プロローグ
初めての投稿です。
最後まであらすじは決まっていますが、遅筆なので週一くらいで更新して行けたらと思っています。よろしくお願いします。
今年の冬は、例年にない寒波で何度も大雪が降った。
その日も、前夜からの雪が降りやまず、いつもの年なら景色がうっすらと白くなっただけで子供たちがはしゃぐその土地には珍しく、早朝には10センチまで積もっていた。
昼過ぎになり、半ば溶けかけた雪道を踏みしめながら、入試の終わったばかりの俺と佑人は、他の受験生と共に志望高の正門を出た。マスクの苦手な佑人は正門を出るや、すぐに外した。俺は少しでも温かくしたいので外さない。マスク一つで体感温度が2度は違う。
「間に合って良かったよね。まさか受験の日に大雪で電車遅れるなんてさ」
隣を歩いている佑人は白い息と共に言葉を吐き出した。
今日入試を受けに来たこの高校は、地元から電車で二十分程。雪で遅れることを見越して、余裕を持って受付け開始時間よりも普段なら一時間も早く着く筈の電車に乗ったのに、着いたのは受付終了予定時刻の十分前だった。電車の延着での遅れなら受験はさせて貰えるんだろうけれど、間に合ったお陰で焦らずに済んだ。
「だよなー。最初の予定より早い電車で行こうってユートが誘いに来た時は、めんどくせーって思ったけど」
「ハハ。よーちゃん、冬の朝苦手だもんね」
笑う佑人。俺は手袋に包まれた左手を振ってみせる。
「冬の朝が苦手ってか、夜中に冷え込むと喘息出るんじゃないかって、怖くてなかなか寝らんなくってさー」
そう言いながら、頭をかく。
小さい頃に何度も小児喘息の発作で入院したせいで、成長して丈夫になった今でも冬の夜が苦手だ。数年前に「もう大丈夫」と病院で太鼓判を貰ったものの、物心付いた頃から染み付いた寒い夜の不安は、拭いきれない。
「でさ、ユートは手応えどうだった?」
試験の手応えを尋ねると、佑人は目を細めた。
「んー。二回見直ししたから大丈夫だと思うけど、特待生狙いはどうかなぁ。よーちゃんは余裕?」
「ここの入試、五割解けたら合格って話だろ。よゆーよゆー。社会はともかく他の教科は七割は堅いぜ」
へらりと笑って答える。俺達二人の家庭教師をしてくれた姉ちゃんの期待を背負って特待生狙いの佑人と違い、俺は入学出来ればいいのだ。
「入学したら一緒に弓道部、約束だからな!」
「分かってるって」
俺が差し出した拳に佑人が拳を合わせる。幼なじみで親友の佑人とは、高校生になったら、学校見学の時に見た流鏑馬をする為に弓道部に入る約束だ。面接試験も卒なくすぐに終わったし、ポジティブに合格後のことを約束しあった。
それにしても今日はよく冷える。ロングジャケットを着てマフラーも手袋もしているのに、それでも貼るカイロも貼らないカイロも大活躍だ。俺と拳を合わせる時に、佑人のコートのポケットから貼らないカイロが落ちた。
「カイロ落としたぜ。と、ぅわっ」
足元に落ちたカイロを拾おうとして、足を滑らせてすっ転んでしまう。
「あーあぁ、滑っちゃった。縁起悪ー」
じゅくじゅくに泥と混ざりあった雪に足を取られて立ちにくい。佑人がクスクス笑いながら手を差し出してくれる。
「僕のカイロのせいでごめんね?でも、逆にこれで滑り納めってことで縁起良いんじゃない?」
「それ採用!」
苦笑いしながら、佑人の方に手を伸ばすが、更に滑ってまた転んでしまった。車道の縁まで落ちてしまい、隅に避けられていた雪が、ズボンの中にまで染み込んできて気持ち悪い。
「あーもう。七転八倒だわ」
手を伸ばしてくれた佑人と少し距離が離れてしまった。今度こそ立ち上がろうと雪の少ない部分に手をついた。その時。
「よーちゃん!」
佑人が叫んだ。
顔を上げると、真っ青な顔で右手を俺の方に伸ばす佑人が見えたのと同時に、車のクラクションが左から聞こえた。
顔をその場で横に向けると、目の前に白いボンネットが見え、その向こうにスマホを左耳に当てている男の顔が見えた。ドスンと重い衝撃に跳ね飛ばされる。
視界が真っ赤に染まるのと同時に、俺の意識は闇に飲み込まれた。