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神代の魔法使い  作者: 伊月雅臣
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行方

 冴島は突然使えるようになった魔法を記憶から呼び出した。文字とも記号ともとれるようなものが映像のように思い出される。記憶を呼び出すのと並行して、法力を練り上げていく。

 龍脈孔(チャクラ)から慎重に、そして少しずつ(ひね)り出すようなイメージで法力(ほうりき)を出力させていく。捻り出された法力をティッシュペーパーをこよるような感覚で練り上げる。そしてその法力の糸で記憶にある文字のようなものを描いていく。

 魔術であれば記憶にある魔術陣に法力を流し込めば良いのだが、魔法は魔術とは違った法力の練り上げ方をしなくてはならない。そのため発動には魔術よりも時間がかかってしまう。

 法力で描かれた文字が完成すると、冴島の周囲に薄黄色い記号が浮かび上がった。そして、牙炎(がえん)の頭部の周囲を覆うような細かいネット状のものが現れた。そのネットは縮むような動きをしながら、ゆっくり牙炎の頭部に近づき頭の中に消えていった。


 牙炎は痛みを感じないと言われている脳を何かの力で押さえつけられているように感じた。そして繊毛のような細かい触手が脳に食い込んでくるような錯覚に陥った。

「うわぁ!!! なんだ、これは!」

 痛みではないが言葉には言い表せないような感触。何かが頭の中で蠢いて脳を揉みほぐされている様だった。

 頭を掻きむしろうとしたが、切断された両手首を頭に擦り付けることしかできない。

「お前の名前と所属を言え」

「が...牙炎...今は所属はない...武尊様を守ための2級化外剣闘士(けがいけんとうし)だ...」

 どうやらうまく魔法がかかっている様だった。

「お前の今の役目はなんだ?

「ああ...あう...この場所で惨跛(ざんび)の術を守ること...」

 牙炎は必死な形相で術に(あらが)おうとしている様だったが、その抵抗は無駄に見えた。

「なぜ惨跛の術を地上で使った? 武尊(たける)は今どこにいる?」

 その質問を聞いた牙炎は背中に龍髭刀(りゅうしとう)が突き立っているにも関わらず、突然立ち上がって叫びながらヘリポートの(へり)に向かって走り出した。

「ぐうあぁぁ...陽動...た...け...る...さ...ま...はあぁ...う...み...」

 驚くほどのスピードだった。

 冴島は突然のことに反応が遅れてしまった。牙炎を捕まえようと全速力で走ったが、(つか)みかかった手は牙炎に届かなかった。

 ヘリポート外縁(がいえん)に張り巡らせてある1メートル程度のフェンスを走ったまま軽々と飛び越えた牙炎は、ヘリポートから地上に向かって飛び降りてしまった。異能力(いのうりょく)の念動で牙炎を引き止めようとした冴島だったが、間に合わず牙炎の背中の龍髭刀を引き抜くことしかできなかった。


 少しして、地面に岩が落下したような硬く重い音が眼下から空気を震わせるような音をさせて響いてきた。

 冴島は牙炎を掴み損ねた右(てのひら)を見つめながら(つぶ)いた。


「陽動...こんな大惨事が陽動だというのか...奴は何をしようとしているんだ...」


 念動力で宙に浮いている龍髭刀を手元に引き寄せながら、敵とはいえ若者の自死を防ぐことができなかった自分に言いようのない腹立たしさが込み上げてきた。だが冷静な表情を崩すことなく次にやるべきことに冴島は頭を切り替えていった。


 ドローンの映像を見ながら翻訳機からの音声を聴いていた加多弥(かたみ)も同じ言葉を呟いていた。

「陽動? 戦略級の魔術を陽動に使うなんて武尊は何を考えているの?」

 綿津見(わだつみ)は黙ったまま加多弥を見ていた。

「綿津見、惨跛の術が発動している地域に、探査機を飛ばして状況を確認しなさい」

「現在、探査機は3機しかありません。すぐに製作に取りかかれますが、あまり意味はないと思います」

「どういうこと?」

「惨跛の術は強大な軍事力をもつ大国と技術大国などで発動しています。推測を裏付ける要素が非常に少ないので信頼度は低いのですが、それらの国の軍が自国から動けないようにするための惨跛の術と考えるのが妥当ではないかと。すでに軌道上の複数の人工衛星に潜り込んで監視をしていますが今のところ武尊様の所在は掴めていません」

