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青、そして  作者: 佐藤江間
3/4

休息と緊張。一味の信頼


 やっと解放された。チャイムが鳴ると同時に開放感が体を満たした。

結局あの後も羽奈と佑希は起きる気配すら見せず熟睡し、最終的にクラスの3分の2が魔法にかかってしまった。教壇に立つ先生も困ったように眉を顰めるが、いつもの事だと割り切り誰一人起こすことなく粛々と授業を進め切った。最後まで起きていた3分の生徒にはご褒美あることを願うばかりである。


 「お昼だ~!」


 「よ~寝た分めっちゃ腹減った」


 伸びをしながらそう宣う羽奈と佑希。佑希に至っては涎までついている。


 「ノート見せてやらんからな」


 最後まで罰を何にするか考えていたが、結局ノートを見せない事に落ち着いた。毎回見せているのだからたまには自分で書かせることも大事なことだ。決して八つ当たりなどではない。


 「ひどいなぁ。あんな魔法かからん方がおかしいって」


 「そうそう。起きてられる方がおかしいって」


 悪びれる様子もなく言う佑希。その横では羽奈も両手を組み大きく頷きながら同調している。二人があまりにも堂々としており、起きていたこっちがおかしいのかとすら思ってしまう。助けを求めようと梓を見ると、何言っても無駄だと諦めたようで、一人そそくさ準備を進めていた。


 「ほら、早くしないと食堂混んじゃうよ。羽奈、佑希も早く片付けて行くわよ」


 片づけを終わらせた梓がせかすように言う。俺も少し遅れて準備を終えて二人を待つ。


 「やっば。俊也が余計な事言うから~」


 役目を果たせなかった教科書が鞄に消えていく。案雑に入れられたせいで草臥れた表紙がはみ出ている。


 「俺のせいかよ」


 無駄とは思いつつも抗議する。


 「細かいことは気にするだけ損!早よ食堂行こ!」


 案の定、昼食の事で頭が一杯の羽奈には届かない。梓もかぶりを振って出口へ向かっていく。とにかく遅れないように移動する。

 

 俺達から少し遅れて佑希の準備が終わり、4人で教室から食堂まで移動する。弁当を作ってくることもあるのだが、ここの食堂は結構美味しい。折角美味しいご飯があるのだから弁当ではなく食堂を使う日があっても良いだろうという事になり、週に何度かある退屈な授業の後は皆で利用するようにしていた。

 食堂までの道すがらメニューを思い出しながら何を食べるか考えていると、空腹に耐えきれなくなった羽奈が紛らわすためか話しかけてくる。


 「今日は何にしよっかな~」


 「唐揚げ定食一択」


 「俺はカレー」


 「私は日替わり」


 各々がメニューの名前を告げる。ここの唐揚げどちらかというと竜田揚げだが、頑として唐揚げから表記を変えない。美味しいからどうでも良い事だが。


 「う~ん、悩むなぁ...日替わりにするかオムライスにするか」


 「それだったら私のと半分こしましょ」


 「それ、そうする!天才~」


 万事解決したと言わんばかりに、にんまりと笑う羽奈。


 「俺らも半分するか?」


 佑希がそんなこと御言ってくる。しかし綺麗に半分に分けた試しがない。


 「それ言って俺の唐揚げ欲しいだけやろ。そもそもどうやってカレー半分にすんねん」


 俺がそう言うとばれたといわんばかりに佑希が空笑いで誤魔化そうとしてくる。


 「それは、まぁ俺があ~んして食べさせたるから」


 空笑いしつつ蓮華を救うようなジェスチャーをしてくる。あまりにひどい絵面に悪寒が走る。


 「いらんわ!キモイ事言いよって、鳥肌立ったやんけ」


 思わず両手で体を摩る。腕を見ると真冬にグラウンドへ出た時よりも鳥肌が立っていた。どうしてくれるんやと佑希を睨みつけるが、何がそんなに面白いのか大口を開けて笑っている。何とかしてくれと梓に助けを求めるが、ご飯モードになった羽奈の相手で手一杯のようで気付いていない。その上羽奈の歩調に日木津られるようにして早歩きになっているものだから俺達と距離が空いている。


