何気ない日常は突然に
拙作をクリックしていただきありがとうございます。
国語を知らない人間が書いておりますが、どうぞ生暖かい目で見てくださると幸いです。
古来より人間は、様々な変化に対して順応していくことの出来る動物だと私は思っている。順応の仕方には環境そのものを変えたり、人間そのものの変化で対応したりと様々だが、各々の変化には相応の犠牲が必ず付きまとう。
ゆえに、安易な方法を選択して他者にその犠牲を強いたときに受ける報いというものは自身でその困難を乗り越える時よりも凄惨なものになりやすい。
「旦那様」
私欲がむき出しの法案が殴り書きされている紙には無価値の烙印を、それなりに利を得つつ民を程々に脅かす法案には再考を促すように指示を出す文字を書いていると細身ながら均整の取れた身体つきをしており、茶髪で男性にしては伸ばしている髪を後ろで結わえていて、目鼻立ちがはっきりしているものの普段は糸目の執事、テンタルが私を呼んでいる。
「旦那様、6番からの定時連絡がございません。王城内で動きがあったかと」
番号で呼ばれている者たちは我が領から各地に飛んでいる者たちだが、その場所が気になる
「6番ということは5、7番も近くにいたはずだ。その者たちはどうした」
「5番はすでにこちらに帰還中、7番は後始末をしているとのことです。」
現状、6番がどのようなことに巻き込まれてしまったのかがわからない状態ということか、歯がゆいが情報というものは流動しているものだ。
待つことしか出来ないと結論を出して、また目の前の紙の束を片付けるために紅茶でも頼もうとしたとき、テンタルが2通の封筒を私の視界の中にいれてきた。
「1通はいつもの方から、もう1通は王家からのものになります。王家からのは使いの者が返信を待っておりますので、早々にお書きになったほうがよいかと存じます。」
王家からの封筒を受け取り、中身を確認すると迂遠な物言いをさらに遠回しにしたような書き出しの後、近々王家が歴史に名を残す偉業を為すので是非その際はパーティに出席してほしいという旨が書かれていた。
我がポールト王国の王家は他国から見れば歴史は浅いものの、南に広がっている不毛の地のその先から来る魔獣の群れを数人の部下とともに退け、大陸中に魔獣が溢れないようにこの地に国を起こし、現在まで民から王家までが協力し魔獣と均衡を保ってきたため、一兵卒から近衛兵まで魔獣との戦闘を一度は経験しているというたいへん武闘家が多い国となっている
そのため、形がどうであろうと才覚をもったものが出世をすることも出来ることから比較的国の中枢はしっかりとしている
私ことシャール・アンドリューも数年前に起こった「大嵐」の生き残りであり、今我が領館で執事やメイドをしているのもその時からの付き合いのものが多くいる。「大嵐」とついていても天災ではなく魔獣の大繁殖に伴う大陸中央側への大移動のことだ。なんとなく過去のことを思い出していたが、今はこの文の意味を考えなければならない。
最近、魔獣たちが活発化しているとの話は聞いていないことから「大嵐」ではないのだろうが、だからといって安心出来る要素は何処にも存在しない。
むしろ話題が見えないことからくる潜在的な不安感を抱いていると、執務室の窓を一羽の烏が叩いている。
「おや、「獣」を使うとは余程火急の要件のようですな。旦那様、5番のとは思いますがご注意ください。」
そう言いながらテンタルが窓際まで向かい、烏が持っているであろう文を探している。ほどなくしてそれを見つけたテンタルが文を読んで珍しく糸目を開けて文を凝視している。
「どうした、聖王国が宣戦布告でもしてきたか」
現状最も最悪なことの一つを想定して発言をしたが、それを彼は首を振って否定した後、まったくこの世の悪夢のような言葉を発した。
「いえ、報告によれば勇者召喚を王家が執り行い、3人の召喚に成功したとのことです。」