生存競争の一端
南の荒野とはこの国より南側に広がる不毛の大地で草花がまったく育たず、野営をすれば魔獣に必ず襲われるといった話が多い土地だ。魔獣が近隣の村や町を襲うというのは残念ながらよくあることだが、今はそれよりも……。
「ふーむ、君は兵士のようだね。どこを巡回している折にそのような報を受けたのかね?」
「はい!南のリュラ村付近を巡回中に……へげっ」
国王に続きを促された兵士の話が途中だったが、手近にいる近衛兵が首に目掛けて剣を振り下ろしそれに追撃するように他の近衛兵も抜剣して人間の構造上の急所に刃を突き立てる。
「魔族君、ご足労頂いたところすまないがその情報はもう持っているのだよ。もう見ていただいているのだよ。お仲間がどこにいるかもだ。諸君、この大陸の一大事だったためこの議論の後にしようと思っていたのだが、向こうから話題をもってきてくれたため話しておこう。「遠見の魔皇卿」が先日より魔獣をまとめ上げこの王都に侵攻せんと画策している魔族の一団を発見している。」
俄かに会議室の場が高揚していく。貴族派は先の雪辱を晴らす機会が来たと、保守派は必ずくるであろう特需へと思いを馳せている。
「数は先の「大嵐」に匹敵はせぬものの、非常に多くの魔獣が統率されてこの王都に向かっているのは我が国の脅威である。まずは南方に領地を持つ家にこれらの対処を言い渡す。さて、この件はこれでよかろう。聖王国の件についても皆の意見はよくわかった。近々各々に沙汰をだす。備えよ。」
そう言い終えると国王は近衛兵を引き連れて退室していく。それを皆起立し礼をして見送った後、各派閥の王太子に続いて退室していく。わかりやすいどの派閥に誰がいるのかを喧伝しながら退室していくのを見送った後に私も会議室から出る。中立派の貴族の方々と数言会話をした後に自分の館へと帰っていく。
「おかえりなさいませ、旦那様。3番より戦の気配ありと聞いております。領地への早馬の準備が整っておりますので至急お戻りください。」
この家ぐらいなんじゃないだろうか、メイドから早く行けと言われる家はと思いながらありがたくテンタルとともに領地へと早馬を飛ばしていく。なにを隠そうわがアンドリュー家は王都から見れば南側にある町2つと村5を抱えている。今回の「南方に領地を持つ貴族」に我が家も入っているためだ。
領地についてからは怒涛の仕事量になってしまった。私兵部隊の再編制、各領地の私兵状況の把握、兵站線の確保、物資の調達と大まかな我が家の方針の策定とやることがどんどんと舞い込んでくる。そのくせ完璧なんてものは存在しないことから補填や最悪の状態を仮定したときなどを詰めていくだけで数日が過ぎ去っていった。
「各々方、よくこの日までに準備を整えてくれた!王族に名を連ねるものとしてこの大戦に参戦出来るとこを嬉しく思う。王都にて待つ国王や兄たちに吉報を届けようではないか!」
今回の戦ではロイ王太子が総大将として、各派閥の南方に領地を持つ貴族が勢ぞろいしている。両派閥ともに伯爵位を出してきているあたりが命の取り合いよりも派閥争いを優先しているようで嫌になる。
「右翼はミッター卿、左翼はローウェン卿に指揮をお願いしたい。私のような若輩者では戦場全体を見渡すことなど到底できないのでな。全軍指揮はパーラ卿にお願いしている。それでは各々方、次は王都の戦勝会にて武功の話を聞かせてほしい!解散!」
近衛師団長殿が出張っているということはここでロイ王太子に死なれても困るということなのだろう。今回の戦はあたりのようだ。私のような見栄とかをあまり気にしていない貴族は参戦させている私兵の数が少ないため中央にて総指揮官の命令で動くこととなっている。私が連れて来ているのも70名ほどだし、男爵家や騎士爵には供回りだけを連れて来ている者だっている。人を雇って武具を揃えてなんて余程財政に余裕がない限りは急な増員なんて出来ないし、このような時に備えての維持するなんてことをしていたらすぐに金庫が空になってしまう。なので、こういう事態になった時には総指揮官の下に集まるということになっている。
悪く言えば寡兵だが、一つ一つの隊の隊長が明確なのと、総指揮官が兵站等を請け負わなくて良いため大きな戦があるときには我が国ではそのような体制を整えている。問題は右翼、左翼と別れた陣営だ。
今回は組織だっているとはいえ基本は魔獣であろうという師団長の見解から中央軍を少し後方に下げて器のような陣形がとられている。魔獣たちの直線的な動きを真っ向から受け止めようということらしい。普段の大規模な魔獣狩りならばそれでも良いが何か嫌な予感がする。
「皆、5人一組を決して崩すなよ!疲弊したものは無理せずに後退、うちの隊が崩れても他の隊が今回はいるんだからな!」
「旦那、そいつは分かってますがね、あの「大嵐」を経験した連中のみで編成しろなんていわれちゃあ身構えますぜ、全員」
こいつは元山賊のゴッコ、先の「大嵐」で出会った奴で今回連れて来ているのもその時にゴッコが指揮していた山賊達だ、生き延びた後にうちの私兵として適度に領地の防衛をして貰っている。
「そうはいうがなゴッコ、撤退、陽動、罠を知るかもしれない魔獣どもが攻めてきているんだぞ、やばいだろうどう考えても」
「ははは、旦那はちっとばっかし慎重すぎやすぜ、でもそれが本当ならやばいですなぁ、こんな寄せ集めの連中じゃ最悪おいしく魔獣のおなかの中ですぜ」
冗談ではなく本当にその可能性があるのだから困ったものだ。先ほど簡単な軍議のようなものをしたが基本的に目の前のことに対応しろで終わってしまった。
そんなことを考えている内に自然現象ではなかなか立たないであろう量の砂埃が前方で舞っているのを視認した。
「魔獣たちを目視!数は……眼前すべて敵!すべて敵!こんなことってあるのか…。指揮をしているようなものは見受けられません。」
簡易の物見やぐらで警戒をしていた者が大声で喚いている。お出ましのようだ。
「もう一度言うが決して組を崩すな!常に仲間を視界に入れておけよ!弓兵は射程に入り次第一斉射しろ!面で制圧する!二射目からはある程度揃えてで構わないが各自では決して撃つな!いいな!荒くれども!」
「旦那、そろそろ後方へ、なんというかあいつらはヤバイ。お得意の奇術もこんだけ貴族がいれば出せないでしょう。」
「必要とあらば出すがそうだな、ゴッコ頼むぞ。」
そのようなやり取りをして自部隊から少しだけ後方に下がる。一応我が領地で正式に雇っている騎士を4人ほど供回りとして連れているがこいつらはこの戦が初陣だ。だから歴戦ので前衛は固めたがはてさてどうなるか。
こちらが思考を巡らせてようと時間が止まるわけもなくどんどんと近づいてくる魔獣たち、血気盛んに各々の得物を構える人間たち、両翼の先端にいる兵と魔獣がついにこの戦の最初の目撃者であり当事者になろうとしていた。




