幕間
冴島は漆黒の間で肉体との対話を終わらせた後に自室に戻ると、休憩用のタンクの中に入りタンクの側面にあるスイッチを押して睡眠モードにセットした。
透明な液体がゆっくりとタンク内を満たしていく。初めの頃は鼻と口に透明なマスクを着用して呼吸をしていた。この液体を吸い込んで肺を満たすことによって、液体から酸素をとりこんだ呼吸が可能であるということと、その方が肉体の回復速度が早いことを綿津見に聞かされた冴島は、以降は酸素マスクを使わないようにしていた。慣れてしまえばどうということはなかった。最近は、肺に液体を吸い込む瞬間と吐き出す瞬間に咳き込むことにも、だいぶ慣れてきて嫌な気分にならなくなってきていた。
このタンクは寝ながら身体の洗浄と龍脈孔の活性化、そして肉体の回復を図ることが同時にできる優れものの機械だった。宿禰との契約が終わった後に、使い続けたいと交渉しようと考えるぐらい便利なものだった。
冴島が目覚めると湊大地の肉体は液体の中で仰向け状態でプカプカと漂っていた。脳波によって冴島が覚醒したことを認識すると、タンク内の液体が自動で排出された。タンク内の上下左右背後から温風が噴き出して、身体を乾かしていく。乾燥が終了すると、タンクの内扉が上下にスライドし、上半分を覆っている外扉がヒンジ部分を中心にしてゆっくりと上に起き上がるようにして開いていった。
冴島は上半身を起こしながら肺の中に残っている液体を少し咳をしながら吐き出すと、両手をタンク内部の手すりを握ってゆっくりと立ち上がった。
5時間ぐらいの睡眠時間だったが、しっかり眠れて身体の疲れが完全に取れているのがわかった。
タンク横のスピーカーから音声が発せられる。
[脳波異常なし...心拍異常なし...血圧異常なし...酸素飽和度異常なし...体温異常なし...身体に問題ありません...龍脈孔刺激により第2、第4龍脈孔活性率上昇確認しました。その他、未活性龍脈孔活性率微弱上昇確認しました]
冴島は温風で強制的に乾かされて変な癖がついたような湊大地の少し伸び始めた髪を手櫛で直すようにしたが、さすがに無理だった。服を着てから髪を整える機械に座ると、ミストを吹き付けていつも通りの髪型に整えてくれた。髪の長い女性の場合、タンクの中で髪を整える設定があるようだが、湊大地の頭髪には不要なため綿津見から説明を受けなかった。
口内もタンクの中で液体を含んでいるので口の中も洗浄されているらしいが、やはりそれだとあまり気分が良くない。ダイビングのマウスピースそっくりなUの字型をしたゴム質のものを口に入れて軽く咥える。上下に細いブラシ状のものがびっしりと生えていて、それが細かく振動しつつ、殺菌作用のある不可視光線によって短時間で最適な歯磨きをしてくれるらしい。
U字型の歯ブラシを口から出して口を濯ぐ。
「ここにいると人間としてダメになりそうだな」
冴島はタオルで口と手を拭くと、自室のドアの前に立った。
ドアが”ピッ”という開閉音を立てて静かに開いた。すると目の前には綿津見が立っていた。
「冴島さん、おはようございます。朝食ができています。お連れの皆さんはすでに召し上がっています。ですが、朝食の前に加多弥様がお話しがあるそうです。」
綿津見に促されて入った部屋は今までは行ったことのない部屋で、中央に楕円形の豪華なテーブルがあり茶器が並べられていた。加多弥にも綿津見にも聞いたことはなかったが、この施設の大きさは想像がつかなかった。部屋の数からしても直線にして50メートルでは足りないだろうと思っていた。そして部屋の天井も高かった。大剣を帯びている化外剣闘士が護衛にいるからには低い天井では都合が悪いのだろう。
楕円形の豪華なテーブルの一番遠い席に加多弥が座っており、入り口近くに阿修羅と琥珀が腰掛けている。夜叉と綿津見は立ったままだった。愛梨達はその場にはいなかった。
「冴島さん、そちらの席にお掛けください」
綿津見の指し示す席は加多弥の斜め前の席だった。
・・・上座ということか。こういうのは同じなのだな・・・
そのようなことを考えながら、ドアのそばに立っている夜叉の前を通り過ぎる。夜叉の顔を見るといまだに不機嫌そうな顔をして、こちらを睨んでいた。冴島が席に着くと、綿津見は席についている全員に茶を提供し始めた。
