7 外へ
遅くなりましたm(_ _)m
さっき出て行ったセンティさんが、直ぐに戻ってきた。そして、俺の顔を見るなり、
「あっ!許可貰うの忘れた!!」
と、頭を抱えた。
「えっと、ご愁傷さまです?落ち込んでるところ申し訳ないんですけど、トイレどこですか?」
そんなセンティさんに申し出る。頭抱えているところ悪いけど、起きて食べて寝て起きて食べてってしてたら、そろそろ辛い。
「あっ!失礼しましたッ!厠は外にあります!」
そう言って、センティさんは扉を開けて部屋の外へ誘導してくれた。
部屋の前にはテーブルといくつかの椅子が有って、その向こうに暖炉とそれを挟んで大きな竃が二つ有る。竃の隣には小さな扉が一つ。俺の出てきた部屋はその扉の正面で、他に四つ扉が並んでいて、更に左右それぞれの突き当たりに扉が一つずつ。その一方の五段ほどの登り階段の付いた扉の方へ「こっちッス」と案内してくれた。
扉を開けると、キンと冷えた風が顔に当たり、思わず「寒っ」と声が出た。
「あっ!ちょっと待ってて下さい!」
俺の呟きにセンティさんはそう告げると、一度部屋まで戻って、綺麗に畳まれた学ランを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
と、へらりと笑って受け取ると、「いえ!気付かなくってすいませんッス!」と、センティさんも笑い返してくれた。
学ランに腕を通してボタンを止めながら周りを見て、寒い訳だと納得した。
周りは一面雪に覆われていた。大体六~七十センチは積もっている。出てきた建物は少し地面に埋まるような造りで、鎌倉とかこんな感じなのかなって具合に雪に埋もれていた。煙突からはたぶん暖炉の煙が上っている。出てきた扉の前は雪が溶かされ、その更に先は踏み固められて、いくつかの道が有った。
その中の一つ、出てきた建物の横に延びている道を指し、「あっちッス」とセンティさんが先導してくれる。
建物から少し離れた場所にトイレは建っていた。
「あー汲み取り式…そうだよなぁ。こんな山ん中じゃ水洗式な訳ないよなぁ」
建物の建っていた所は、開けた場所だけど明らかに山の中腹って感じの場所だった。下っていく道の先には針葉樹の林があって、その林を避けるように、うねうねと下り道が続いているのが見えた。近くに川の音も聞こえないし、水洗じゃなくても仕方ないよなぁ。
温かい便座が恋しいと思いつつ人心地ついて出ると、センティさんが少し離れて待ってくれていた。
「御継嗣様、手水場はこっちッス」
建物のすぐ脇の岩のところからチョロチョロと湯気の立った湧水が出ていて、そこにに瓶が置かれていた。その瓶の下の方に注ぎ口見たいなのがついていて、そこから出た水が建物の小さな扉の横の穴に流れ込むようになっている。あの扉、俺の寝てた部屋の向かいにあったヤツかな。
センティさんが注ぎ口をズラしてくれたので、そこで手を洗う。
「ぬっく!これ、温泉!?」
こんな寒い中で一度瓶に溜まってからでこれだと、元の温度かなり高いんじゃないか?
瓶を上から覗き込んで見ると、湧水、温泉はホントにチョロチョロとしか出ていなくて、それが目の細かい網を通して砂の敷き詰められた瓶の中に注がれていた。
「ビックリしたッスか~?」
センティさんがニコニコしながら聞いてくる。
「この砦の外の側の水場はここなんスけど、この魔法の瓶のお陰で熱過ぎる温泉の水が触れる位に冷えるんッスよ!」
「えっ!魔法、ですか?」
嬉しそうに胸を張るセンティさんに、ついキラキラとした目を向けてしまう。
流石異世界!やっぱ魔法とか有るんだ!ただの濾過装置かと思ったら、魔法の瓶!すげぇ!
