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第50話 アリエの疑惑

「な、なにを!?」


 アリエさんが突然、シュウ君に斬りかかり、彼はドサッと大の字に地面に倒れた。僕は急いで彼の下へ行き、結界を張る。咄嗟に治癒の神術をかけようと手を構えた。


「うわ~、びっくりした~!」


「!!?」


 シュウ君が何事もなかったかのようにムックリと起き上がった。体には傷らしきものが何もない。豪快に袈裟斬りされたように見えたのだが……。アリエさんの方を覗えば、自身の黒い剣とシュウ君を何度も交互に見て、なんだか腑に落ちない様子。


「手応えがない……」


「いきなり何するんだよ!」


 抗議するシュウ君は、別段なんともなさそうだ。しかし念の為、確認しておこうか。


「体は大丈夫?」


「ああ、なんとも無い。おい! 青髪の姉ちゃん、なんか言えよ!」


 威勢よく声を上げるが、僕の後ろに隠れておっかなびっくりしている。


「アリエさん、説明をお願いします」


「すみません、もう一度斬らせてもらってもいいですか?」


「ダメに決まってるだろ!!」


「あの、説明を……」


 場合によってはアリエさんと戦闘が発生するかもしれない。そうなったらどうしよう。取り敢えずいつでも痺れ玉を打てる用意をしておく。


「……この結界は白霊貴族はくりょうきぞくの侵入を防ぐものです。カミヒト殿はモンレ殿から説明を受けたと思いますが」


「つまり、彼が白霊貴族ではないかと疑ったわけですか……」


「お、俺が白霊貴族なわけないだろ! 全然見た目が違うじゃんか! 姉ちゃん、カトリーヌ教の騎士なんだからそれくらい知ってるだろ!」


「しかし、この結界は……」


「とにかく、その剣を収めてください。後、彼に謝罪を」


 アリエさんは渋々と行った様子で剣の柄をカチャカチャといじると、柄から黒い玉を取った。するとブオンという音と共に刀身が消えた。


「それは……?」


「これは黒聖の霊光石です。私は青聖魔法しか使えませんからね。私は単独で行動する事も多いので、いざという時の為に各属性の霊光石を常に携帯しているのです。先程の刀身は黒聖で出来ていますから、白霊貴族のみ斬る事ができます。ですから白霊貴族でなければ斬られても問題ありません」


「だ、だからって、いきなり斬り付けられたらビックリするじゃんか! せめて確かめるなら事前に言ってくれよ」


「不意打ちでないと意味ないでしょう……。もし、あなたが白霊貴族だったらどうするのですか。しかし、斬り付けたことは謝罪します。結果的にあなたは違ったのですから。申し訳ありませんでした。ですが、私もカトリーヌ教の騎士として、少しでも住民の危機があれば、例えそれが乱暴な手段であっても対処せざるを得ないのです。どうかご理解を」


「ま、まあ、そういうことならいいけど……」


「ご理解いただきありがとうございます」


「白霊貴族の外観は全身が真っ白で目だけが赤く、きらびやかな衣装を身に付けて自我が無いと伺いましたが、それ以外の姿形の物も存在するんですか?」


「……地上に現れる白霊貴族は、そういった個体のみだと聞いています」


「それでは万が一を考えて彼を攻撃したわけですね」


「ええ。しかしシュウ殿は違ったようですね」


「当たり前だろ……」


「疑いは晴れてよかったんですけど、なんで彼は結界を通れないんでしょう?」


「さあ、そればかりは私にも……」


「この結界ポンコツなんじゃないか?」


「そんな事はありません! この結界を作った方は…………」


「アリエさん?」


 どうしたんだ? また急に考え込んだぞ。すごく微妙な顔をしている。その表情からは結界を作った人を擁護したいんだけど、擁護しきれないみたいな、心の葛藤を感じる。


「……まあ、何かしらの不備があったのかもしれません。後で上に報告しておきます。それよりもこのままではシュウ殿はセルクルイスに入れませんね」


「この結界はセルクルイス全体を包んでいるんですよね? 一時的に結界を解除したりとかはできませんか?」


「それは無理ですね」


 うーん。どうすればいいんだ。


「なあ、兄ちゃん。試しにそっち側から引っ張ってくれよ」


「結界の内側から? 意味ないと思うけど……」


「ものは試しだよ」


 僕は結界をバンバンと叩いているシュウ君の目の前に立ち、彼の手首を掴んだ。そのまま軽く引っぱってみる。すると何の手応えもなくスルッと結界の内側にシュウ君を入れることができた。


