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第58話 超必殺技

EX(エクストラ)神術を使う意思を示した時、僕の体は超高密度の神正氣で満たされた。小さな銀河が自分の中にあるような、超エネルギーを感じる。何という万能感! まるで格ゲーの必殺技のゲージがMAXになったかのような全能感だ!


 いける! 


 ゼクターフォクターを倒し、白霊貴族はくりょうきぞくとなった住民を元に戻し、セルクルイスを浄化し、そしてシュウ君をこの悪魔から解放する! この全てを叶えられる!


 よし、ならば早速行動に移そう。まずはアリエさんとロゼットさん、地面で気を失っているモンレさん一同に結界を張る。ブオンという音と共に彼女たちの周囲に結界が現れ、突然出てきた結界に二人は何が起こったのか理解できず混乱している様だった。これで彼女たちの安全は確保できた。


「まだ悪あがきをするか」


 ゼクターフォクターは僕の仕業だとは気づいていない。さあ、コイツを倒す為にいくらか準備が必要だ。そのために使う神術はEX神術を含めて3つだ。周りにはゼクターフォクターの眷属にさせられた白霊貴族が大量にいる。彼らに邪魔されないように、空を飛ぶための神術を新しく作った。。


 僕は黄金に輝くドラゴニックババアを召喚する。神正氣で構成された神々しいドラゴニックババアは僕の肩を掴むと空高く舞い上がった。


「!!?」


 50メートル程の高さまで急上昇、眼下には驚いた様子のアリエさんやロゼットさんが見えた。この距離からでもクッキリとよく見える。今の僕はEX状態の為か、視力10.0以上有りそうだ。


 ゼクターフォクターの方は掌をこちらに向け、いきなり白いビームのような魔法を放ったが、結界に阻まれ僕に届くことはなかった。ノータイムで攻撃してくるなんて随分じゃないか。


「貴様は確かに殺したはずだ」


 底冷えするような低い声が耳に直接響く。ゼクターフォクターとは随分離れているから魔法的な何かを使ったのだろう。もしかしたら僕の声も届くのかな? だったら煽らせてもらおう。今僕は少し強気だぜ。


「あの程度で死ぬわけ無いじゃないですか。生死も確認せずに放置するなんて、北の公爵というのは随分と間抜けなんですね?」


「……貴様、何者だ?」


 返事が返ってきた。どうやら僕の声も届いているようだ。奴の声は若干苛立ちが混じっていた。煽りが効いているようで何よりだ。


「僕の背後のドラゴニックババアが見えませんか?」


 神術で作ったドラゴニックババアだから本物ではないんだけどね。


「ドラゴニックババア!? まさか、貴様、“伝説の何か”の眷属か!!?」


「ご名答です」


 僕は左手の掌を上に向け、そこに握りこぶし2つ分の空間を空け右手の掌を上に重ねた。掌と掌の間の空間に黄金色の神正氣が輝きを放つ。腕を右後方に引き、構える。掌に意識を集中し、神正氣を溜める。神正氣が増えるに連れ、輝きも強くなった。


「……っ!!」


 ゼクターフォクターは危険を感じたのか、再び攻撃しようと構えをみせた。右手には冥氣を左手には魔力を溜めている。先程のビームとは比べもにならない程のエネルギーが集うのを感じる。冥氣と魔力の合体技を使うようだ。


「私の方が早かったみたいだな」


 既に必殺技を使うエネルギーが溜まったみたいで、なんだかニヤリと笑っている雰囲気を感じる。自分が有利だと思っているのだろうが、残念、それは勘違いですよ。ここで予め仕込んでおいた2つ目のNEW神術を発動!


 ゼクターフォクターの真下の地面から金色の鎖が勢いよく出てきて、がんじがらめに捕縛する。“超必殺技”から逃げられないようにする足止め用の神術だ。足止めする方法はいくつか思いついたんだけど、鎖にしたのは意趣返しの為だ。隷縛れいばくの鎖には散々苦しめられたからな。


「なんだこれは!? くっ、こんなモノ……」


 さて、捕縛も完了したし、後はEX神術を発動できるまで神正氣を溜めるだけだ。EXというだけあって使用する神正氣が半端ではないのだ。発動までは後少し時間が掛かりそうだ。それでも既に溜まっている神正氣だけでも、ゼクターフォクターが慌てるには十分な量だった。


「待て! 私を殺せば他の公爵達が黙ってないぞ! いずれ冥府より貴様を殺しにやって来る! ただでは死ねん! ありとあらゆる拷問を施し時間を賭けてなぶるぞ!」


 鎖を解こうと藻掻いているが、全くビクともしていない。せっかく溜めた力も両腕の自由が効かないんじゃこちらに向け放つことも出来ない。金色の鎖を介してゼクターフォクターの焦りが伝わってくるぞ。月並みな脅し文句しか言えないくらい焦っている。ざまあ。