「もっと低い高度で調べる必要はないかしら?」

「調べるにしても全ての国である必要はないと考えます」

「そう...ということは、必要ないということね。ねえ、あなたはどこを探せば良いと思う?」

 綿津見は少し間をとった。

「海の中を移動している可能性が高いです」

「海? 空間接続装置を使えばいいじゃない」

「空間接続装置は厳密に管理されている装置です。特に中型以上の所持は特別な許可が必要になります。武尊様が出奔(しゅっぽん)した際に紛失した空間接続装置は小型の物が1台のみです。それでは人間を運ぶことはできません」

「忘れてたわ。私が持ち出すのも大変だったものね」

「はい。この装置が地上人に渡れば地下に侵攻される可能性が出てきますから」

「空を魔術で大人数で移動したら見つかってしまうから海の中を移動しているということね」

「はい。多人数を隠蔽(いんぺい)魔術で隠すのは難しいでしょう。中型の潜水艇が5隻紛失していることを考えると、叢雲(むらくも)様が亜空間収納魔術と圧縮魔術を併用して地上に持ち込んでいる可能性が高いです」

「叢雲は魔法が使えないから5隻もの潜水艇を圧縮して収納してるのね。ねえ、どうして紛失した物資の報告が私になかったの?」

「先ほど情報の更新があったところです。伊予二名(イヨフタナ)国は弾正(だんじょう)様が暗殺されて混乱が未だ収まっていないようです」

 加多弥はそれを聞いてため息をついた。

「それは宿禰(すくね)に任せるしかないわね...」


 加多弥が視線を冴島が映っているスクリーンに目を向けた。冴島は惨跛の術の魔法陣の中央に座り込んでいた。


「やっと、惨跛の術を解除できるな」

 冴島は魔法陣の中央に片膝をつくと惨跛の術の解析を始めた。

「期限は28日。ゾンビの頭から解析したのと同じだな。ん?」

 冴島は魔術式の中に術を発動した術者の名前があることに気がついた。通常はこの術のような設置型の場合に、この術を発動した術者がわかるようしたり、術者の名前を暗号化して術が簡単に解除できないようにするのである。

「あさぎり...か」

 宿禰の記憶で魔術式の中にある文字を読むことができた。

 化外剣闘士の牙炎が魔術師のことを朝霧と呼んでいたのを思い出した。

「そういえばみんな日本語みたいな名前だな。牙炎、朝霧、阿修羅(あしゅら)夜叉(やしゃ)琥珀(こはく)、武尊...かなり昔に地上と地下に分かれたと聞いてるのにどうしてなんだ?」

 疑問に思いながらも惨跛の術を解除すると、ヘリポート上に浮かび上がっていた青白い魔術陣は徐々に明るさが失われていき、最後に消失した。





 

数日前 南極某所


 氷に覆われた山の(ふもと)に縦20m、幅7mほどの亀裂のような穴が開いている。発掘調査のための小規模な基地が山に向かって穴の正面側を囲うように立っていた。穴の手前には雪の侵入を防ぐために3メートル程の高さの湾曲した防壁が並びドームの様相を呈しているが、それは雪以外の侵入を阻むためのものであることは明らかだった。

 その防壁の手前には防寒性能の高い雪の中で迷彩色となる白色の戦闘服を着た者たちが警備をしていた。南極条約で南極地域は平和目的のみに利用されることが明言されており、軍事基地の設置は禁止されている。軍の施設と知られないように、ドーム状の防壁のさらに外側に1メートルほどの塀が建てられ、その内側を軍人達が銃器を携帯して警備していた。


 山の表面を分厚い氷が覆っているが、亀裂部分の氷は除去され穴が露出している。その中では発掘と調査が進められていた。

 

 基地に向かって歩いてくる一団に周囲を監視している兵士が気がついた。

「おい、10人こっちに向かって歩いてくるぞ」

 言われた別の兵士が軍用のデジタル双眼鏡でその方向を確認する。

「なんだあいつら。南極なのに薄着だぞ」

 10人ともにあまり見たことがないような服装だった。そして寒い場所にはそぐわない防寒機能がなさそうな服装だった。

 距離にして300メートル程度だった。なぜ彼らの接近にここまで気づかなかったのか。双眼鏡をズームしてみると人種はアジア人が中心で白人と黒人が1人ずつ含まれていた。

 監視役の兵士たちは小型の通信機を使って不可思議な10名が接近していることを基地内の本部に告げた。それと同時に、周囲に青白い閃光が走り、遅れて空間が震えるほどの振動と破裂音が周囲に(とどろ)いた。ドーム状の防壁の手前の壁が無惨にもボロボロの姿になって破壊され、焦げ臭い匂いとプール臭にも似たオゾン臭が漂っていた。

