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第7話 菩薩院破魔子

菩薩院ぼさついん破魔子はまこと申します。本日はよろしくお願い致します」


野丸嘉彌仁のまるかみひとです」


蓬莱天女ほうらいあまめです! よろしくお願いします!」


 現在地は東京駅新幹線の乗り換え口である。先日おじさんから渡されたカテゴリ“D”の冊子に載っている案件の依頼をこなすため、甲信越地方のとある廃神社へ向かうこととなった。


 本当は僕一人の予定であったが、天女ちゃんもお手伝いしたいと言うので、一緒に行くことになった。案件の難易度は一番簡単な“”なので、まあ危険は少ないだろうし異世界に行って神正氣をたんまりと得たし、何より僕一人だとちょっと怖いので同行を許可した次第だ。


 更に昨日、おじさんから電話があり、菩薩院聖子さんの妹である破魔子さんと一緒に協力して事に当たってほしいと言われた。なんでも巫女様の推薦だそうだ。


 僕は二つ返事で了承した。理由は聖子さんについて聞きたい事があるのと、できれば菩薩院家の情報を少しでも得たいからだ。それに彼女は春から天女ちゃんと同じ妖聖学園に通うので、天女ちゃんと仲良くしてもらいたいという思惑がある。学校生活で困った時に助けてくれる友人がいれば、僕も安心できる。


 そんな訳で新幹線の乗り換え口で待ち合わせをして、いま軽く自己紹介を終えたところだ。今回はこの3人で廃神社へ向かう。目的地の県で一泊する予定で、霊管が取ってくれた旅館は温泉があり、食べ物が美味しいと評判の宿だそうで、今から楽しみだ。


 クロイモちゃんは超越神社でお留守番である。クロイモちゃんとは聖子さんが連れてきた黒いイモムシで、命名したのは天女ちゃんだ。


「それにしても本当にお姉ちゃんの言っていた通りとんでもない美少女ですね……」


破魔子はまこちゃんもとっても可愛いと思います!」


「……あなたに言われると嫌味に聞こえます」


「ほ、本当ですよ!とっても可愛いです!」


「……具体的に言うと?」


「クリクリっとした大きいな目に、セミロングのサラサラな黒髪がとても良く似合っています!」


「他には?」


「小さいお顔ときれいな肌、均整の取れた顔立ちがお人形さんみたいです。それからお召し物が可愛くてとってもセンスがいいと思います」


「ま、まあ、よく言われることですけど?」


「それからとっても強そうです!」


「フッ……。あなた中々見る目がありますね。そうです、私は可愛いだけでなく強いのですよ。それで野丸さんは?」


「……えっ?」


「野丸さんは私のことをどう思っているんですか?」


「……えっと、天女ちゃんと同じです」


「フッ……。それでは早速行きましょう。そうだ、売店でお菓子を買っていきましょうか」


 何だかこの子、ちょっとメンドくさそうだぞ。急に仕切りだしたし。


 菩薩院破魔子さんは上機嫌に天女ちゃんの手を取って改札口に入っていた。僕も続く。二人はもう仲良くなったようで、キャイキャイと売店で買い物をしている。彼女たちを見ていると、ふとアリエさんを思い出した。年の頃は彼女たちに近く1、2歳ほど上だろうか。


 先日、異世界へ生存報告に行った時、結局アリエさんには会えなかった。どうやら遠くまで僕を探しに行ったらしい。日帰りにすると決めていたので、イーオ様との面会の後すぐに日本へ戻った。


 最初は引き止められたが、向こうでやる事があるうんぬんかんぬんと言って説得した。帰り方を聞かれたので普通に、向こうに繋がっている鳥居という入り口を召喚して、そこから帰ると説明した。実演して欲しいとイーオ様が言ったので仕方なく教会の中庭を借りて、片隅に白い鳥居を召喚してみせた。興味があるというよりは、じっくり獲物を観察するような目つきだったな。


 次に来れるのはいつかとモンレさんから聞かれたが、2、3週間は先になりそうだと答えた。天女ちゃんの入学式を終えてからじっくり攻略しようと思うのでそれくらい先になるだろう。次に行く時までに“伝説の聖女”様が見つかっているといいな。


 出発まで時間があるので、僕も売店で駅弁を買い構内の店を冷やかして時間を潰した。


 時間になったので座席に着く。霊管が用意してくれた新幹線の券はなんとグリーン車である。しかも4席も。こちらは3人だが、片方の座席を回転させ3人が対面で目的地まで移動できるように配慮してくださったのだろう。ありがとうございます。








 座席についてから早速今回の依頼の内容について情報共有をした。お互い事前におじさんから説明を受けたが念のためだ。


 依頼の内容は廃神社に御座おわす御祭神に、別の神社に移動してもらう為に説得すること。


 通常、廃社した神社の祭神は近隣の神社などに合祀ごうしされるのが一般的だが、儀礼的な祭神ではなく、実在する場合は別の神社に移動していただくようだ。これは祀る者が居なくなると、神社が荒れ果て悪いモノを取り込んでしまい悪神となってしまう可能性があるからだそうだ。   


 ただ移動してもらうためには同意が必要らしい。外部の都合で強制的に引っ越しさせることはできない。これは人間と同じだ。この廃社は30年ほど前に廃村になった集落にあるもので、当時完全に廃村になる前に霊管が移動のお願いに伺ったらしいのだが、断られてしまったという。理由も教えてもらえず、定期的にお願いに向かっているのだが一向に了承してもらえる気配がないまま、かれこれ30年も経ってしまったわけだ。