加多弥が話し始める。
「朝食の前に今後のことを打ち合わせさせてください。最初に、冴島さんのお連れの3人の方について」
「そうですね」
冴島もそれについては同意見だった。
「私たちのことをどこまでお話ししたら良いのかと思いまして」
「ある程度は話すしかないと思います。ですが、武尊について詳細は言わない方が良いでしょう。犯罪者が逃げてきて、それを追いかけてきたという程度にしておいた方が無難だと思います」
「わかりました」
「彼女達の職業的にも、渡す情報は少なめにしておいた方が良いでしょう。全てが終わった時に、彼女達が困ることになるかもしれない」
「情報公開を迫られるということですか?」
「ええ、何か知っているということがわかったら、彼女たちが所属している組織からひどい仕打ちを受けて喋らされるようなことがあるかもしれない」
「情報が最も重要な世界に所属しているということですね」
「そうですね。情報が最大の武器という世界にいる人たちですから」
「地上の本当の歴史、私たちの世界のことや科学技術と魔法と魔術の知識を地上の人たちが知ったらどうなるんでしょう。混乱? 狂喜乱舞?」
「想像もつかないですね。あまり考えたくないし、彼女達を巻き込ませたくない。もちろん、私も巻き込まれたくない」
「私たちの地下世界、亜雅籠垞のことは、彼女たちにどこまで話したら良いとお考えですか?」
「ここに移動してきた方法や、彼女達の部屋の機器の説明のためには、ある程度の説明が必要だと思います。昔に地下に移り住んだ高度な文明を持った人類というぐらいで良いのではないでしょうか。古の盟約で言えないことが多いということにしておけば、あまり情報を与えなくて済むでしょう」
「地上のみなさんより文明が進んでいるという程度で、あとは盟約で言えないということで彼女達に納得してもらいましょう。あなた達もそのようにしてくださいね」
加多弥はそう言うと、護衛の3人の方に視線を向けた。3人は加多弥の言葉に軽く頷いた。
あまり情報は与えないようにと言ってみたものの、3人はここにしばらく住むわけだし、コミュニケーションのことを考えると加減が難しそうだと冴島は思った。特に護衛の3人は癖が強い。言われた通りに徹底的にしてしまいそうな気がした。冴島は3人に向けて言った。
「まあ、あまり言わないのも除け者にしているみたいで可哀想だから、会話が成立する程度には情報は与えて欲しい」
加多弥は湊大地の顔に視線を向けた。
「それでは、本題ですけれど...」
「武尊のことですね」
「はい」
湊大地の目つきが鋭くなった。
「データが少ないのは承知していますが、どこにいる可能性が高いですか?」
「その前に...居場所がわかったら、すぐにでも武尊の居場所に行くつもりですか?」
何を言っているのかというような表情をした湊大地に向かって加多弥は続けた。
「昨日の戦闘を見ていましたけど、あの戦い方では命がいくつあっても足りません。私たちが地上に出てくる時に、私が魔法探知で何人いるか調べました。その時に、6名が見張りについているのを確認しています。1級化外剣闘士1名、2級化外剣闘士1名、初級級魔術師2名、中級魔術師2名です」
「魔術師が4人に化外剣闘士が2人ですか...この間は1人ずつでも苦戦したのに、確かに6人相手では勝てるとは思えないな」
「惨跛の術の期間のことも気にかかりますし、武尊が地上に来た理由を早く調べなくてはいけないのもわかるのですけど、冴島さんの実力を考えるとあと少し訓練に時間を使った方が良いと思います」
加多弥に気を削がれ、少し冷静になった冴島だった。
「急いては事を仕損ずるということですね。加多弥さんの言う通りだと思います。まずは、訓練と準備をしてから臨むことにしましょう」
「その方が良いと思います。武尊の移動も地球規模でしょうから、移動に時間はかかると思います」
「そうあって欲しいですね...」
冴島は、NTBSビルでの戦闘を思い出す。
・・・まあ、仕方ないだろう・・・今の実力では化外剣闘士と戦っている時に囲まれて殺されるのがオチだろうからな・・・
