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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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戦を知るモノ

「ゴッコ!状況を報告してくれ!」


 熱狂など出来るものか、目の前のこの地獄絵図をどうにかしなければいけないだろう。


 「旦那!うちの連中は爆発の被害は軽微でさぁ。だが周りがいけねぇ、前で戦ってた隊が何個か消し飛んでますぜ!」


 状況的には左翼が横っ面を突かれて本陣側に押し込まれていて、本陣に突っ込んできた魔獣と挟み撃ちにあっている状況でこの魔術だ、恩寵とは素晴らしいものだが、悲しいかな、魔術は全てを平等に刈り取っていった。

 それにしてもやけに勇者一行の到着が早い。この戦場には王都から馬を飛ばしても2.3日はかかる距離にある筈だ。士気高揚とする本陣と右翼の連中を見るに見事に貴族派の連中は嵌められたというわけだ。

 しかし、この規模の損害は考えているのだろうか、少なくとも南方の貴族派の少なくない人数が先ほどの一当てと爆発で減っている。北側も緊張が増す中で北から引っ張ってくるわけにもいかないだろうし、単純に領地を増やすだけでもおそらくだが飛び地が出来てしまうだろう。

 そんな詮無いことを考えているうちに勇者一行が魔獣の群れに突貫していく姿が見えた。


 「コスズが開いてくれた道だ!皆行くよ!」


 「へいへい、カイト君は元気だねぇ、いっちょやりますかぁ」


 二人の勇者殿と近衛兵4名という数的に無謀な突貫だが、今なら効果は絶大だろうし、各々の恩寵も見ることが出来るわけだから、こちらは立て直しに勤しませてもらうとしよう。

 私の兵は損害が軽微とのことだから兵たちに所属と現状の状態を把握を通達していく、程なくして指揮が出来るものと貴族と思われる者が数名集まったため、面倒ではあるが階級と爵位を確認する。幸いにして男爵や騎士爵だったためすんなりと情報提供をしてくれた。先頭を切って戦っていた貴族たちは残念な結果になっているものも多く、爆発に巻き込まれて大半の兵士を失ったものも多いようだ。

 そんなことをしていると本陣から通達が来たのだが、勇者一行と歩調を合わせて突撃せよというなんとも単調で考えのなさそうな命令が飛んできた。

 余程貴族を減らしたいらしいが仕方がないということで将を無くした兵士たちの再編成と負傷兵の手当てに残るものを決めて前進を始める。

 右翼は非常に善戦していて、目立った瓦解もなく戦場を維持していたようで、勇者一行と合わせて魔獣たちを屠っている。

 勇者たちも戦闘一つ一つを見れば武人達が納得しない戦闘をしているのかもしれないが、着実に数を減らしている。

 中央軍もこれに奮起され前のめり気味に前進を続けているため、ゴッコに勇み足にならないように指示を出した直後、右翼に巨大な氷柱が現れた。


 「獣ではここまでが限界か。さすればこれよりはワシらが相手をしてしんぜよう。すまぬが、ちと数を減らさせてもらったぞ。」


 腹の底に響く重低音の声が右翼側から聞こえてくる。その音の主は頭以外を鈍色の鎧に覆われ、背中に身の丈ほどもあるだろう曲刀を背負った骸骨だ。鈍色の鎧には十字の模様が描かれているが、所属を表すものなのだろうがとんと記憶にない。


 「法国の名残が全くないところをみるとそういうことか、盛者必衰、寝ている間にこのようなことになっておるとはな。しかし、今は「翡翠将」を拝命しておるのだから、責務は真っ当せねばならぬな。」


 どうやら、かの骸骨は「翡翠将」というらしい。法国というのが気になるが、今は「翡翠将」とその後ろの骸骨の軍勢に注意を払わなければならない。この後どのように動いていくかを思案していると、自軍右翼側から一人が出てきた。


 「我こそはミッター・キンバル!王国より伯爵位を賜っている!名のある話せる御仁とみた!貴殿に一騎打ちを申し込む!」


 馬上にしては長さがない槍を脇に抱え、実用一辺倒の鎧をまとったミッター卿が闖入者である「翡翠将」に一騎打ちを申し込んでいた。

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