「それはあなたを殺さなくても同じことでしょう?」


「お、お前だけは見逃してやる! いや、そこの人間達もだ!」


「随分と焦ってますね。あなたにもう勝ちの目はないですよ? 高貴で完全な存在ならば、潔く死を受け入れたらどうです?」


「……っ! この魂がどうなってもいいのか!」


 ゼクターフォクターの左の顔がシュウ君になった。再びシュウ君の意識を表に出したようだ。彼を人質にするつもりだな。


「兄ちゃん! 俺の事はいいから、コイツをやっつけて!!」


 潰された左目が痛むのかとても苦しそうな表情。それでも力強い声で最後の気力を振り絞っていた。


「大丈夫。君は必ず助けるから。だからもうちょっと頑張って」


「バカが! この魂はすでに私の一部になっている! 我らを切り離すことは出来んのだ!」


「出来ますよ。あなただけ倒して彼を救うことが」


 それは既に山の神から煤子すすこ様を解放した時に履修済みだ。


「出来るものか! 既にこの魂は私に溶け込んでいる。これは不可逆な現象であり分離する事は不可能! それが可能など世の理に反することだ! そのような神業は我らが王でもカトリーヌでも出来ぬぞ!」


「すぐに証明してみせますよ。後少しです。ああ、それから僕はこう見えて神なんですよ。新米ですけどね」


「くっ……! わ、わかった。地上は諦める」


「あなたは偉大な王のために地上を支配しようとしているのですよね? だったら使命を放棄するくらいなら、死を恐れず最後まで抵抗したらどうです?」


 煽りに煽る。それくらいコイツには腹が立っているんだ。


「調子に乗るなあああ! 人間風情があああ!! 奴隷共! コイツを殺せ!!」


 ゼクターフォクターは中央広場に集っている何万もの白霊貴族たちに号令を出した。しかし彼らは一歩も動かない。僕を、いや黄金の光を見つめただ突っ立ているだけだ。良く見れば涙を出している人達もいる。そうだよね……悔しいよね。すぐに元に戻してあげるから、もうしばらく待っていてください。


「私の支配が解けているだと!? なぜだ!?」


 手の中で煌々と輝く黄金の光はセルクルイス全土を照らすほど強く大きくなっていた。神正氣、充填完了。


「終わりです」


「ま、待て!!」


「待たない。お前は絶対許さない」


 長かった戦いもこれで終わりだ。今こそ『囚われの魂』を解放する時!


 滅せよ! 白霊貴族!!


 喰らえ! 聖なる波動!!




「 お き よ め !!!」




 上空から浄化の波動が轟々と音を立て、一直線に放たれる。鎖に縛られ動けないゼクターフォクターはそれをまともに受けた。更におきよめ波は冥氣に侵されたこの地を穿つ。打ち込まれた地点を中心に黄金の浄化の光が広がっていった。


「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」


 シュウ君の体から白い男が出てきた。黄金の炎に包まれのたうち回っている。炎に焼かれているので詳しい風貌はわからないが、恐らく背が高く恰幅の良い中年の男だろう。のたうち回りながら体が徐々に削げ落ち、萎んでいく。


 浄化の光に触れた住民達は、体から冥氣が蒸気のように吹き出し、元の人間の姿へと戻った。気を失っているのかパタパタと倒れていく。セルクルイス全土に達した浄化の光は一層輝きを増し、天高く伸びていった。冥氣は完全に消えた。


「お゛の゛れ゛~~!! “伝説の何か”の眷属め! またしても……わたし……の……邪魔を……」


 ゼクターフォクターの体はもう無くなっており、分魂匣キューブと呼んでいた白い立方体だけが残っていた。やがてそれも消えて無くなった。




 ――ああ、憎い――




 虚空に声が響いたのを最後に、ゼクターフォクターの気配が完全に消えた。白霊貴族と化していた人達も全て元に戻ったようだ。


 天に伸びた光はまるで全てが終わったことを祝福するかのように大地へ降り注いだ。雪のようにふわふわと落ちる金色の光を見て、僕は今度こそ終わったんだと安堵した。


 ……終わった。


 神正氣を使い果たした疲労と張り詰めていた緊張の糸が切れた事で、僕はしばし魂が抜けたようにただその場に立っていた。


「兄ちゃん」


 シュウ君の声がした。そちらの方も見ると、ロゼットさんと並んでいて、その顔はとても幸せそう。しかしシュウくんとロゼットさんの体から光の粒子が出ており、宙に溶けていく。……ああ、これは煤子様が成仏したときと同じだ。