 「まぁまぁ、アイス買ったるから」


 自分が原因だというにも関わらず、火消しを行おうとする佑希。


 「チョコチップバニラな」


 ここでゴネても意味が無いので、ありがたく申し出を受ける。佑希にジュースを買おうと思っていたし丁度いい。


 「俺ら購買寄ってから行くから、先食堂行って席取っといて」


 少し離れた所でじゃれついている羽奈と梓にそう声をかける。羽奈は古文の授業で熟睡したおかげなのか元気が爆発している。ただ梓はぐったりとしており、傍から見れば羽奈に精気を吸われているようにしか見えない。もはや妖怪のそれだ。


 「りょ~かい!行こっ、梓」


 やっとこちらに気づいたのか振り返り、手を額に当て敬礼の真似事をする。解放され一息ついていた梓の手を握ると、そのまま駆け出し、階下へと消えて行った。廊下の遠くから梓の悲鳴が聞こえてくる。


 「事故らへんか?あれ」


 佑希が能天気に笑いながら聞いてくるが、実際かなり危なっかしい。誰か氏らが起こる目気だろうが、行ったところで大人しく聞くような性格であればそもそもやっていない。つまり梓には犠牲になってもらうしかない。


 「祈るしかない」


 無病息災。対して信じているわけでもない神様に祈る。流石の羽奈であっても一線は弁えていると思いたい。昔から危なっかしい奴ではあったが、多少は成長しているはずだ。


 「ぱっぱと買って、食堂行こーぜ」


 なんにせよ俺たちにできる事はなるべく短時間で食堂に行き、梓の負担をやわらげる事ぐらいしかない。


 「ジュース、何にするか決めたか?」


 一応聞いてみるがコーラしか飲まない。それも熱烈なペプシファンだ。


 「コーラ一択」


 悩む素振りすらなく即答してくる。ぺプシと言わないあたりにコカ・コーラの存在を認めないという意思を感じる。前にコカ・コーラとペプシの違いについて尋ねた事があるが、その時は据わった目で淡々と語られ後悔した。それ以降コーラと言えばペプシという共通認識が出来た。


 「さアイスも買おう。二人にばれへんようにな」

 

 「ばれたらなんで自分らだけって拗ねるぞ」


そう答えるが、俺も躊躇なくアイスバーを手に取る。


 「大丈夫しっかり拭いてから行けば、ばれへんばれへん」

 

 「そうそう」 


 アイスを片手に商品棚からそれぞれカルピスとコーラを取り出しレジへ向かう。お互いの購入物を交換し購買から出る。佑希はすぐにキャップを開け、冷えたコーラを喉に流し込む。


 「っあぁ~。生き返る!!」


 実に気持ちいい声を上げる。まるで仕事終わりのサラリーマンのようだ。アイスを舐めながらそんな感想を抱く。


 「おっさん臭いなぁ」


 「ペプシ飲めるならおっさんでいいわ」


 何度繰り返したかわからない、全く中身のないくだらない会話を続け食堂までの暇を潰す。グラウンドには既にご飯を食べ終えた同級生たちがサッカーに興じている。かなり白熱しているのか、校舎まで声が聞こえてくる。女子たちが目当ての男子を見ようと渡り廊下の窓に溜まり、時折声援を飛ばす。


 「青春してるねぇ~」


 自分には遠い空間だと言いたげに佑希が呟く。


 「俺から見たらお前も似たようなもんやぞ」


 腹立たしいことだが、佑希はバスケ部のエースとして女子から結構な人気がある。元々顔が整っている上に運動神経も良い。欠点を挙げるとすればおふざけが多いところだが、一緒にいて退屈しないと逆に人気を集めている。


 「まぁね。俺にはファンの子いっぱい居るから」


 本人も女子から人気があることは認めており、バスケ部の応援にまで来る熱心なファンもいる。羽奈や梓と試合の応援に行った時は、普段の佑希からは想像もつかない人気ぶりで驚いたものだ。ただ女子の目線を意識しすぎたのか、フリースローを二本とも外し、その後の打ち上げで散々弄り倒したのは別の話だ。