「では、訓練についてですが、毎日の訓練とは別で、攻撃魔法の使い方で試してみたいことがあるんです」
「攻撃魔法で気づいたことがありました?」
「ええ、法力を必要以上に込めすぎて、想定以上の威力になっていると思うのです。治癒魔法は制御できるのに攻撃魔法は威力が抑えられないのは、法力の練り上げ方に問題があるような気がするのです。それが解決できれば、魔法の励起や発動までの時間も短縮できると考えています」
「それでしたら、治癒魔法自体の修練も追加しましょう。その方が近道だと思います。私も治癒魔法を最初に覚えたんですよ」
「そうなんですか? どういうことを?」」
「そうですね...例えば、次元鏡像から欠損した四肢を復元するのではなく遺伝子レベルから四肢を復元するとか、ほとんど機能していない臓器を新しく作り直すとか...身近なところだと、伊吹さんは視力矯正の器具を身につけていましたよね」
「ああ、メガネですか? 普段はコンタクトレンズを着けてるみたいですけど」
「亜雅籠垞には視力矯正の器具は存在しないんです。遺伝子レベルで先天的に視力は良いので。後天的に悪くなっていくのは治癒魔法で治してしまうんです。ですから、近視のような眼球が縦に長くなって実像がぼやける場合は魔法で眼球を前後方向に短くするんです」
「そんなことまで魔法を使って治療するんですか。そういえば、魔法使いはそんなに多くいないということでしたけど」
「そこはちゃんと説明していなかったですね。法力を生成できる龍脈孔を持つ人々はそれなりに存在するんです。でも、そのほとんどが1つしか龍脈孔が活性化していないんです。しかも身体の中心の龍脈線上の龍脈孔ではなく手足部分の龍脈孔が開いた人がほとんどなんです。私や宿禰、そして湊さんのように、法力を生成できる龍脈孔が複数開いた人は数えるほどしかいません。1つしか龍脈孔が開かない人は魔法使いや法術師ではなく、治癒師という別の名称で呼ばれるんです」
「治癒師ですか」
「はい、冴島さんの世界のお医者さんのような位置付けですね。もちろん、機械で治療をすることがほとんどですけど」
「加多弥さんは治癒師の方の指導を受けたんですか?」
「はい、父専任のとても優秀な治癒師の方でしたけど、法術師になるのを諦められない方でした」
「国王専任ということはかなり優秀な方なんですね」
「はい、私が父を魔法で怪我をさせてしまった時にその方のお陰で父は一命を取り留めたんです」
「そんなことがあったんですか。その方は、宿禰付きの治癒師なんですか?」
「いえ、武尊について出奔してしまいました」
「そうですか...そのような方であれば新国王に仕えそうなものですけど」
「はい、まさか白桜様が...」
加多弥が声を詰まらせた時に、愛梨達が部屋に入ってきた。どうやら朝食を終えたようだった。2人は会話を打ち切った。
「それでは私は朝食をとってきます。先ほどの説明を彼女達にお願いします」
「ええ、彼女達が困らない程度にお話ししておきますね」
湊大地は愛梨達と入れ替わりで席を立つと部屋を出ていこうとしたところを、背後から伊吹に声をかけられた。
「大地さん、ちょっとお願いがあるんですけど...」
振り返りながら返事をすると、ピッタリとしたボディースーツに裃の上半身部分が取り付けられたような服を着た3人が恥ずかしそうな顔をして湊大地の方を見ている。
「なんですか?」
「あの、できればなんですけど...家に荷物を取りに戻りたいな...って3人で話していて」
「え? ここにはほとんどのものがあると思いますけど」
冴島もほとんど荷物を持たずにここに来たが、困ったことはほとんどなかった。男性と女性とでは何か違うのだろうかと考えた。
メガネをかけた伊吹が答える。
「私の場合はコンタクトレンズがなくなってしまったんです。それに、綿津見さんが用意してくれた服がピッタリすぎて恥ずかしいよねって、みんなと言ってて...他にも色々...」
気を利かせたように綿津見が伊吹の言いたいことを言ってくれた。
「私たちと服の意匠の受け取り方が異なっていると思いますし、肌着とかの違いで違和感があるのでしょう」
