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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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盤上遊戯

 右翼は壊滅的な被害を被っているようには見えないが、先ほどまで魔獣たちとの戦闘をしていたことを考えると新手を相手にするのは良くないと考えたのかもしれないが、右翼の大将が出て行ってどうするのだ。


 「くかか、良かろう名も知らぬ国の騎士よ、アーサー法国第六遠征大隊隊長であるこのワシがその申し出を受けよう。」


 アーサー法国という国に聞き覚えはないが、どうやらどこかの国の遠征軍の隊長であったらしい。つまり彼の後ろにいる骸骨たちはその遠征軍ということになるが、数がいささか多い。大隊なのだから、それは多いだろうが平野を埋め尽くしかねない数というのは少しおかしい。それだけ法国とやらに力があったということかもしれないが、ちらほらと剣や槍ではなく農具のようなものを持っている骸骨もいる。


 「ゴッコ、今の戦況であれに当たって無事に終わると思うか。」


 「旦那、この状態でその冗談はいけませんぜ、数が違いすぎまさぁ、全力で逃げるのが吉ってもんですぜ。」


 ゴッコと意見がまったく同じなのだが、さてどうしたものかと敵前逃亡と言われないほどに戦闘をして撤退するにはどうするかを考えていると、一騎打ちが始まった。

 先に仕掛けたのはミッター卿で手に持っている槍を突き出す。この時に手や足を狙う穂先を途中で腹や胸に軌道を変えて突き込む。

 少し話はそれるが王国にはこれといった武芸の流派があるわけではなかった。各貴族が独自に伝えてきた戦闘技術を持っていた。だが、貴族たちのみが技術を持っているのではそれ以外が戦場で無茶苦茶に剣や槍を振り回してしまうため最低限の技術をという名目で当時のある侯爵家が技術を公開した。それが今の兵士たちの訓練で一般的に使われる「ヴァスティ流」である。このヴァスティ流には剣術・槍術・弓術と一通りそろっているため、いつしか自流よりもこの流派を取り入れる家が増えていった。ミッター卿もどうやらそのようで、ヴァスティ流の「狙いを付けずらい急所よりも広く、そして確実に傷を与えられるところを狙うほうが格段にやりやすい」という教えの通りに動いている。

 

「ほう、これはやりづらい、くかか、いなせないわけではないが狙いがいちいちぶれるのが面倒よのう・・・だが」


 どこか楽しむようなことを口にしていた「翡翠将」が突然動きを変える。あの大きさの剣で槍と馬の機動力を生かした突き込みをどういなしていたのかも謎だが今度はその突き込みを絡めとるように曲刀を振るいミッター卿の狙いをことごとくつぶしてくる。


 「ゴッコ、隊伍を整えてこの後に備えるんだ。あれが武人だからなのかは知らんが骸骨共は動いていない。一当たりするにせよ撤退するにせよ視認出来ているやつらから逃げるというのは骨だ。」


 「へい、旦那。野郎ども!得物の状態を確認しろ!負傷者はどうなってる!俺か旦那に報告をしろ!」


 こちらがこの好機を生かすべく動き始めるが事態は刻々と進む。


 「むぅ、これにもここまでついてくるか!そろそろその機動力が鬱陶しいのう。そがせてもらうぞ!」

 

 宣言の通り、ミッター卿の突きをいなした曲刀が馬の後ろ脚を的確にとらえて切り飛ばす。支えられなくなった馬が崩れ落ちるのにどうにか巻き込まれなかった卿だがさすがに体勢を崩してしまう。そこを狙って振るわれた曲刀を槍を地面に突き刺し、槍を起点に巻き上がる木枯らしのように抜剣しながら曲刀をいなすミッター卿、どうやら槍を使っているときは「ヴァスティ流」だが、剣では独自の流派があるらしい。


 「ひやりとしましたぞ翡翠将殿、さてもう少し付き合って貰いますぞ。」


 剣になってからのミッター卿は明らかに動きが変わっており、上段からの切り付けを受け止められると足を使って蹴りを入れ、翡翠将の曲刀は受け止めるというよりも受け流すことを主体になっており、受け流した後に体当たりをするなどお綺麗な剣術ではなく、生き残るための剣術をしている。


 「ふむ、一段と攻撃そのものの速さがましてしまったか、これは失態、もう少し楽しみたいがそろそろ終いにするとしよう。」


 翡翠将の動きが変わる、今まではどちらかというと力任せの振り方だったのが流れに乗りまるで踊るように曲刀を振るってくる。いなされればその力をそのままに次の打ち込みにのせ、回避されれば追いすがるように追撃する。

 程なくして人間と魔族との決定的な差である体力差が顕著に表れ始めたミッター卿が圧されていき、片腕を切り飛ばされた。


 「うぐっ、片腕で済んだか、まだまだぁ!」


 「その意気や良し!楽しもうぞ!」


 武人同士の独特の雰囲気を二人が発し始め再度激突しようとした時、それを遮るものが躍り出た。


 「キンバルさん下がって!翡翠将!ここからはこのイリエカイトが相手になってやる!」

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