 「そろそろいかんと不味くね?」


 「思ったより寄り道してもーたし、やばいかも」


 賑やかな廊下を男二人で歩く。そろそろ食堂も混み始める頃合いだ。急がないと何をしていたんだと羽奈に怒られる。アイスを食っていたなど言えるはずもなく、早くいかなければ怪しまれる。

 佑希もそう思ったのか歩調を早めていく。ただ血気盛んな男子高校生の性か、坂を転がり落ちるボールが徐々に勢いを増すように、スピードが上がっていく。そしていつの間にかどちらが早く着くかを競う勝負へと変わる。すれ違う生徒にぶつからないよう気を付けつつ、教師に怒られないようルートを選びながら最短距離を進む。


 「こら、廊下を走るな」


 ただ、運悪く角を曲がった所で教室から出てきた人影に呼び止められた。佑希と二人で恐る恐る振り返ると、腕組みをした人物が立っている。


 「これには深い訳があるんよ、会長」

 

 「そうそう。だから怒るなって、会長。寛大な心でここは見逃してくれ」


 俺と佑希が弁明をしようと口を開くと、眼前の人物は溜息を吐き腕を解いた。


 「二人が怪我しようと構わんけど、人に迷惑はかけるなよ。後、会長って呼ぶな柳で良い」


 柳千尋は溜息を吐きながらで俺達にそう言う。生徒会会長という肩書がある以上、注意せずにはいられなかったのだろう。本人は会長と言われるのが嫌らしいが、堂々とした風格と本人の生真面目な性格からあまりにも似合いすぎるため皆会長と呼んでいる。


 「まぁいい。行くところがあるんやろ?さっさと行け。」


 「「は~い」」


 それだけを言うと柳は教室に戻って行った。一度怒られた手前走るわけにもいかず早歩きで食堂へと急ぐ。階段を下っている途中でスマホから通知音が鳴る。十中八九、羽奈からのメッセージだろう。俊也も梓からせかされているようで、スマホの画面を見せてくる。取り敢えずもう着くという旨のメッセージを送っておく。


 「早く来い、やって」


 「こっちも一緒。もう着くし大丈夫やろ」


 お互いに画面を見せ合うと全く同じ4文字が並んでいた。何を言っても面倒臭い事になるので返信を諦め通知が鳴りやまないスマホをポケットに直す。一定の間隔で振動するスマホ越しに羽奈の顔を思い浮かべ、弁明の言葉を思案するが良い言い訳が思い浮かばない。佑希は既に諦めたのか、俺に丸投げするつもりなのか、今日のカレーの辛さがどれくらいかを予想している。

 



 食堂の扉をくぐり二人の姿を探すと、奥の4人掛けテーブルにいるのが見えた。


 「売り切れたしまったのは仕方ないから、私と一緒に日替わり定食にしましょう。ね?」


 「うぅ、私のオムライス~…」


 なにやらぐずっている羽奈と、その横であやしている梓。


 「ごめん遅くなった。」


 とりあえず謝罪する。こういう時は真っすぐ謝るのが穏便に済む。手を合わせ軽く頭を下げる。


 「遅い!!オムライス売り切れちゃったじゃん」


 どうやら俺たちが遅れたせいで、お目当てだったメニューが売り切れてしまいへそを曲げているようで、こちらに目も合わせようとしない。先に買っておけば良い話だと思うのだが、一緒に買わなければ意味が無いという理屈で左記に買う事はしないらしい。昔から変なところでこだわりがある。


 「ほんま悪かった。急いでたら会長に捕まってしもたんよ」


 「そうそう。すぐ行こうとしたんやけどお説教されて逃げれんかったんや。」


 嘘を吐くのは心苦しいが道草を食って遅れたとは言えない雰囲気だった為会長を生贄にする。佑希も便乗し、参った参ったなどと嘯いている。


 (すまん会長、許してくれ)


 「…」


 不意に羽奈が黙り俺と佑希を交互に見つめると、不貞腐れたようにそっぽを向く。佑希と二人でいったいどうしたと首をかしげていると梓が黙って人差し指で自分の口元を指さす。