 というわけで今回の任務は、この御祭神に別の神社への移動を了承してもらうこと。成功報酬は500万円。危険性は少ないとされている為、カテゴリ“D”の中では一番少ない金額だが、説得するに際してなにか条件を出されるかも知れないので、その内容によってはもっと金額をあげてくれるみたいだ。


「どのような御祭神なんでしょうね?」


 天女ちゃんがスティック型のお菓子の袋を開けながら尋ねた。


「元は村の境を守る神様だって聞いたけど」


道祖神どうそじんさえかみのようなものでしょうね。小さな集落の土着の神様にはよくあるタイプですよ」


「何故他の神社へ移って頂けないのでしょうか? 自分の生まれた土地は離れたくないのかな?」


「神様はだいたい郷土愛は強いですけど、理由を隠すのが引っかかりますね。まあ、そこは野丸さんの手腕に期待していますが」


「善処はするけど、菩薩院さんはそういう交渉事が得意だからこの案件を共同で受けようと思ったんじゃないの?」


「いえ、私はお姉ちゃんの事で野丸さんに個人的にお会いしたかったんです。そんな時にヤチコちゃんからこのお話を聞かされたので……」


「ヤチコちゃん?」


「巫女の五八千子いやちこちゃんの事です」


 ああ、巫女様か。この二人は友達だったのか。


「個人的にってお家は関係ないの?」


「はい。個人的に野丸さんの事を探りに来たんです。家の意向ではありません。まあ、野丸さんは菩薩院家でも話題になっていますから、その内ひいお祖母様がご挨拶に伺うと思います」


 っていうか堂々と探りに来たって言ったよ、この娘。


「そのひいお祖母様っていうのは、もしかして“桂花けいか”さんっていう名前?」


 巫女様から聞いた話だと、菩薩院家の当主でとんもない強い力を持っているという話だった。


「そうですよ。ひいお祖母様はこの界隈では超有名なんですけどね……。野丸さんは聞いていた通り本当に初心者なんですね。とても救世主とは思えません」


「……はは。僕自身もそう呼ばれることには抵抗があってね……」


「カミヒトさんはすごい人ですよ!」


「天女ちゃんがそう言うんですから、とりあえずは信じてあげます。それから特別に私のことを、破魔子ちゃんと呼べる権利も差し上げましょう」


「……どうもありがとう」


 この後は天女ちゃんを含めて飲み食いしながら3人で雑談をした。破魔子ちゃんからは軽く尋問されたが、大したことは聞かれなかった。僕も彼女に姉である聖子さんに丑の刻参りの標的にされていた事を知っているか聞いた。聖子さんによれば本気で呪う気はないから大丈夫らしいが、念のため確認しておきたかった。


 破魔子ちゃんは「ああ、よくあることですよ」と気にも止めていない様子だった。なんでも聖子さんが使った藁や五寸釘は、由緒ある場所で作ったり発掘した材料を元にして、由緒ある神社できちんとお清めをした神事でも使われるほどの一品であるから、それらを使った藁人形や五寸釘では万が一でも呪いなど発動しないということだった。


 っていうかそんな神聖な物をポーズだけとはいえ、呪いに使うなんて逆にバチが当たったりしないか?


「今まで変な事は起きていないから大丈夫ですよ」と何かある度に呪うふりをするのは昔からだそうで、こちらも気にしていない様子。姉妹二人が何事もなさそうにしているので、これ以上は僕も気にしなくていいかな。


 それから聖子さん本人についても聞いた。驚いた事に彼女は家では破魔子ちゃん以外の相手ではきちんとした対応をしているという。お祭りの時のあの清楚で礼儀正しい聖子さんだ。ただあの聖子さんは本人に言わせれば“裏の顔”であり“偽りの姿”だそうだ。


 僕と会うときも裏の顔でいてほしいなあ、なんてこぼしたら「それは絶対無理です。お姉ちゃんが素でいられる相手は貴重ですから」とにべもなく断言された。……はあ。


「でも聖子さんって()()なんですよね? 私も自分が妖怪であることは黙っているように言われましたから」


「僕も気になってたんだ。()()()()に関わらせていないんだよね? その存在すら知らないとか」


「……私もその事については何も知らされていないんです。両親やひいお祖母様からは、時が来れば話すとしか……」


 何だか深い理由がありそうだ。この話題はこれ以上続けても仕方がないから、降車駅まで適当な雑談をして過ごした。東京駅で買った駅弁は美味しかった。





 新幹線で90分程揺られて目的の駅についた。目的地へはここから車で一時間ほどかかるのでレンタカーで行く。少しドライブを楽しめるなと思ったが、あいにく天気は悪くどんより曇り空。天気予報では雨は降らないらしいが、念のため用意した雨具を取り出してリュックに入れる為、キャリーバックを開いた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 ……キャリーバックの空いたスペースに黒いイモムシが収まっていた。ピッチリとうまい具合にハマっている。一体いつ入り込んだんだろう。出かける前に玄関に居たのは確認したのだが……。


「あ、クロイモちゃん! 付いてきちゃったんですね!」


「あ゛あ゛あ゛」


 ……付いて来てしまったのは仕方がないが、破魔子ちゃんになんて説明しよう。そういえばクロイモは聖子さんが連れてきたな。


 もしかしたら破魔子ちゃんが何か知っているかも知れないと、彼女を方を向けば驚いた様子だった。


「それ……もしかして『コシラキ様』ですか!?」


 ん? なんぞコシラキ様って?

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