「入れた!」


「!!?」


 いけてしまった。なぜだかシュウ君を内側に招くことができてしまった。特別何かした訳じゃないんだけど……。


「カミヒト殿、一体何をしたのですか……?」


「いえ、僕はただ引っ張っただけで、何かをした覚えはないんですけど……」


 アリエさんはめちゃくちゃ混乱している。頭の上にいっぱいハテナマークが浮かんでいる。僕も同じだ。もしかして僕の神様パワーが働いたのだろうか。それ以外説明がつかないよなあ。


「よかった~。これで姉ちゃんに会える」


「やはり結界に欠陥が? すぐにでも報告したほうが良さそうですね……」


「とにかく考えるのは後にして、城門まで急ぎましょう」


 もうすぐ閉門する時間だ。間に合わなかったら、野宿をしなければいけなくなる。まだ夜は冷えるし、流石にそれはごめんだ。


「そうですね。でもその前に。シュウ殿失礼します」


「えっ!?」


 アリエさんはいつの間にか、黒い刀身の剣を出し、ブスリとシュウ君のお腹辺りを刺していた。黒い刀身は貫通していて背中から出ている。


「うわ~~!!」


 シュウ君は驚きのあまり尻餅をついた。


「やはり、手応えがない……」


「な、な、な、何するんだよ!」


 アリエさんはまだ疑いが晴れていないのか、再びシュウ君を攻撃した。かなり用心深い性格をしているな。


「……アリエさん、もう気はすみましたか?」


「ええ。シュウ殿、申し訳ありませんでした」


「俺、青髪の姉ちゃん嫌い……」








 閉門間際で、僕達はギリギリ城内へ入ることができた。シュウ君はアリエさんを相当警戒しているようで、ずっと僕の後ろに張り付いている。僕もアリエさんを警戒して5メートルほど距離を取っていた。彼女、素早い上に躊躇しない人だから怖いんだよ……。


 街の中に入る頃には、日は完全に沈んでいて、既に街灯が灯っている。乗合馬車は営業を終えているらしく、僕が泊まる予定の宿が近くにある中央広場までは歩いていくことにした。シュウ君は今夜は取り敢えず僕の宿に泊めようと思う。


 彼は街をキョロキョロと忙しなく見ている。


「なんか、俺の知ってるセルクルイスと少し違う……」


 僕とアリエさんは自然と目を合わせる。もし、彼が2百年前の人物であるなら、当然今のセルクルイスに違和感を覚えるだろう。街の建物の大部分が石造りやレンガ造りで、何百年も耐用年数があると思われるが、それでも2百年という年月があれば、街の様子はそれなりに様変わりしているんじゃなかろうか。街の人の服装や雰囲気などもだいぶ変わっていると思われる。2百年という年月は、我々人間にとってはとても長い。それ故、変化も著しいだろう。


 僕の中ではシュウ君は聖女ロゼット様の弟でほぼ確定しているのだが、彼にとってはここが2百年後の世界だという可能性と、彼の姉のロゼットさんが既に他界している事をいつ言おうか迷っている。ただ、今は言う時ではない。彼はとても不安そうにしていたし、記憶も混濁しているのでもう少し精神状態が落ち着くのを待つべきだろう。


 何にせよ、もっと情報を集めてからにしたほうがいいかな。この世界にも何かしらの紀年法があると思われるので、アリエさんとシュウ君の両者に後で確認してみようと思う。


 しばらく歩くと中央広場に着いた。もう夕食の時間なので、広場は外食を取る人達でそこそこ賑わっていたが、昼間に比べると人は圧倒的に少ない。


「カミヒト殿、こちらへ」


 アリエさんはどうやらシュウ君に聞かせたくない事があるらしく、彼から少し離れた所に僕を呼んだ。

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