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とある貴族の望蜀  作者: 彼岸渡利
平穏という幻想
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神々の遊戯

 肉を切り裂く音、人間の怒号と悲鳴、獣の咆哮と断末魔が両翼から聞こえてきた。そんな音をものともせずに突っ込んでくる魔獣を目の前に私たちもいよいよ前線に立つことになった。


 「さっき言った通りに面で制圧するぞ、一斉射はじめっ!」


 私の号令とともに風切り音とともに矢が魔獣たちのもとに殺到する。避ける個体、致命傷になり動きを止める個体様々な魔獣が反応を示す。


 「ゴッコ!右側から狼型が来るぞ!弓では捉えきれないから肉薄してくれ!弓兵は左を厚くしろ!間違っても友軍にあてるなよ!」


 「おうよ旦那!行くぞ野郎ども!畜生共に人間様の意地見せてやれ!」


 私の隊は損耗を抑えるために組を組ませているが、周りの貴族たちはそうでもない。そも貴族たちが強いのだ。人の身長ほどもある大剣を振り回しながら横向き水車をしている者や、細剣をまるで流水のように振るって魔獣を撫で切りにしているのが貴族なのだ。数的な不利を私兵で補っているような連中ばかりで、そうかと思えば後方から人間の頭大ほどある火球を飛ばすものまでいるのだからつくづく規格外ばかりなのを痛感させられる。

 そんな中、前線から漏れて突っ込んでくるのを供回りの騎士に対応してもらっている私といったら肩身が狭い思いをしている。

 接敵して少し経った頃に動きが出始めた。左翼がローウェン卿の部隊を筆頭にまるで本を閉じるように前線を押し上げている。最初は貴族派の方々が奮戦しているのかと思ったが、戦線の押上が妙に早い。目の前にいる魔獣たちは狼型や虫型……足は速いが体格に難点のある個体……見通しが良い戦場……これは左翼が壊滅しかねんか。

 ゴッコに指示を飛ばそうとしたときに地響きがと共に地を揺るがす音が聞こえてきた。馬型と熊型の魔獣の大行進だ。しかも戦線を押し上げている左翼の横っ腹を突く形でだ。


 「ゴッコ!左翼が崩壊するぞ!こっちは少し後退するぞ!」


 ゴッコに声で指示を飛ばしながら後退の合図の太鼓を弓兵の一人に叩かせる。他の貴族たちもそうだが、戦場のような異常な空間で人の声は断末魔や怒号にかき消されやすい。そのため、太鼓のような誰でも叩くことが出来て、単調な叩き方で指示を隊にいきわたらせたいときに楽器がよく用いられる。多くは太鼓で私の隊もそれを採用している。安いというのも魅力の一つで魔獣の皮を持ち込めば値引きをしてくれる商人もいるほどだ。

 詮無いことを考えている間にも戦局は動いていく、悲しいほどに相手の策にやられている左翼の救援に行ける状態ではすぐに無くなった。飛行型の鳥型や蝙蝠型の魔獣の登場により魔術と弓兵はそちらにとられてしまう。

 人間とは不意の状況や動作に弱いものだ。いかに正面からの戦闘ならばやりようをいくらでも持つ貴族方でも横からの飽和攻撃には成す術もない。

 左翼からボロボロの早馬が何人も本陣に向けて駆けていく。あの人数だけ名のあるものが消えていったのだろう。その一人にならないために今をどうにかしなければならない。

 左翼があんな状態だが右翼は良いのかと言ったらそうでもないようで、左翼をえぐってきた魔獣を相手にしながら既存の魔獣たちも相手にする恰好となっているため一進一退の攻防を続けている。

 はたしてそんな持久力が人間にあるわけもなく少しずつ断末魔が増えていく中本陣から大きな銅鑼の音が聞こえてきた。後退の合図だが、撤退ではないのが気になるところだ。


 「諸君、王都より勇者殿率いる援軍が到着したぞ!雌伏の時は終わった!魔獣どもをせん滅するぞ!」


 ロイ王太子が風魔術を使った演説用魔術で全軍に勇者の到着を報せる。兵士達からすれば心強い援軍だが、貴族からしてみれば面白くないものも出てくるだろう。もちろん私は自領の損害が抑えられるのだから大歓迎だ。


 「おーおーどこを見ても魔獣の群れですなぁ。貴族さんたちもボロボロじゃぁないですかぁ」


 「こら、事実は時に人を傷つけるということを覚えておきなさい!」


 「皆さん!僕たちが来たからにはもう大丈夫ですよ!一緒に敵をやってけましょう!」


 本陣側から3人の勇者たちと近衛兵が数名歩いてくる。正直、近衛兵の方が凄みというか歴戦感が出ているのだが、それは彼らをよく知っているからということもある。


 「さぁ!まずは数が多いから私の魔法で一気に減らすわよ!」


 なんだったか、イムラコスズ殿だったか、勇者の中の女性がそんなことを言って魔術を唱え始めた。

 

 「万象の調べ 世界樹の雫 逆巻き 紅き抱擁 意志を持つ瞳 祖は身を焦がした フランメ」


 目の前でありえない事象の改変がなされる。何もないところを固定しそこに炎という結果を出すための呪文をくみ上げ、事象を成立させたのちにそこに熱と速度という法則を追加して魔獣の群れに放つ。

 それは一筋の放物線を描いて炎の塊が魔獣の群れに吸い込まれていく。一拍の後、それはこの世の終わりを告げるような轟音と炎の渦が魔獣たちを焦がす。

 魔獣を倒すということは成功しているし、全体の士気も上がっているようで周りから歓声があがっている。

 私の眼前には先ほどまで青々としていた草花が存在していた一帯がそれがあったことさえも否定するように黒焦げになっている。


 「ははは、これは良くない、まったく笑えないよ」


 私はそのようなことを呟きながら、戦局が無理やりに改変されていくこの状態を気持ち悪く感じていた。



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