緑ということになったのかしらぁ、水を含ませれば白と青に、炎を含ませれば黒と赤になる。風に色を固定するなんて無粋だわぁ。わたしは赤が好き、だから私は赤色の物を着るのよ。」と言っていたらしい。そのため、最側近でもない限り、彼の素顔を見たものはいないのだ。噂では王家に連なる血筋だとか言われているが、はてさてどうなのやらだ。

 詮無いことを考えて現実逃避をしていたが、時間とは残酷なものだ。


 「「魔術皇」が何故このような前線に出てきているのか、説明していただけるのかな」


 「そぉ~れはもちろん、あなたのお・に・い・さ・まに頼まれたからに決まっているじゃなぁ~い。協定そのものは違反していないし、遠見チャンは動けないしねぇ」


 どうやら、どちらかの王子が「魔術皇」を前線に向かわせたらしいのだが、勇者御一行の警護の意味合いのほうが強そうではある。これは南だけでなく、北側の貴族たちに多いのだが中央政治に絡んでいられないほどの環境下にあるか、そもそも興味がない貴族がちらほらいる。後者は貴族としてどうなのだという話なのだが、そういった事情のため中央政治にご執心の王子たちにはそこまでうま味のある戦ではもともと無いのだ。


 「それよりもぉ、今ここに至って撤退か防衛か悩んでいる感じかしらぁ。」


 「魔術皇が来られたのでしたら、この戦にも勝機出てきましたぞ、王子。」


 「現状の兵站に不安がないといえば嘘になりますが、勝利は出来るのではないでしょうか、王子。」


 さっきまで撤退論を唱えていた者たちが手のひら返しで継戦を指示している。王子としては願ったりかなったりだろうから、さっそく再編と布陣を進めていくようだ。この間「魔術皇」が会話にまったく入ってこないというのが少し気になるが、王子たちは挽回の機会が手に入ったと思い込んでいる。

 何かありそうだと思ってはいるもののあれよあれよというまに方針が決まっていき、今度は王子率いる本隊が最前線になることで最初の衝突を近衛などの比較的に体力が残っているものでいなした後に、各貴族家で包囲していくというものだそうだ。私の隊は後者の陣営に加わるようだ。

 今の敵布陣がよくわからない状態でこの思い付きで出来たといっても過言では無い作戦もどきでどこまでいけるのかはわからないが、最悪の場合でも私の隊が無事に帰還出来ればそれでいいと思っているので、こういう場では基本的に口出しはしない。

 だが、この流れにはいささか疑問というか、良くないものを感じている。勇者一行は本隊と行動を共にするそうだが、魔術皇はどこに行くのかはっきりと告げていないのだ。王子たちはさっきの会話で何か勘違いしているようだが、本人から参戦の意向は聞いていない。私と同じように、勇者一行が無事ならそれでいいということで、見捨てられることも考えておかなければいけない。

 まぁ、王子たちはこれで勝てると息巻いていて士気高揚としているのだから、変な水を差す必要もないだろうし、いざとなれば的が多い方がこちらも逃げやすい。

 呑気に「仕方のない撤退」の仕方を考えている内に、話し合いが纏まったようだ。


 「それでは、私自ら先陣をきって敵本隊に突撃を行い、素早く両翼から挟むように敵陣営を包み込んでいく。この際にうまく本隊は後退しなければならないが、こういうものは私は疎いというのに先ほど嫌というほど思い知らされたのだから、素直に近衛師団長に戦地での全権を渡す。皆、今後戦地では近衛師団長の言は私の言であることを心せよ!」


 私も含めた一同が同意することを確認した王子は号令を下す。


 「うむ!皆の高い士気を嬉しく思う!それでは各々方、準備が整い次第、戦列を整え、打って出るぞ!」


 皆の鼓舞を聞きながら、抱いている不安が的中するのではないかという思いに駆られながら、我が隊員たちにどう説明したものかと頭を悩ませながら、ゴッコ達が待機している場所へむかうのだった。

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