 発掘調査している場所を管理、護衛していた米軍の小隊は突然自分達を襲った凄まじい雷によって混乱状態に陥っていた。雷は真上から落ちてきたのではなく正面から塀に向かって飛び込んできたのだ。

 落雷で動けないものや絶命している仲間が何人もいた。監視にあたっていた兵士2人も雷に巻き込まれ、即死状態だった。小隊規模で警戒、護衛をしていたがほとんどが先ほどの落雷で機能停止していた。

 凄まじい音を聞きつけて基地から銃を携えた兵士たちが飛び出してくる。そこに直径10センチ、長さ30センチほどの先端が尖った氷柱が大量に降り注いだ。

 基地から出てきたところを狙い撃ちされて反撃のいとまもなく兵士たちは無効化されていった。


「どけ、俺がやる」


 身長190センチ近い高身長で、細身の狡猾な顔つきをした陰鬱な雰囲気の男が歩み出た。男は左手を前に出すと中指の第一関節近辺に若干の魔力を送り込んだ。左手の握り拳近辺に刺青のような文字が浮かび上がってくる。男は右手の人差し指で浮かび上がった文字の上に指を乗せて魔力を送り込んだ。肘の方向に向けて一列の文字が青白く鈍く光ると、シールが剥がれるように文字が腕から浮かびあがると姿を消した。その直後、基地上空から炎が下方に噴き出し、基地一帯を巨大な炎が覆い尽くした。高温の炎で基地の建材がひしゃげ、燃え落ちていく。炎に包まれ逃げ惑う兵士たちの姿を見ながら男は微笑んでいた。


陽炎(かげろう)様、威力が強すぎて遺跡に被害が及んでしまいます!」


 杖を持った若い魔術師が長身の男に大きな声で呼びかけるが、陽炎と呼ばれた男は全く気にする様子もなかった。巨大な炎によって数メートルほどの深さのある氷のクレーターができあがっていた。


 炎から逃れた兵士が陽炎たちに向かって小銃を連射してきた。だが、銃弾は魔術防壁を貫通することができず、弾頭部分は全てひしゃげて潰れたような形になり、氷の地面の上に落ちていった。

 その様子を離れた場所で見ていた別の兵士は武器庫から携行式の対戦車砲のM136を持ち出すと、後方の安全を確認し、肩に担いで所定の手順で発射準備をしてから発射ボタンを押し込んだ。後方に爆風が排出され砲弾が発射された。砲弾後方の安定翼が開きながら接近してくる敵に向かって飛翔(ひしょう)していくと展開されていた魔術防壁に着弾した。だが戦車の装甲を貫通するほどの破壊力のある砲弾すら魔術防壁には効果がなく、砲弾は着弾時の衝撃で変形し跳ね返されて弾け飛んでいった。


「地上の歩兵が持つ兵器が魔術師に通用すると思っているのか。バカどもが」


 陽炎は着ている服の左袖の内側を引き()がすようにすると袖の一部が開き、腕の内側に浮き上がっている魔術の詠唱文(えいしょうぶん)を左手の中指で触れて魔力を流し込んだ。発射した武器が通用しないことに呆然(ぼうぜん)としているM136対戦車砲を発射した兵士が瞬時に氷柱に閉じ込められたようになった。


「凍ったまま門番でもしていろ」

 ニタニタした笑みを浮かべていると陽炎の背後から一番年配に見える男が言った。

「ここで間違いないな?」

「はい、この穴の中で間違いありません」

 若い魔術師が答えた。

「内部の地上人達を片付けたら予定の作業を即刻開始しろ。おい、陽炎。お前は残りの兵士たちを片付けろ」

「言われるまでもありません」

 真面目な顔をして返事をしているように見える陽炎だったが、若い魔術師には作り笑いのような笑みを浮かべた仮面が顔の皮膚に張り付いているように見えていた。

 

「私たちの遺跡に手を出すような連中を、生かしておくつもりはありません」


 陽炎と呼ばれた魔術師の虐殺が開始された。

加多弥と綿津見の会話では英語とか英語が元になっているカタカナは使わないようにしています。

冴島との会話では翻訳機を使っているのでインターネットから集めてきた情報を元にして翻訳データを作っているため日本で使われている言葉が選択されているのでカタカタ英語とかが使われます。

まあ、そんなわけでドローンとかデータというような言葉は使っていません。分かりにくくて、すみません。

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