「あ、えっと、魔法じゃなくって、ろかなんとかって言うらしいッス。すいません、魔法は嘘です。申し訳有りません!」
センティさんはスグに顔色を無くして最敬礼した。センティさんによく最敬礼されるなぁ。
「あはは。ですよね~!ちょっとワクワクしてしまいましたけど、大丈夫ですよ」
うん。センティさんがそんな真剣に謝る程のことじゃない。だって、魔法が有るなら、手水場なんて態々用意しなくても、水魔法とかでパァっと綺麗にできるもんな。
「魔法で解決って、夢ありますよね」
へらりと笑うと、センティさんは何故か「うっ」と言って胸を抑えた。そんなに罪悪感感じなくてもいいのに。しょうがない、話を変えよう。
「この流れてる先って、俺、僕のいた部屋の向かい側ですか?」
目線を扉の方に向けると、「ああ!」と頷かれた。
「そうッスね!あんま綺麗なとこじゃないんで外から回ったんスけど、興味有るんなら見てやって下さいっ」
そう言って、センティさんが小さな扉に取り付けられた閂を外して中へ招き入れようと振り返った時。
「おい。ヨーシュア様をどこに連れ込もうとしてんだ」
と、低い声と共に、センティさんの頭頂に拳骨が落とされた。
「――ッ、た、隊長っ」
目に涙を貯めて頭を抑えたセンティさんが、拳骨を落とした人が誰なのかを見て姿勢を質した。振り返るとイリヤスさんと初めて見る人が立っていた。篭手と脛当をつけた、多分三十代くらいの人だ。外国人の年齢ってよく分からないけど。イリヤスさんもつけている。外に出る時はつけるのかな。
「すいません。僕が気になっちゃって。入ったらダメなとこだったんでしょうか?」
俺のせいでセンティさんが怒られるのは申し訳ない。ここ、砦だとか言ってたし、部外者が好き勝手にウロウロしたらダメなんだろう。
「あ、いえ、ダメってんじゃなくて、ヨーシュア、様、が入るような場所じゃないんで」
イリヤスさんが慌てたように手を振って答える。
俺が入るような場所じゃないって、どんな場所?余計気になるじゃん。
首を傾げて見上げると、イリヤスさんは片手で顔を覆って天を仰いだ。背が高くて良いなあ。くそ、俺だって、まだ成長期だしあと二~三年したら!
「あー、その、そこは厨房裏になってまして、入ったとこには水瓶と井戸と薪置き場がある、です」
あぁ、裏方だから部外者が入るような場所じゃないってことか。なるほど。
「分かりました、すいません。僕が興味津々で見ていたから、センティさんが案内しようとしてくれただけなんです」
ぺこりと頭を下げると「いやいやいや、此方こそ狭い砦なもんですんません」と言いながら、イリヤスさんは後頭部に手を当ててお辞儀をしてきた。遭難してたのを助けて貰った立場でウロウロしようとした俺が悪いのに、申し訳ないなあ。
イリヤスさんは目を少し左右に泳がせて、それから、ついっと俺の目を見るので、俺も見つめ返す。何だ?
「あー、えーっと、貴方が倒れてた近くまで行くんですが、一緒に行きますか?」
そう言われて、思わずセンティさんを振り返る。
「御継嗣様が行かれるんなら、自分も一緒に行くッスよ」
ニカッと笑って頷いてくれた。
良かった。倒れてた場所は気になるけど、イリヤスさんももう一人の人も厳つくって、ちょっとどうしようかって思ってしまったから。
「お願いします」
イリヤスさんの方へ振り返って、そう答えた。
「直ぐそこなんだが、この辺に慣れてない方にはちょっと遠いかもしれねえんで、外套を着た方良いでしょう。センティ、ヨーシュア、様の外套のある場所分かるな?」
「はい!スグにとってきますッ」
イリヤスさんの言葉に、センティさんはさっき出てきた扉の方へ走って行った。
異世界二日目、出発地点の確認へ出発だ!
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次回も金曜日投稿予定です。