「ああ、なるほど。俺は、そこにあるものに身を任せるという感じだから、気づかなかったな。とはいえ、ゾンビが彷徨いてるところに気楽に行くわけにもいかないしなあ」
何の問題もないという表情で綿津見が加多弥の方を振り向く。
「加多弥様、皆さんの家に空間接続して必要なものをとりに行くのを許可していただけますか?」
少し冷めた茶を飲みながら加多弥が応える。
「そうね、しばらくここにいることになるでしょうし。部屋に直接接続するから大丈夫だと思うけど、念のため護衛が必要でしょうね」
冴島が答えた。
「護衛だったら私だけで十分ですよ」
「時間がもったいないですから、阿修羅と夜叉にも行かせましょう」
「いや、阿修羅と夜叉は無理ですよ」
阿修羅が不思議そうな顔をして問いかける。
「なぜだ?」
「俺たちの家は斬魔刀を振り回せるような高さも広さもないからな。琥珀に手伝ってもらえれば充分だ。琥珀、頼めるか?」
「うん、行く行く。あんた達の家がどういうのか興味あるし、精霊達に会うのも楽しみだからね」
「それじゃあ、俺の朝食が終わったらすぐに行くことにしよう」
そう言って、湊大地は朝食を取るために部屋を出て行った。
約20分後には湊大地が先ほどの部屋に戻ってきた。すでに新しい戦闘服に着替え終わっていた。タクティカルハーネスに銃が、腰には龍髭刀が斜めに取り付けられている。
全員が、冴島が普段訓練に使っている部屋に移動した。この部屋は強固に作られているらしく、不測の事態が起きても対応が可能とのことであった。
「じゃあ、荷物を取りに行きましょう。綿津見さん、3人の住所がわかれば大丈夫ですか?」
「はい、住所から座標を割り出します」
「誰から行きますか?」
黒いセルのメガネをかけた伊吹がニコニコしながら大地の前に身を乗り出してきた。
「私からで良いですか?」
愛梨と美織が横目でお互いをチラッと見て、意味深な笑みを浮かべる。
「じゃあ、住所を綿津見さんに教えてください。琥珀は準備は良いのか?」
「うん、私は何にもいらないよ。行くだけ。必要だったら現地で精霊と契約するから」
「では、接続先から惨跛壱式がこちらに来た時に対応できるように、阿修羅様と夜叉様は準備してください」
綿津見の言葉を夜叉は反応もせず、阿修羅は頷くだけだった。だが、2人とも肩口の斬魔刀の柄を握り、鞘を展開していつでも抜刀できるようにしていた。
今回はどこかのドアに空間をつなげるのではなく、目の前の空間を直接彼女達の部屋に接続するようだった。空間が歪み始めたのを見ると、湊大地はタクティカルハーネスについているホルスターから銃を引き抜いて正面に構える。安全装置を外して引き金に指を添え、いつでも発砲できるようにする。
「先に俺が入りますから、合図があったら入ってきてください。土足で入るのは許してください」
「はい、全然構わないです」
「綿津見さん、俺たちが入ったら一旦空間閉鎖しますか?」
「はい、加多弥様がいる場所に長時間接続し続けることは避けたいので閉鎖します」
「わかりました」
縦長の楕円形に空間が接続されると、湊大地は銃を構えたまま慎重に接続先に入っていった。数分後、声が聞こえてきた。
「伊吹さん、大丈夫ですよ。綿津見さん、彼女が入ったら接続解除してください」
綿津見が伊吹が空間接続した先に消えたのを見送っているだけで、空間が閉じていった。
その短い時間の間、美織と愛梨は伊吹が湊大地に一目惚れしたことを話題にしていた。
嬉しそうに愛梨が言う。
「イブさんはあんまり面喰いじゃなかったはずなんですけど...でも、不思議な力で命を助けてもらったし、頼り甲斐ありそうだし...やっぱり、イケメンだからなんですかね?」
美織もそれに楽しそうに応える。
「メロメロだよね?」
「ですよねー。あんなイブさん見たことないですよ」
「うん、クールビューティーだもんね。みんなビックリするよ」
2人は顔を見合わせて笑った。
「愛理ちゃんは湊さんはどうなの?」
「うーん、悪い人じゃないんですけどね」
「あんまりタイプじゃないの?」
「まだそんなに話もしてないし...それに、なんていうか、掴みどころがない感じなんですよね。見た目と内面が釣り合ってない感じがするし」