 俺と佑希はおそるおそる自分の口元を触ると、わずかに拭いきれていなかったアイスの欠片が指先に付く。途中で競争に夢中になってしまい、綺麗に拭けたか確認できていなかった。


 「詰めが甘いわよ」


 呆れた声で梓が言う。羽奈に聞こえないように小声だったのは梓なりの気遣いか、これ以上羽奈を刺激したくないという思いからか。おそらく両方だろう。梓が出してくれたティッシュを使い、急いで口元を拭う。

 いそいそと口元を拭いていると、羽奈にジトっと睨まれる。実際、羽奈が怒るのも当然と言えば当然だったため余計にばつが悪い。


 「…はぁ~、もういい。なんか買ってくる!」


 「ちょっと、羽奈!あんた機嫌取んなさいよ、俊也」


 「え、俺?」


 「頼んだぞ~」


 羽奈にしばらく睨みつけられていたが、俺たちが何も言わずにいると諦めたのか溜息を吐き席を立って食券機へと向っていった。つっけんどんになった羽奈を慌てて梓が羽奈を追いかける。居心地が悪く、思わず苦笑する。佑希と二人で立ち尽くし、どうやって機嫌を取ろうか頭を捻る。とりあえず、横で我関せずを貫いている佑希に肘鉄を食らわせておく。


 「痛っ。何すんねん」


 「…」


 肘打ちをしたが、バスケ部員として日々体をいじめている佑希の体にはあまりダメージが入った手ごたえが無い。実際佑希も口では痛がっているが微塵も痛そうにしていない。


 「元はと言えばお前の所為やろうが。アイス食べたいとかいうから」


 「俊也も食べたいって言ってたやろ。それに、羽奈が怒ってるんは実際俊也に原因有りやし」


 佑希の言う通り、すぐに行くといったのは自分だし、寄り道にも乗り気だった。先に買っておけと一言メッセージしておけば良かった事だ。その上自分達だけアイスを食べていたのがばれたのが決まり手だった。


 「はぁ~。どーしよ」


 「ま、頑張れ。それはそれとして俺らも昼飯買いに行くか」


 「そやな。考えるより先ずは腹ごしらえから」


 急いで食券機に向かい、効果投入口にお金を入れ安っぽい作りのボタンを押す。出てきた券を手に、4人が揃ったところでカウンターの列に並ぶ。ピークを少し過ぎたとはいえそれなりに人は並んでおり少し待ち時間がある。

 丁度いい感じに待機時間もあるし今のうちに謝ろう。善は急げだ。


 「悪かった羽奈。連絡入れてなくてごめん」


 目の前にある頭一つ分低い位置にあるつむじへと話しかける。ただ、それっきり二の句を紡げず黙りこくってしまう。これ以上は何を言っても逆効果なため何を言えばよいのかわまらない。

 ただひたすら気まずい空気に晒される。


 「…今度オムライス作って」


 視線を前に向けたままで羽奈がか細く呟く。


 「仲直りのオムライス。俊也のお母さんが作ってくれたやつ」


 そういえばそんなものもあったと思い出す。小学生の時は羽奈と遊ぶとゲームでどっちが悪いだの、いじわるすしてくるだのと、くだらない些細なことでよくケンカをしていた。そのあと二人で仲直りするきっかけを作れないでいると、母さんが決まって作ってくれた。許すための儀式のようなもなのだろうと理解する。


 「よろこんで」 


 そんなことで良いならいくらでも作ってやろう。いじらしくねだってくる羽奈が珍しく、隠し味に七味でも入れてやろうかと悪戯心がわいてくるが、余計にめんどくさいことになる事間違いなしなので次の機会に預けよう。

 そんなことを考えていると梓が羽奈の頭を撫でながら、良かったわね。なんて言っているのが聞こえてくる。それに答える羽奈の顔は俺の方からは見えずじまいだった。

大変お待たせいたしました。


第三話になります。

楽しんで頂けたようでしたら幸いです。


ふとした時に目に入るPV数の増加がとても嬉しいです。

不定期かつ稚拙にもかかわらず100人近くの方にお読み頂いており励みになっております。


惜しむらくは投稿スピードがあげれない事ですね。。。


そんなこんなで、また次話でお会いできることを願っております。

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