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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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形なき悪意

 魔術というのは様々な事象に干渉することが出来るため、学問体系がしっかりと出来ており、武術のように我流というのはほとんど存在しない。だが、ごく一部の魔術はまったく学問上のものに当てはまらないらしい。私が行使するのもその類いなのだが、こういう魔術には欠点が存在している。

 とんでもなく準備が面倒なものが多いのだ。私が知っているものだと剣で地面に模様を描かないといけないとか、ある特定の湖で行水をしないといけないとかだ。その特異性から生涯見つからないものもあったりするそうだ。そんなものを後にどうやって見つけるのか気になるところではあるが今の状況をどうにかしよう。

 私の魔術はまだ単純な方だ。東西南北に対応する色の鉱石を置くだけのものとなっている。何故見つけることが出来たのかはまたどこかで語ることもあるかもしれない。


 「おらぁ、旦那が奇術使うぞぉ!渡してある鏡を出して自分のその残念な面みとけぇ!呑まれるぞ!」


 ゴッコが注意喚起をしてくれたため詠唱をしていく。


 「形なき偶像 微笑みを狩る猟犬 火は日を讃え 蜻蛉は泡沫の夢を見る 瞳に移る蜃気楼 望燭の果てに至る夢想 此処は全てを赦す楽園となる アルプトラウム」


 生物というものはこうあってほしいという願望が常に存在する。それは腹が満たされるであったり、安心できる寝床であったりと様々だ。その常にあるであろう「思い」に一滴だけの現実と数滴の望んでいないことを混ぜ込んでやる。そうするとどうだろう、確かに概ね望む形にはなれど、最高の結果にはならない。それは自分の望む住処の代わりに最愛のものを無くすことかもしれないし、愛するものと一緒にはなれるが、世間からははじき出されることになることかもしれない。

 そういうものは現実と虚構の差が判りづらいものだ。嘘も少しの事実を含ませることでほとんどの者を騙せることと似ている。その嘘のようなものを夢想し続けるとどうなるだろうか。現実とどのように折り合いをつけていくだろうか。何度も何度も繰り返すことの出来る螺旋の中で本当の結末を追い求めていくのではないか。

 特にヒトとは欲深いものだ。もちろん私が魅せているのは夢だ。繰り返し「やりなおし」が出来てしまう。次は愛するものを救えるかもしれない。次は世間の脚光を浴びるかもしれない。自分にとっての最良の結末に向けてヒトは夢想する。

 だが、いずれ必ず「自分」というものがわからなくなってくる。この時はどうしていただろうか、この時はああしていただろうか、そもそも自分はどのような結末を望んでいるのだろうか…気づいてしまう…そうそれは夢なのだ。一時の眠りに現れる泡沫…常なる泡沫ならば覚醒も出来るだろうが、これは私が丹精込めてお届けする最高の凶夢。

 嗚呼、この魔術を使っているときには良くない癖がでてしまう。そうだ、もっと夢想しなさい。さらに追い求めなさい。探求しなさい。模索しなさい。足掻きなさい。そして、そして安らかに絶望して…咲きなさい。

 私の魔術発動から呻いたりうなされていた者たちがほぼ一斉に起き上がる。


 悪い癖だ。本当に


 私が魅せていたのは悪夢。終わることのない袋小路


 だというのに、この戦場だった場所で咲き乱れている華は、この色彩豊かな華のなんと美しいことか。

 あるものは幸福を、あるものは平穏を、あるものは奇跡を…どこまでヒトとは欲深いのだろうか。他の生物ではなかなかここまで美しく咲くことは無い。満開のその華畑に浸っていると


 「旦那、そろそろ潮時でさぁな。見蕩れるのはかまやせんが撤退しやしょうぜ」


 ゴッコが私を呼んでいるようだ。やれやれ、立場というのは浸ることさえも許してくれないらしい。中央軍は既に戦線から離脱しているようだし、勇者御一行も私の魔術による混乱に乗じて撤退したようだ。勇者殿らはここを夢想しているのだろうか、まぁ考えても仕方のないことだ。

 撤退戦という必ず犠牲が出る戦闘はしないで済んだのだが、先に敗走している軍から報告は上がっているだろうから、近くの拠点として位置付けている領都は思い雰囲気となっているだろう。

 そう考えると、この状況をどう説明したものか、もういっそ自領まで引き揚げてしまおうかと考えながら、帰還の途につくのであった。

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