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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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くだらないものと魔術皇

 戦でいけば痛み分けだろうか、おそらく相手はほぼ無尽蔵に兵隊を生成できるのだろうが、こちらは少なくとも1年で立て直せるなんてことはありえない。残った有力者たちで連日再編成と再制圧に向けた会議を行っているが、人員といういかんともしがたい問題が横たわっている。

 わかっているだけでも貴族で16名、兵士約600名死亡、負傷者1300名という大きな被害となっている。

 

 「えっ?まだ少ない方ですよね?僕の知っている戦争だと軍人だけでも1000万人の死傷者だった気がするけど…」


 「ばっ、そういう問題じゃねぇだろカイトよう。この場はおとなしくしとこうぜ。」


 負傷者の護送計画や残存戦力の把握と斥候の派遣と一応戦時の休戦状態によくやる対応を終えた後に死傷者数の報告を受けた時に勇者殿が呟いたことなのだが、人が1万人以上の規模で殺し合いをするとはなんとも狂気じみた世界から来られたようだ。戦後のことを考えたらぞっとするが、まぁこういう反応をするものがいるということは、どうにかしたのだろう。どれだけの血で洗ったのか気になるところではあるが、この戦闘はロイ王子が総大将としているため、このまま引き下がることが出来ないものもいる。

 他派閥も痛手を被ってはいるものの、担ぎ上げている王子自身は出て来ていないため、これ以上の戦闘は無意味と判断しているものが多く、侵攻が止まったならばそれでいいではないかの構えをとっている。


 「諸君が何を言いたいのかはわからないではない。だが、再度あの骸骨の兵隊たちが侵攻してこなとも限らない。もう少しこの場で待機して欲しい。」


 「ですが王子、ミッター卿が片腕を失った今、これ以上の戦闘継続は難しいですぞ」

 

 「食料等についても持ち込み分が尽きたたため本隊からの供出を求めているものもおります。潮時かと思われますぞ。」


 「ローウェン卿も行方不明ですし、ここで無理をするのは良くないと愚行いたしますぞ王子。」


 「今回は侵攻を退けたのですから、十分な戦果と思われますぞ。」


 これ以上中央の政争なんぞに付き合っていられない南に領地を持つ貴族たちが口々に撤収を促す。確かに、王子と足並みを揃えることよりも自身の生活がかかっている自領の防衛に注力したいというのが本音だろう。

 かくいう私も出来れば自領に戻って備えをしたいが、こんな喫緊にしてもどれほどの効果があるのかわからない準備よりも情報を少しでも収集出来そうなここにいるのが私の役目だろう。


 「それなら…それなら、僕にもう一度機会をください!」


 「負けっぱなしはさすがにマズイでしょ、付き合うぜ。」


 「最初の一撃いこうまったく活躍のチャンスがなかったからね!やってやるわよ!」


 何やら勇者一行が息巻いているが、騎士物語ならばこれから劇的な逆転劇を彼らが演出してくれるのだろう。しかし、ここは物語ではなく生物がいれば食が発生し、それを確保するだけの場所と労働が発生する。魔術は便利だが万能ではない。不思議な力でいつの間にか物資が運搬されていて皆に配給されているのではないのだ。この瞬間も同行している文官が運搬されてきた物資を検品し仮置き場を指定して各隊の物資管理担当が持っていくという人力でもかなり時間と労力を費やしてこの大所帯を維持している。

 その物資の中には勇者一行のものもあるのだろうが、ほとんどが中央軍と物資を枯渇させてしまった貴族用なのだ。それにこれはあくまで食料の話だ。水は近くの川から汲み上げ、医薬品に至っては中央軍に依存しているものも少なくない。護衛を付けているとはいえ、野盗に物資を奪われる可能性もなくはないし、ここまで出てきた品は供出してもらったものではもちろんない。中央で購入したり、道中の町や村で買い足しているのだ。

 この反動は税に来るのか、今回で領主を失った貴族家の資産を充てるのかは知らないが、一回の戦闘でかなりの金銭が飛び交っている。だから戦争特需が発生し、そこにうまみを見つけた商人と貴族が肥えていくのだ。

 それは経済を回すうえで必要なことだし、行きすぎなければ国も介入しないが、勇者一行が今回の件を片付けてしまってはそれさえも発生せずにこの損害だけが残るというのだけは避けなければならないが、はてさてどうなることやら。


 「勇者殿の申し出はありがたいのだが、このままではこちらの面子というものがあるのだ。どうか理解して欲しい。」


 「だけど、あいつはあのまま放置していい奴じゃないですよ。」


 「そーそー、あいつ腹立つし。」


 面子というかその後ろにある特需を少しでも得たいものとさっさと元凶を叩きたい勇者一行という構図が目の前に広がっているが、話が進まずに机にかじりついて時間が流れていく悪循環に陥りそうになっている。そんな時に外から誰何をしている声が聞こえた。


 「こちらに……おられ……中央…総勢……至急お…」


 「いえ…ですか…まずは……お待ちください!」


 何やら揉め始めたときに会議室の扉が大きな音を立てて開けられる。開くのとほぼ同タイミングで王子の側近たちが臨戦態勢をとるが、現れたのはこの国ではとても有名な人物だった。


 「あらぁ、しけた面しているわねぇ、まぁいいわぁ、ロイ王子ぃ、王国より「風の魔術皇」の名を拝領していますぅロドリゲス・シミター、御前にぃ」

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