「あ〜、泰然自若って感じはするよね。戦場に出たことのある軍人さんだからかな」
「小さい頃から母に軍の人の悪口をずっと聞かされてきたんですよ。だから助けてくれた湊さんにも少し距離感があるっていうか...」
「そっか...お父様とかお祖父様は軍関係じゃないんでしょ?」
「はい、父は大阪出身の普通の会社員で、父方の祖父は私が小さい頃に亡くなってて、母方の祖父は鹿児島出身の警察のお偉いさんです」
「じゃあ、お母様が昔付き合っていた人が軍関係の人だったのかな」
「どうなんでしょうね...でも、すごく印象悪いみたいなんですよね...何かあったのかなあ...」
2人の会話に、琥珀が割り込んできた。
「愛梨、それじゃあ行こうか」
「はい、お願いします」
「ねえ、愛梨は精霊が自分にまとわりついてるの気がついてる?」
「え? 精霊?」
「やっぱり、気付いてないよね。風の精霊がお話ししたくてまとわりついてるよ。どこか自然に囲まれたところで生活してたことある?」
「小学生の時に父の仕事の関係で、アメリカの田舎に住んでいたんですよ。大自然っていうところだったんですけど」
「そこで精霊達が愛梨を見つけたのかもね。精霊と対話できる人って少ないから嬉しかったんじゃないかな」
「琥珀さん、そういうのは珍しいんですか?」
美織が琥珀に訊ねた。
「そうだね。だいたい精霊と対話できる人間が少ないからね。精霊達は人間の周囲にいるだけだよ」
「そういうものなんですね」
「うん、私みたいな精霊魔術師以外では珍しいよ。愛梨はそういう素養があるのかもね。普通の人では珍しいかな」
加多弥が興味深そうに愛梨を見つめている。
「ねえ、琥珀。彼女にはどういう風の精霊がついてるの?」
「少し気分屋さんな感じなところのある攻撃的な子がたくさん。風の精霊自体が気まぐれなんだけどね」
「どの辺にいるんですか?」
「愛梨の頭の周りをフワフワ漂ってるよ」
美織は愛梨の周囲にいると言っている見えない精霊を探すようにして見回している。
「精霊ってどういうものなんですか?」
「物質には精霊が宿ってるの。別に人とか動物の形をしてるわけじゃないよ。光の粒みたいな感じ。精霊達は物理世界に力を行使したいんだけどちょっとしかできない。だから対話ができる精霊魔術師と契約して自分達の力を使ってもらおうとするんだよ」
「水が高いところから低いところに流れてるのも精霊の力なんですか?」
「あれは違うよ。物理的な現象だよね。予測不能で異常な気象現象とか起きたりしない?」
「突発的な洪水とか竜巻とか?」
「そうそう、ああいうのは精霊達の小さな力が溜まりに溜まって噴出して発現した結果なんだよ。精霊魔術師がいれば普段から精霊の力を使ってあげられるから、そういうことは起きにくいんだよね。精霊達は力を使ってもらいたい。精霊魔術師は精霊の力を使えると便利。そういう関係」
琥珀は説明し終わると少し嬉しそう微笑んで、右手を左肩に、左手を右肩に乗せて自らを抱きしめるようにして囁いた。
「愛梨に風の精霊の加護がありますように」
すると愛梨の身体の周りを風が吹き抜け、そのまま身体を中心に風が渦を巻くと少しずつ静まっていった。
「これで前よりも風を感じられるようになったと思うよ。話しをするのは無理だと思うけど、愛梨の声は精霊に聞こえるようになるし、風の精霊の声は聞こえるようになるかもね。精霊達も喜んでるよ」
「私も精霊と契約ってできるんですか?」
「精霊の知識を少しつけて力の使い方を訓練してからかな。いきなり契約したら力が暴走しちゃうかもしれないからね。それじゃあ、愛梨のお家にどういう精霊がいるか見に行こうかな」
そう言うと、綿津見がすでに空間接続した愛梨の部屋に、琥珀は何の警戒もせずにズカズカと入っていった。
【後書き】
今回も更新間隔が空いてしまったのと、物語のつなぎの都合で長めになります。
早く武尊のところに行こうと思っていた冴島と、実力不足を指摘してそれを止める加多弥とのやりとり。
冴島の魔法の習得と、愛梨の精霊との関わりについて、今後のための実は大事なところのお話です。
あいかわずな会話パートです。すみません。
次は、ある事件が起きて、その次ぐらいから仁徳天皇陵に行く話になっていきます。