「……もしかして、お別れなのかな?」


「……うん。そうみたいだ」


 そんな気はしていた。でもひょっとしたら、彼らを浄化させればそのまま何事もなく生きられて、姉弟二人で仲良く暮らしていけるんじゃないかって淡い期待はしていた。


「この体、アイツに乗っ取られた時に死んじゃってさ。アイツが無理やり体も魂も現世に留めてたんだ。俺の体がなきゃ、アイツも現世に居られないからね」


「私もゼクターフォクターに殺されました。しかし、ゼクターフォクターは私を白霊貴族はくりょうきぞくにして利用するために、シュウと同じく現世に留めました。私達二人は既に死んでいるのです」


「でも2百年もアイツの力に抵抗できたのは“伝説のさといも”のおかげなんだ! 俺、アイツに乗っ取られてから記憶があんまり無いんだけど、アイツの計画が失敗してから森の奥深くで眠らされてさ。目覚めて兄ちゃんと会えたのは偶然じゃない。“伝説のさといも”が導いてくれたんだ!」


「“伝説のさといも”様がカミヒト様に出会えるように頑張ってくださいました。私達が初めて会った時のことを覚えていらっしゃいますか?」


 廃教会の前で見た後、僕の宿で枕元に立った時のことだ。あれは怖かったな。突然、首が後ろに捩れるんだもん。


「ええ、覚えています」


「あの時のカミヒト様の浄化の光で、私は僅かながら正気を戻す事ができました。そして“伝説のさといも”様の力を借りて、カミヒト様の気配を辿って行ったのです」


 向こうの世界で、超越神社のお祭が終わった夜のことだ。ロゼットさんが鎖に雁字搦めにされて、引っ張られていったのは本当に怖かった。


「あの時の警告のおかげで、僕は今ここにいるんですよ。おかげさまでみんなを助けることが出来ました。ありがとうございました」


「……私はお礼を言われるような大層なことはしていません」


「そのような事はありませんよ、ロゼット様。ロゼット様のおかげでゼクターフォクターの脅威からセルクルイスを守ることが出来たのです。カトリーヌ教の騎士として、1人の人間として深く感謝申し上げます」


 アリエさんがロゼットさんに最敬礼した。傷はすっかり治ってる。


「……ありがとうございます。私、白霊貴族に囚えられてから必死に抵抗しました。助けを求めても、私の姿は誰にも見えなくて、怖くて、苦しくて、1人でずっとお祈りをしていました。いつからか記憶も感覚も薄れていって、私という存在が消えかけていました。自分の無力さを嘆いていましたが、私でもお役に立つことが出来たのですね」


 ロゼットさんは堰を切ったように泣き出した。シュウ君が彼女に抱きつく。ロゼットさんが長い歳月を孤独に戦っていたのかと思うと、胸が苦しくなる。だからこそ、これから姉弟二人で幸せに生きてほしかったのだが……。


「姉ちゃん。姉ちゃんはすごい立派だよ! 英雄だよ! 聖女様だよ! それに比べて俺なんか何も出来なくて……」


「そんな事無いわ! シュウがお姉ちゃんの為に白霊貴族に立ち向かった時、本当にかっこよかったんだから。すごく頼もしかったわ」


「ええ、シュウ殿の気概は見事でした」


「……そうかな。姉ちゃん、青髪の姉ちゃん、ありがとう!」


 シュウ君は初めて会った時のように活発な少年らしくニカっと笑った。


「シュウ殿、ロゼット様はカトリーヌ教の聖女として既に崇められていますよ」


「ほんとに!? ほんとに姉ちゃんが聖女様!? さすが俺の自慢の姉ちゃんだ!」


「まさか……。私なんかが……」


 戸惑うロゼットさんの手を握り、ブンブンと振り回し喜ぶシュウ君達姉弟を見ていると微笑ましい気持ちになる。しかし彼らから出る光の粒子は多くなり、体が薄くなっている。


「……シュウ君」


「そろそろ時間みたいですね。カミヒト様、私達姉弟を救ってくださり、本当にありがとうございます」


「兄ちゃん、ありがとう! 俺、兄ちゃんに出会えてよかった!」


「僕もここに来て初めて会った人が君で良かったよ。それでもせっかく仲良くなったのに、これでお別れはとても残念だよ……」


「……俺ももっと生きたかったけど、しょうがないよ。でも、俺も姉ちゃんも後悔はないよ。兄ちゃん、これ」


 シュウ君が僕に差し出したのは何かの苗だった。


「それ、“伝説のさといも”からできた苗だぜ! きっと美味しくなるから大事に育ててよ!」


「……ありがとう」


 シュウ君とロゼットさんは仲良く手をつなぎ、僕とアリエさんに向かって一礼した。もう思い残すことはないのか彼らの魂はほどけ、光となって二人一緒に天に溶けていった。彼らはこの世界に還っていったのだ。最後は二人とも幸せそうな笑顔だった。


 来世でも二人は幸せになれますように。

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